長井市/白鷹町
長井葉山 山頂湿原
(御田代)
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長井葉山(あるいはたんに葉山,標高 1237m)は,朝日連峰の平岩山(標高 1609.0m)の南東尾根の末端に位置するが, 山頂近くに湿原(標高 約1220m)がある(注)。湿原はさほど広くはないが,中心部に池塘がいくつかある。
葉山山頂へ向う登山道は長井市からが3本,白鷹町からは1本,白鷹町と朝日町の境となっている稜線沿いを辿るルートが1本と計5本ある。 私は長井駅(山形鉄道フラワー長井線)近くにある草岡登山口から山頂へ向った。 この草岡ルートは,直江兼続が開削した朝日軍道(山岳縦貫路,全長 65km)の一部を辿る。 山頂までは,かなりの標高差(約900m)があるが,軍馬が通れるように傾斜が急な場所は数多くの九十九折り (屈曲点を数えたところ計25箇所あった)になっている。 そのため,膝に負担をかけることなく登り降りすることができた。
観察された原生生物名一覧(現在 81 種)
注:国土地理院の地図によると,葉山山頂および山頂湿原は,長井市と白鷹町の境界線上にある。

採集日:2010.06.26 ウオッちず で位置確認

葉山山頂湿原(御田代),入口はぬかるんでいた(長井市),13:38

葉山山頂湿原(御田代),入口を入ったところでパノラマ撮影(長井市),13:39
ここからは池塘らしきものは見えないが,よく見ると所々に溝のような場所がある。 前方にかすかに踏跡が続いていた。これにしたがい進んでみる。

葉山山頂湿原(御田代),踏跡を少し進んで再度パノラマ撮影(長井市),13:39
少し進むと,溝のような場所がはっきり見えて来た。そしてその先(3枚目)には, ミツガシワMenyanthes trifoliata)が育つ池塘らしき場所もあった。

葉山山頂湿原(御田代),水路のようにも見えるが,その先には池塘らしき場所もあった(長井市),13:40
1〜3枚目:さらに近付いてパノラマ撮影。 手前だけでなく奥にも似たような細長い溝というか,一部池塘らしき場所があるのが見えた。 ただし,ここから先は踏跡もはっきりしない。 奥まで進むのは気がひけたが,採集しない訳にもいかないので,なるべる足数を少なく, モウセンゴケ等を踏み付けないよう注意しつつ進んだ。 また,池塘の周囲は足が潜ってしまうかも知れないので,なるべく池塘から離れた位置を移動し, 池塘に近付くのは最小限に留めた。

葉山山頂湿原(御田代),水路のように見える場所で採集(長井市),13:41
ここで採集(葉山 山頂湿原-1)
観察された生物: 渦鞭毛虫の一種, クリプトモナス(Cryptomonas sp.), ミドリムシ(Euglena mutabilis), ペラネマ(Peranema), 小型鞭毛虫数種, 未同定のアメーバ, ディフルギア( Difflugia oblongaDifflugia sp. ほぼ球形), ヒアロスフェニア(Hyalosphenia papilio,ただし孔が7つ), プロロドン(Prorodon sp.), ミクロトラクス(Microthorax), レンバディオン(Lembadion lucens), 共生藻を持つコルポダ(Colpoda), 共生藻を持つチラキディウム(Thylakidium), 珪藻各種, イカダモ(Scenedesmus), オーキスチス(Oocystis)??, ボツリオコッカス( Botryococcus brauniiB. sudetica), ミクロスポラ(Microspora), ヒザオリ2種(Mougeotia), コウガイチリモ( Pleurotaenium minutum), カメガシラモ(Tetmemorus laevis), ウネリマクラ(Docidium undulatum), ミカヅキモ(C. acutum), ツヅミモ( Cosmarium globosumC. oblongum長め), ホシガタモ( Staurastrum hystrixS. wandae), タテブエモ(Penium polymorphum), ハタヒモ( Netrium digitus多数, N. oblongum多数), メソテニウム(Mesotaenium macrococcum), Bambusina brebissonii, クロオコッカス(Chroococcus turgidus), シネココッカス(Synechococcus), ラブドデルマ(Rhabdoderma lineare), ケンミジンコ, イタチムシ,

