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2010.06.26, Part XII

葉山山頂湿原(御田代)〜奥の院・大朝日岳分岐〜昭和堰分岐〜山を降りる

葉山山頂湿原(御田代),細長い水たまり,これは池塘だろうか?(長井市),13:42
1,2枚目:奥(というか北側)に進むと,同じように細長い水路というか溝があった。 ここも先の部分は池塘らしい雰囲気だったが,手前は,なんとなく人為的に掘削された跡のように見える。 だとすれば,どうしてこのような形にしたのだろうか?なんとも不思議だ。 ここに到達する前にあったいくつかの堰(というか水路)を開削した頃に,この辺も人の手が加えられたのかも知れない。

注:木道跡の可能性も否定はできないが,溝が池塘とつながっているのがおかしい。 普通,木道は池塘の周辺に敷設されることはあっても,池塘に直結する形で敷設されることはないからだ。
考えられるのは,ここを耕作地として利用するために,湿地の水抜きをするために水路を開削した可能性だ。 この葉山登山道は,戦国時代末期に「朝日軍道」の一部として整備され,多くの人や軍馬が行き来したという。 また,上記のように,朝日軍道の後も,農業用水の水源地として開発・利用されてきたようなので, かつてはこの周辺で人が生活していたとしても不思議ではない。 堀を作って湿原の水位を下げ,耕作地として開墾された時期があったのかも知れない。 ちなみに,私の地元,栃木県にある 沼原湿原(標高はちょうどここと同じ,約1230m)では,戦前,馬の水飲み場として開削され利用された跡が今も残っている。
この他,高層湿原にみられる帯状の凹凸(凹部をシュレンケ,凸部をケルミというらしい)の可能性もある。 しかし,溝の周囲が帯状に盛り上がっていない(=ケルミが不明瞭)ので,よくわからない。

葉山山頂湿原(御田代),ひとまず採集(長井市),13:43
ここで採集(葉山 山頂湿原-3)
観察された生物: 渦鞭毛虫の一種, ミドリムシ(Euglena mutabilis), ペラネマ(Peranema), ディフルギア( Difflugia sp. ほぼ球形), カエネア(Chaenea), ミクロトラクス(Microthorax), オフリディウム(Ophrydium), キルトロフォシス(Cyrtolophosis), 珪藻各種, ボツリオコッカス(Botryococcus braunii), ゲミネルラ(Geminella), ヒザオリ(Mougeotia), ウネリマクラ(Docidium undulatum), ミカヅキモ(C. acutum), ツヅミモ( Cosmarium cucurbita), ホシガタモ( Staurastrum brachiatumS. wandae), ハタヒモ( Netrium digitus多数, N. oblongum多数), タテブエモ(Penium polymorphum), Bambusina brebissonii, 未同定のクロロコックム類, クロオコッカス(Chroococcus turgidus), ユレモ(Oscillatoria), ラブドデルマ(Rhabdoderma lineare), ミジンコ(Sida sp.),

葉山山頂湿原(御田代),溝の先にある池塘らしき場所(長井市),13:43-13:44
1枚目:溝に沿って進むと・・・。 2枚目:ミツガシワMenyanthes trifoliata)が育つ池塘らしき場所があった。

葉山山頂湿原(御田代),池塘らしき場所(長井市),13:44
ここで採集(葉山 山頂湿原-4)。 他で見る池塘と比べて水際の境界がはっきりしない。 やや怪しい。
観察された生物: 渦鞭毛虫の一種, カリキモナス(Calycimonas physaloides), ディフルギア( Difflugia oblonga), アミカムリ(Nebela sp.), ラッパムシ(Stentor sp. 小型,大核1個,細胞質黄色,共生藻無し), プロロドン(Prorodon sp.), オフリディウム(Ophrydium), 共生藻を持つチラキディウム(Thylakidium), モナス(Monas sp.), Chlorobotrys, 珪藻各種, オーキスチス( Oocystis marsonii), ボツリオコッカス( Botryococcus braunii), ゲミネルラ(Geminella), サヤミドロ(Oedogonium), ブルボケーテ(Bulbochaete), ミクロタムニオン(Microthamnion), 未同定の緑藻類?(クンショウモに似た配置,やや平板状?の群体,細胞も平板状だが,外側に向ってギザギザ,ピレノイドが無い?)初観察, コウガイチリモ( Pleurotaenium minutum), カメガシラモ(Tetmemorus laevis), ウネリマクラ(Docidium undulatum), ツヅミモ( Cosmarium bioculatum?, C. globosumC. oblongum長め), ホシガタモ( Staurastrum brachiatumS. hystrixS. trihedrale 初観察S. wandae), 未同定のホシガタモ, タテブエモ(Penium polymorphum), ハタヒモ( Netrium digitus多数, N. oblongum多数), Sphaerozosma, クロオコッカス( Chroococcus pallidusC. turgidus), シネココッカス(Synechococcus), ワムシ, クマムシ,

