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概 論

原生生物の世界
原生生物とは?/ 共生による多様化/ クロミスタ/
アルベオラータ/ その他の原生生物/ 原生生物の遺伝と進化/

原生生物とは?
 E. H. ヘッケル(1866, 1878, 1894)は、生物界をそれぞれ多細胞の後生的生物と単細胞の原生的生物(原生動物、原生植物)の2つのグループに分け、後者をプロチスタと呼んだ。その後、原生生物の定義は様々に変化したが、20世紀半ばになると電子顕微鏡が開発され、単細胞生物には原核生物と真核生物という細胞体制の著しく異なるものがいることがわかった。そのため、今日では原核生物(細菌類)を別グループ(モネラ)として除外し、単細胞の真核生物のみをプロチスタ(原生生物;Protista)と呼ぶようになった。
 とはいえ、真核生物の中には、細胞性粘菌のように生活史の中で単細胞と多細胞の両方の状態をとるものがいたり、緑藻類のように同じグループの中に単細胞と多細胞の両方の種がいたりする。単細胞であるか否かでは生物界を明瞭に区分できないのだ。そこで、単細胞の種を含んだ生物群の全体をプロトクチスタProtoctista)と呼ぶこともある。
(L. Margulis 1971, 1974; R. H. Whittaker & L. Margulis 1978;Protoctistaは J. Hogg (1866) が提唱し H. F. Copeland 1956が採用した;正式な改称は R. H. Whittaker & K. V. Schwartz 1982)

 このような分類上のあいまいさは、原生生物の中から多細胞生物が進化し、現在も両者の中間的存在が多数いることに起因している。また、原生生物の中には多細胞生物の祖先となったものばかりでなく独自の進化を遂げたものも多数含まれる。原生生物とはそのような多様な系統の集まりなのである。


共生による多様化
 原生生物の中には、ミトコンドリアも鞭毛もない微胞子虫や、ミトコンドリアをもたないカリオブラステア(ペロミクサ 注:ペロミクサの「鞭毛」は細胞体の末端にあり動かない。あくまで形態的に鞭毛様の構造にすぎないので、鞭毛はない、としてもいいかも知れない。 )、テトラマスティゴータレトルタモナス軸桿類トリコモナス超鞭毛虫))などがいる。これらは真核生物の祖先にミトコンドリアが共生する以前に分岐した系統と考えられるが、一部は寄生によってミトコンドリアを失った可能性もある。

 これら以外の原生生物はミトコンドリアの共生以後に進化したものである。光合成鞭毛虫(藻)であるミドリムシと寄生性のキネトプラスト(ねむり病の病原体トリパノソーマなど)は、一見まったく別のようにみえるが、厚い外皮や鞭毛の構造(paraxial rodが付属)が同じことや、分子系統学的証拠から共通祖先から進化したと推測される。

 ヘテロロボサ類(ネグレリア類、アクラシス菌)は、生活環の中に胞子・アメーバ細胞・鞭毛細胞の3つの時期があるのが特徴である。

 一方、子実体を形成する粘菌の仲間には、核分裂だけで細胞質分裂をせずに多核となる真正粘菌(=変形菌)と、集合して多細胞体となる細胞性粘菌などがいる。細胞性粘菌タマホコリカビなど)はアメーバ状の単細胞でバクテリアなどを食べて増殖するが、条件により集合して多細胞体となり子実体を形成する。

 原生生物の中には光合成をするものが多数いるが、そのすべてが初期の光合成細菌の共生(一次共生)に直接由来するわけではない。一次共生に由来するのは紅藻類や緑藻類など一部にすぎない。灰色植物は比較的最近になって藍色細菌を一次共生させたと思われる。残りの光合成真核生物は、一次共生によって生じた紅藻類緑藻類をさらに内部共生(二次共生)させたものと考えられる(次頁)。


クロミスタ
 クロミスタとは、鞭毛の側部に管状の小毛をもつ生物群で、多くは葉緑体をもつ。ただし、その葉緑体は2枚の葉緑体膜の外側にさらに2枚の膜があって、合計4枚の膜に包まれているのが特徴である。これは葉緑体をもつ他の真核生物(紅藻類や緑藻類など)が別の真核生物(鞭毛虫類)に内部共生(二次共生)した結果と考えられる。クロミスタには、緑藻類を除く鞭毛藻類、すなわち、クリプト藻ハプト藻不等毛藻類(ビコソエカ、ラフィド藻黄金色藻珪藻褐藻黄緑藻真正眼点藻)および、ラビリンチュラ卵菌サカゲツボカビが含まれる。
 クロミスタは光合成反応に関与する色素(クロロフィルa,b,cなど)・光合成産物・有走細胞の鞭毛の種類(羽根型・むち型・その他)・その本数などによって分類される(表 )。細胞壁は、キチン・グルカン・セルロースといった高等植物の細胞壁に似たものからできている。中には細胞壁を持たず、細胞膜外・膜の下部に珪酸または炭酸カルシウムからできた殻のような構造物を持ったもの(ハプト藻黄金色藻珪藻など)もいる。多くの場合、最外層は粘質でおおわれている。