葉山山頂湿原(御田代),その先のやや池塘らしく見える場所でも採集(長井市),13:41-13:42
ここで採集(葉山 山頂湿原-2)。 画像左上に写っているミツガシワMenyanthes trifoliata)はすでに実をつけている。 しかし,ここのミツガシワは葉が小さめだ。 先日(2010.6.13)訪れた矢ノ原湿原のミツガシワとは大違い。 これでも同じ種なのだろうか?
観察された生物: カリキモナス(Calycimonas physaloides), トゲフセツボカムリ( Centropyxis aculeataC. ecornis), ディフルギア( Difflugia penardi), アンフィトレマ(Amphitrema stenostoma), トラケリウス(Trachelius), クレイェラ(Kreyella musicola), オフリディウム(Ophrydium), 共生藻を持つチラキディウム(Thylakidium), Chlorobotrys, イカダモ(Scenedesmus), オーキスチス(Oocystis marsonii), ボツリオコッカス(Botryococcus braunii, ゲミネルラ(Geminella), サヤミドロ(Oedogonium), ブルボケーテ(Bulbochaete), ミクロタムニオン(Microthamnion), コウガイチリモ( Pleurotaenium minutum), カメガシラモ(Tetmemorus laevis), ウネリマクラ(Docidium undulatum), ミカヅキモ(Closterium idiosporum), ツヅミモ( Cosmarium globosumC. oblongum長め), ホシガタモ( Staurastrum hystrixS. wandae), 未同定のホシガタモ, タテブエモ(Penium polymorphum), ハタヒモ( Netrium digitus多数, N. oblongum多数), Bambusina brebissonii, クロオコッカス( Chroococcus pallidusC. turgidus), シネココッカス(Synechococcus), ユレモ(Oscillatoria), ワムシ, ミジンコ, クマムシ, イタチムシ2種, センチュウ, ケンミジンコ,

葉山山頂湿原(御田代),細長い水たまり,これは池塘だろうか?(長井市),13:42
1,2枚目:奥(というか北側)に進むと,同じように細長い水路というか溝があった。 ここも先の部分は池塘らしい雰囲気だったが,手前は,なんとなく人為的に掘削された跡のように見える。 だとすれば,どうしてこのような形にしたのだろうか?なんとも不思議だ。 ここに到達する前にあったいくつかの堰(というか水路)を開削した頃に,この辺も人の手が加えられたのかも知れない。

注:木道跡の可能性も否定はできないが,溝が池塘とつながっているのがおかしい。 普通,木道は池塘の周辺に敷設されることはあっても,池塘に直結する形で敷設されることはないからだ。
考えられるのは,ここを耕作地として利用するために,湿地の水抜きをするために水路を開削した可能性だ。 この葉山登山道は,戦国時代末期に「朝日軍道」の一部として整備され,多くの人や軍馬が行き来したという。 また,上記のように,朝日軍道の後も,農業用水の水源地として開発・利用されてきたようなので, かつてはこの周辺で人が生活していたとしても不思議ではない。 堀を作って湿原の水位を下げ,耕作地として開墾された時期があったのかも知れない。 ちなみに,私の地元,栃木県にある 沼原湿原(標高はちょうどここと同じ,約1230m)では,戦前,馬の水飲み場として開削され利用された跡が今も残っている。
この他,高層湿原にみられる帯状の凹凸(凹部をシュレンケ,凸部をケルミというらしい)の可能性もある。 しかし,溝の周囲が帯状に盛り上がっていない(=ケルミが不明瞭)ので,よくわからない。