葉山山頂湿原(御田代),その先にある横長の池塘?(長井市),13:45
さらに奥へ進むと,このようなミツガシワMenyanthes trifoliata)が点在する場所があった。 形はややおかしいが,水際はくっきりして,深く落ち込んでいる。 いかにも池塘らしい。

葉山山頂湿原(御田代),ここでも採集,池端は深く落ち込んでいる(長井市),13:45
ここで採集(葉山 山頂湿原-5)。 さきほどの場所と比べて,水際がくっきりしている。 ピペットを差し込むと水際はかなり深く落ち込んでいるのがわかった。 ここはあきらかに池塘だろう。
観察された生物: カリキモナス(Calycimonas physaloides), コクリオポディウム(Cochliopodium), ナベカムリ(Arcella vulgaris, フセツボカムリ( Centropyxis aculeataCentropyxis sp.), ディフルギア( Difflugia sp. ほぼ球形), ディプロフリス(Diplophrys sp.), ラッパムシ(Stentor sp. 小型,大核1個,細胞質黄色,共生藻無し), トラケリウス(Trachelius), リトノタス(Litonotus dusarti ?), 小型フロントニア(Frontonia), クレイェラ(Kreyella musicola), クリスチゲラ(Cristigera phoenix), キルトロフォシス(Cyrtolophosis), 小型繊毛虫数種, Chlorobotrys, イカダモ(Scenedesmus), オーキスチス(Oocystis marsonii), ボツリオコッカス(Botryococcus braunii), サヤミドロ(Oedogonium), ウネリマクラ(Docidium undulatum), カメガシラモ(Tetmemorus laevis), ミカヅキモ(Closterium idiosporum), ツヅミモ( Cosmarium bioculatum?, C. globosum), ホシガタモ( Staurastrum brachiatumS. hystrixS. zonatum), 未同定のホシガタモ, ハタヒモ( Netrium digitus多数, N. oblongum多数), クロオコッカス(Chroococcus), シネココッカス(Synechococcus), ワムシ, ミジンコ, ケンミジンコ, イタチムシ,

以上のような結果となった。 この葉山山頂湿原(御田代)の特徴は,通常は高地の湿原に多い大形の接合藻類が少ないということだ。 目立ったのはハタヒモ(Netrium)の2種(N. digitus, N. oblongumのみ。 大型のミカヅキモや,イボマタモ,アワセオオギなどはまったく見当たらない。 しかし,そうかといって平地にいる原生生物が多い訳ではなく,クロロコックム類ではイカダモとオーキスティスがわずかにいた程度。 総数(種数)もさほど多くはないが,かといって少ない訳でもない。 また,他ではこれまで見たことがない原生生物も2種ほど観察できた。 やはり高地にある湿原らしい特徴を持つといえるが,接合藻が少ないのは,以下のように, ここが湿原としてはそれほど古くからある訳ではないことを反映しているのかも知れない。 あるいは,既述したように,過去に様々な形で人為の影響を受けた結果を表わしている可能性もある。 とくに池塘に続く水路のような場所があるが,これにより湿原から水が流れ出しやすくなり,原生生物の多くが流出して種数が減っているのかも知れない。