アルベオラータ
 分子系統学の証拠から、渦鞭毛藻類繊毛虫類、および、 寄生性のアピコンプレクサ類マラリア原虫など)は共通の祖先生物から生じた生物群(アルベオラータAlveolata)であることが示唆されている。これらの3群は、形態・生態的に著しく異なるが、細胞膜直下にアルベオールとよばれる小胞をもつなど、いくつかの基本的な特徴が共通している。渦鞭毛藻類(オビムシ)はセルロース板でできた多数の殻板(thecal plate)をもつ。葉緑体は多様で一次共生(シアノバクテリア)、二次共生(紅藻緑藻)によるものばかりでなく、さらに上記のクロミスタ類( 珪藻クリプト藻ハプト藻黄金色藻)を共生(三次共生)させたものもいる。


その他の原生生物
 この他、葉状根足虫(アメーバ)、顆粒根足虫有孔虫)、有軸仮足虫襟鞭毛虫粘液胞子虫などがいる。

 大型・中型のアメーバはアメーバ・プロテウスなどのように自由生活をするが、小型のものには寄生性・病原性のものもいる。

 有殻アメーバと有孔虫は殻を持つ。有孔虫の殻は多種多様で、その化石だけでも20,000種を越える。殻は、炭酸カルシウム、珪酸からなる。多くの部屋からなり、殻の表面には、たくさんの孔があいていて、そこから軸足をだして運動や捕食を行なう。

 同様に、太陽虫放散虫アカンタリアパエオダリアポリキスティナ)は放射状に多数の柔らかい軸足を伸ばして移動や捕食を行なう。

 襟鞭毛虫類は、海綿動物の襟細胞と形態的によく似ている。変形動物やワムシにも襟鞭毛虫に似た細胞がみられる。これらの形態的な類似性と分子系統学のデータから襟鞭毛虫から多細胞動物が進化した可能性が示唆されている。

 一方、分子系統学的解析によれば、粘液胞子虫は三胚葉性の多細胞動物が退化したものであるという。


原生生物の遺伝と進化
 ヒトのからだを作る細胞は、組織によって多少形は違うもののその基本構造は変わらない。また、多細胞の動物や植物の間では種が違っても細胞の基本構造はほぼ同じである。そのため、多細胞生物だけをみているとつい細胞レベルは均一と考えがちだが、単細胞生物の世界では基本構造そのものが著しく変化に富んでいる。微胞子虫ランブル鞭毛虫のようにミトコンドリアをもたないものもいれば、多細胞生物には見られない様々なオルガネラをもつ生物がたくさんいる。また、高等動植物の核分裂様式は、核膜が消失したのち染色体が紡錘糸によって引っ張られる点ですべて共通だが、原生生物では核膜が消失しないものも多く、さまざまな方式で染色体の分離が起こる。
 現在までに研究されている原生生物はごくわずかであり、今後、より多くの原生生物が研究されればさらに多くの知見が得られるにちがいない。これまでにも原生生物の研究から様々な新分野が生まれている。古くは細胞内共生細菌の発見から始まる細胞質遺伝の研究がある。近年ではRNAにも酵素作用があるというリボザイムの研究、ガンや老化との関連が指摘されている染色体末端粒(テロメア; telomere)の研究などが有名である。

 原生生物の遺伝様式について知られているのはごくわずかである。その多くは独特なものだが、なかには、繊毛虫のように多細胞動物の遺伝様式によく似たものもいる。繊毛虫は、一つの細胞のなかに栄養核(大核; macronucleus)と生殖核(小核; micronucleus)という機能的に異なる核をもつが、これは動物の体細胞と生殖細胞の分化に相当する。そして、繊毛虫には接合型と呼ばれる性の違いがある。異なる接合型の細胞は外見上は区別できないが、性の異なるものが出会うと細胞どうしが接着し、減数分裂と受精が起こる。接合の際、旧い大核は消滅し、受精した核から新たに小核と大核が形成され子孫となる。接合後しばらくの間は有性生殖能がないが(未熟期)、細胞分裂を繰り返すと成熟し接合できるようになる。これも動物とよく似ている。接合せずに分裂を続けるとやがて我々と同じように老化し死滅する(クローン死)。

 原生生物の分類および進化に関しても、従来は漠然とした部分が多かったが、近年分子レベルの研究が進んだことにより、次第に明瞭になってきた。そして研究が進めば進むほど、原生生物の世界は予想以上に多様で複雑であることがわかってきた。その特徴のひとつがこれまでみてきたように細胞内共生がいたるところで起きている、そして現在も起きつつある、ということである。従来、多細胞生物(とくに動物)を中心にした進化学では二分岐的な進化により生物界は多様性を増してきた、と考えられてきたが、原生生物の世界ではそれとは逆の融合(共生進化)による多様性の増大が重要な役割を果たしているのである。


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このデータベースは,総合研究大学院大学 共同研究「生物形態資料画像データベースの構築」 (研究計画3年,1997-1999),および, 平成9年度科学技術振興調整費による 知的基盤整備推進制度採択課題 「生物系研究資材のデータベース化及びネットワークシステム構築のための基盤的研究開発」 (研究計画5年,1997-2001)に参加しています。 また,このデータベースは科研費( 試験研究B 課題番号 07558052)の補助を受けました。