葉山山頂湿原(御田代),ひとまず採集(長井市),13:43
ここで採集(葉山 山頂湿原-3)
観察された生物: 渦鞭毛虫の一種, ミドリムシ(Euglena mutabilis), ペラネマ(Peranema), ディフルギア( Difflugia sp. ほぼ球形), カエネア(Chaenea), ミクロトラクス(Microthorax), オフリディウム(Ophrydium), キルトロフォシス(Cyrtolophosis), 珪藻各種, ボツリオコッカス(Botryococcus braunii), ゲミネルラ(Geminella), ヒザオリ(Mougeotia), ウネリマクラ(Docidium undulatum), ミカヅキモ(C. acutum), ツヅミモ( Cosmarium cucurbita), ホシガタモ( Staurastrum brachiatumS. wandae), ハタヒモ( Netrium digitus多数, N. oblongum多数), タテブエモ(Penium polymorphum), Bambusina brebissonii, 未同定のクロロコックム類, クロオコッカス(Chroococcus turgidus), ユレモ(Oscillatoria), ラブドデルマ(Rhabdoderma lineare), ミジンコ(Sida sp.),

葉山山頂湿原(御田代),溝の先にある池塘らしき場所(長井市),13:43-13:44
1枚目:溝に沿って進むと・・・。 2枚目:ミツガシワMenyanthes trifoliata)が育つ池塘らしき場所があった。

葉山山頂湿原(御田代),池塘らしき場所(長井市),13:44
ここで採集(葉山 山頂湿原-4)。 他で見る池塘と比べて水際の境界がはっきりしない。 やや怪しい。
観察された生物: 渦鞭毛虫の一種, カリキモナス(Calycimonas physaloides), ディフルギア( Difflugia oblonga), アミカムリ(Nebela sp.), ラッパムシ(Stentor sp. 小型,大核1個,細胞質黄色,共生藻無し), プロロドン(Prorodon sp.), オフリディウム(Ophrydium), 共生藻を持つチラキディウム(Thylakidium), モナス(Monas sp.), Chlorobotrys, 珪藻各種, オーキスチス( Oocystis marsonii), ボツリオコッカス( Botryococcus braunii), ゲミネルラ(Geminella), サヤミドロ(Oedogonium), ブルボケーテ(Bulbochaete), ミクロタムニオン(Microthamnion), 未同定の緑藻類?(クンショウモに似た配置,やや平板状?の群体,細胞も平板状だが,外側に向ってギザギザ,ピレノイドが無い?)初観察, コウガイチリモ( Pleurotaenium minutum), カメガシラモ(Tetmemorus laevis), ウネリマクラ(Docidium undulatum), ツヅミモ( Cosmarium bioculatum?, C. globosumC. oblongum長め), ホシガタモ( Staurastrum brachiatumS. hystrixS. trihedrale 初観察S. wandae), 未同定のホシガタモ, タテブエモ(Penium polymorphum), ハタヒモ( Netrium digitus多数, N. oblongum多数), Sphaerozosma, クロオコッカス( Chroococcus pallidusC. turgidus), シネココッカス(Synechococcus), ワムシ, クマムシ,

葉山山頂湿原(御田代),その先にある横長の池塘?(長井市),13:45
さらに奥へ進むと,このようなミツガシワMenyanthes trifoliata)が点在する場所があった。 形はややおかしいが,水際はくっきりして,深く落ち込んでいる。 いかにも池塘らしい。

葉山山頂湿原(御田代),ここでも採集,池端は深く落ち込んでいる(長井市),13:45
ここで採集(葉山 山頂湿原-5)。 さきほどの場所と比べて,水際がくっきりしている。 ピペットを差し込むと水際はかなり深く落ち込んでいるのがわかった。 ここはあきらかに池塘だろう。
観察された生物: カリキモナス(Calycimonas physaloides), コクリオポディウム(Cochliopodium), ナベカムリ(Arcella vulgaris, トゲフセツボカムリ( Centropyxis aculeataCentropyxis sp.), ディフルギア( Difflugia sp. ほぼ球形), ディプロフリス(Diplophrys sp.), ラッパムシ(Stentor sp. 小型,大核1個,細胞質黄色,共生藻無し), トラケリウス(Trachelius), リトノタス(Litonotus dusarti ?), 小型フロントニア(Frontonia), クレイェラ(Kreyella musicola), クリスチゲラ(Cristigera phoenix), キルトロフォシス(Cyrtolophosis), 小型繊毛虫数種, Chlorobotrys, イカダモ(Scenedesmus), オーキスチス(Oocystis marsonii), ボツリオコッカス(Botryococcus braunii), サヤミドロ(Oedogonium), ウネリマクラ(Docidium undulatum), カメガシラモ(Tetmemorus laevis), ミカヅキモ(Closterium idiosporum), ツヅミモ( Cosmarium bioculatum?, C. globosum), ホシガタモ( Staurastrum brachiatumS. hystrixS. zonatum), 未同定のホシガタモ, ハタヒモ( Netrium digitus多数, N. oblongum多数), クロオコッカス(Chroococcus), シネココッカス(Synechococcus), ワムシ, ミジンコ, ケンミジンコ, イタチムシ,