他にも池塘らしき場所があったように思うが,あまりあちこち動き回るのは好ましくないので,早々に湿原を出た。 小さな白い花が咲いていたが,花の撮影をする余裕無し。 既述したように,池端には結構な数のモウセンゴケが育っていた。 他は何度も出て来たミツガシワが目立った程度。 画像でわかるようにコバイケイソウなどはまったく目に入らなかった。 草花はあまり豊かではないようだ。 それもあってこの湿原を訪れる人はあまりいないのかも知れない。 しかし,同じ方向に細長い溝が何本もあったのが,やはり気になる。 上述のように,昔はかなり人為的な影響を受けていたのかも知れない。
注:あるHP によると,戦後間もない頃まで田植え後に,ここに稲を植えて豊作を祈願する神事が行われていたという。 ただし,この溝がそのために作られたものか,それとは別の目的で作られたものかは不明。 なお,そのHPによると,ここの泥炭層の厚さは約120cmで,湿原の形成が始まったのは1200年以上前と推定されているらしい。 湿原としてはそれほど古くはない?

湿原を出て先へ進む(長井市),13:48
国土地理院の地図を見ると,この葉山神社近くにある湿原を含めて,葉山山頂周辺には計3ケ所に湿原,ないし,湿地があるように描かれている。 残りの2つは,この先にある「奥の院・大朝日岳」分岐(注)と書かれたY字路からそれぞれの方向に1ケ所ずつあるらしい。 距離的には大朝日岳方面(正しくは愛染峠方面)に向う途中にある湿原(湿地)の方が近いのだが, 事前にネットで調べたところ,奥の院方面(正しくはこちらが大朝日岳方面)にある湿原にはミツガシワが生えているという情報を得ていた。 また,さきほどの葉山神社近くの湿原(御田代)には水辺がない,という別の情報もあったので(実際には違ったが), 「もし,葉山神社近くの湿原で採集できなかったら,奥の院方面にある湿原へ行ってみよう。 ミツガシワが生えていれば,水辺があるはずだから」と考えていた。
そのため,すでに予定を大幅に過ぎているので, 時間的制約を考慮すれば,大朝日岳方面(正しくは愛染峠方面)にある湿原を目指すべきだったのだが, 上記のように考えていたため,そのまま奥の院方面(正しくは大朝日岳方面)へ向うことにした。 この頃は時間の間隔がだいぶわからなくなっていたというか,混乱していたようだ。

注:この分岐名がおかしいことに後で気づいた。詳しくは下記参照。

分岐があった,ここが奥の院・大朝日岳分岐?(現在地の確認, 長井市),13:49

右へ進むべきだった・・・(長井市),13:49
1,2枚目:道標に近付いてパノラマ撮影。 1枚目:道標を見ると,左は「奥の院」,右は「中沢峰(注)・大朝日岳」への分岐,と書いてあるように思えるが,,。 後日,国土地理院の地図で調べると,「中沢峰・大朝日岳」方面は右ではなく,左だった。 右(2枚目)は,先に紹介した愛染峠へ降りていく道だ。 また,奥の院(標高 1237 m)は中沢峰・大朝日岳方面へ向う途中にあり,この周辺でもっとも標高の高い地点, すなわち,葉山の山頂だ(湿原付近とは7mほどしか違わないが)。
以上のことから,本来は奥の院への分岐に設置すべきこの道標が誤ってここに設置されたと思われる。 よく見ると,「中沢峰・大朝日岳」方向を示す赤い矢印の部分が剥がされて逆向きに貼付けられている。 おそらく,この間違いに気づいた人が矢印だけでも正しい方向に直そうとしたのだろう。

注:画像からは「□沢峰」としか読み取れないが,近くにある「沢峰」がついた山は「中沢峰」(標高 1343.3 m)しか見当たらない。 また,中沢峰の先に御影森山(標高 1533.9 m),平岩山(標高 1609.0 m)を経由して大朝日岳(標高 1870.3 m)がある。

