第1回日本進化原生生物学研究会: 原生生物における種の実在性 | by 月井雄二 |
2. 観察限界について |
2-1. 原生生物の野外変異を知ることの難しさ
以上のように,原生生物では,識別可能な細胞形態や機能(接合型等)に基づいて区別された「種」は,分子系統学的には単系統ではなく,したがって実在する種とは呼べないことがわかってきた。それでは原生生物では何を根拠に種が存在(実在)するといえるのだろうか?
一般に,教科書的には,種とは「互いに生殖的に隔離された生物集団」であると定義(これを生物学的種という)され,この機能的な定義により種には「実在性」があると考えられている。しかし,自然界には有性生殖を行なわない生物も多数存在するので,上記の生物学的種概念には普遍性がなく,種の遍在性を主張する根拠にはなりえない。
また,有性生殖を行なう生物であっても,実際に生殖的隔離の有無で種を区別することは希である。通常,種の存在を確認する際に重要な手がかりとなるのは,種間にある「変異の不連続性」である。すなわち,中間的な形質(形態と性質)をもつ個体がいないことが種を区別する上での実質的な判断基準となっているのである。この「変異の不連続性」は有性生殖をする・しないに関わらず確認できるので,種の遍在性の重要な証拠ともみなされている。
たしかに多細胞生物(動物&植物&菌類)では,個体の観察が比較的容易なため,各種ごとの変異の全体像がおおよそ把握できている。これらの「観察事実」に基づいて,変異の不連続性が確認され,種が実在するとみなされている。しかし,原生生物や他の微生物では,研究の出発点となる野外変異の観察そのものが非常に困難であり,相当な労力を費やしても,我々は野外変異のごく一部しか捉えることができない。個体数の多い変異は見つかりやすいが,個体数の比較的少ないものは,通常の観察ではほとんど,あるいはまったく発見できない(図11,図12)。
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