以上のような結果となった。 この葉山山頂湿原(御田代)の特徴は,通常は高地の湿原に多い大形の接合藻類が少ないということだ。 目立ったのはハタヒモ(Netrium)の2種(N. digitus, N. oblongumのみ。 大型のミカヅキモや,イボマタモ,アワセオオギなどはまったく見当たらない。 しかし,そうかといって平地にいる原生生物が多い訳ではなく,クロロコックム類ではイカダモとオーキスティスがわずかにいた程度。 総数(種数)もさほど多くはないが,かといって少ない訳でもない。 また,他ではこれまで見たことがない原生生物も2種ほど観察できた。 やはり高地にある湿原らしい特徴を持つといえるが,接合藻が少ないのは,以下のように, ここが湿原としてはそれほど古くからある訳ではないことを反映しているのかも知れない。 あるいは,既述したように,過去に様々な形で人為の影響を受けた結果を表わしている可能性もある。 とくに池塘に続く水路のような場所があるが,これにより湿原から水が流れ出しやすくなり,原生生物の多くが流出して種数が減っているのかも知れない。

他にも池塘らしき場所があったように思うが,あまりあちこち動き回るのは好ましくないので,早々に湿原を出た。 小さな白い花が咲いていたが,花の撮影をする余裕無し。 既述したように,池端には結構な数のモウセンゴケが育っていた。 他は何度も出て来たミツガシワが目立った程度。 画像でわかるようにコバイケイソウなどはまったく目に入らなかった。 草花はあまり豊かではないようだ。 それもあってこの湿原を訪れる人はあまりいないのかも知れない。 しかし,同じ方向に細長い溝が何本もあったのが,やはり気になる。 上述のように,昔はかなり人為的な影響を受けていたのかも知れない。
注:あるHP によると,戦後間もない頃まで田植え後に,ここに稲を植えて豊作を祈願する神事が行われていたという。 ただし,この溝がそのために作られたものか,それとは別の目的で作られたものかは不明。 なお,そのHPによると,ここの泥炭層の厚さは約120cmで,湿原の形成が始まったのは1200年以上前と推定されているらしい。 湿原としてはそれほど古くはない?

湿原を出て先へ進む(長井市),13:48
国土地理院の地図を見ると,この葉山神社近くにある湿原を含めて,葉山山頂周辺には計3ケ所に湿原,ないし,湿地があるように描かれている。 残りの2つは,この先にある「奥の院・大朝日岳」分岐(注)と書かれたY字路からそれぞれの方向に1ケ所ずつあるらしい。 距離的には大朝日岳方面(正しくは愛染峠方面)に向う途中にある湿原(湿地)の方が近いのだが, 事前にネットで調べたところ,奥の院方面(正しくはこちらが大朝日岳方面)にある湿原にはミツガシワが生えているという情報を得ていた。 また,さきほどの葉山神社近くの湿原(御田代)には水辺がない,という別の情報もあったので(実際には違ったが), 「もし,葉山神社近くの湿原で採集できなかったら,奥の院方面にある湿原へ行ってみよう。 ミツガシワが生えていれば,水辺があるはずだから」と考えていた。
そのため,すでに予定を大幅に過ぎているので, 時間的制約を考慮すれば,大朝日岳方面(正しくは愛染峠方面)にある湿原を目指すべきだったのだが, 上記のように考えていたため,そのまま奥の院方面(正しくは大朝日岳方面)へ向うことにした。 この頃は時間の間隔がだいぶわからなくなっていたというか,混乱していたようだ。

注:この分岐名がおかしいことに後で気づいた。詳しくは下記参照。

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