坂を下り,やがてまた坂を上がる(長井市),13:53-13:55
1〜3枚目:この辺は下り。10ないし15mほどを下る。 4枚目:ここからは上り。

昭和堰の分岐があった(長井市),13:56

昭和堰の分岐,地図を見て湿原はまだまだ先であることを確認(長井市),13:56
1,2枚目:分岐前で左前をパノラマ撮影。 1枚目:往路で「昭和堰入口」(12:48通過,標高1100 m)という所を通過したが, 昭和堰沿いの道は近くにある標高1201.2mの小ピークを右に迂回して,ここへ出るらしい。 ネット上にある情報では,さきほどの奥の院は,この道の先にあるようだ。 すなわち,ここが奥の院への分岐であり,途中に昭和堰沿いの道の合流点がある,ということだろう。 さきほどの「奥の院・大朝日岳分岐」を示す道標は正しくはここに設置すべきだったはず。 設置する際,「←昭和堰」という標柱があるのでここではないと勘違いしてしまったのかも。

さて,それはともかく,この時点で,さきほどの湿原を出てから(13:48),すでに8分が経過した。 ここで地図を見ると,この先にある湿原(または湿地)はまだまだ先で,このぶんだと,あと10分以上かかりそうだ。 となると,片道18分,往復で36分,湿原での滞在時間も考えると,40,50分近くかかってしまいそうだ。 すでに予定をかなり過ぎていることは自覚していたので,さすがにこれ以上進むのはまずいと考えた。 幸い,さきほどの湿原で採集ができたので,とりあえずはそれでよしとして,ここでUターンすることにした。

引き返す(長井市),14:00

愛染峠・大朝日岳分岐まで戻る(長井市),14:03

ぬかるみを越える(長井市),14:04

葉山神社・葉山山荘まで戻った(現在地の確認, 長井市),14:05

今からなら復路の新幹線に間に合うかも,と考えてすぐに下山(長井市),14:05
既述したように,当初の予定では13:00前後に山を降り始めることにしていた。 ただし,その場合,1時間程度の余裕を持たせてあったはずなので,1時間程度の遅れならギリギリ復路の電車に間に合うと考えていた。 現在,14:05。ということで今なら間に合うと考え,休憩せずに即,山を降りることにした。
しかし,それは勘違いだった。実際は,間に合う時間を過ぎていた(注)。

注: 当初の予定だと,往路が2時間半,復路が2時間(ガイドブックのデータのまま),これに湿原での滞在時間を約30分程度として, 全体でおおよそ5時間程度。実際はそれより遅れるとしても最大1時間をプラスして,トータル6時間を見積もっていた。
とすると,約その半分の3時間が折り返し時間で,スタートが10:20頃だとすると,13:20頃が中間点になる。 ただし,下りは上りより時間がかからないとみて,多少余裕をみて,14:00頃までなら, 上記のように,復路の電車(長井駅16:22発)に間に合うと漠然と考えていた。
しかし,登山口から葉山神社に上がるのに,実際は3時間以上かかっている (今回のコースタイムのまとめ)。 なのに復路が下りとはいえ,2時間で降りられるはずはなかった(実際にかかったのは2時間55分,およそ3時間で 上り,3時間18分とあまり差がない。もともと私は下りに弱いので,いつも上りと下りの時間はあまり変わらない。 なので上り2時間半,下り2時間という当初の設定じたいが間違っていた,注2)。 また,その後,タクシーを呼んで駅へ戻る時間も正味の移動時間(15分)しかかからないと甘く考えていた (実際は登山口で若干待たされた)。 よって,14:00に下り始めたのでは復路の電車(長井駅16:22発)に間に合うはずはなかった。

注2:正確には,ガイドブックでは葉山神社→大石大明神が2時間としてあった。 この区間は,私の場合,2時間40分かかっている。 大石大明神と登山口の間は当初の予定ではタクシーで移動するつもりだったが, 実際には歩くことになったので,それだけでも,当初見積もりを20分程度オーバーしていた。

白兎登山道分岐まで戻った(長井市),14:07

急傾斜を下っていく(長井市),14:14

途中歩きながらアンパンを半分食べる(長井市),14:17
やや空腹感を感じたので,ここで軽く食事をしておくことにした。

傾斜はきつくなったり,ゆるくなったり(長井市),14:24-14:26

急傾斜を下っていく(長井市),14:26-14:27

急傾斜を下っていく(長井市),14:27

Part XIII: 葉山登山道を下る(〜おけさぼり展望台分岐)
2010.06.26, 14:28 - 15:37