第1回日本進化原生生物学研究会: 原生生物における種の実在性 | by 月井雄二 |
要 約 |
この講演の要旨は以下のとおりである。
1)原生生物の進化においては,分子・形態いずれにおいても,取り得る変異は無限ではなく「有限」である。そのため,系統進化がある程度続くと,途中で「変異の飽和」が起きてしまい,その形質(分子・形態)の違いによるグループ分けと系統が相関しなくなる可能性が高い(注1)。いいかえると,形態・分子いずれの形質で分けたグループであれ,各形質の変異グループは単系統ではなく,多系統になるといえる。
2)多細胞生物は観察が比較的容易なため,野外変異をほぼ完全に把握できる。そこで,種間に「中間型」がいないことが確認できれば種が実在するといえるだろう。しかし,原生生物の場合は,野外変異を完全に把握することはほぼ不可能である。この「観察限界」があるため,実際には中間型が存在し「種は実在しない」にもかかわらず,見かけ上,種が実在する,とみなされている可能性がある。
しかし,もしこの観察限界を押し下げることができれば,やがては別種と思われていたものが中間型がみつかり,「変異が連続」してしまうかも知れない。あるいは,環境の変化により,各変異の生息数が変化し,これまで観察できていた変異が消失し,観察できなかった変異が突然出現する,といったことも起こるだろう。それは,一見すると種進化が起きたかのごとく見えるが,じつは単に各変異の個体数が増減を起こしただけかも知れないのである。注1:実際には,分子レベル(DNA配列等)では,取り得る変異幅が十分に広いため,比較しようとする系統間では,変異の飽和が起きていない場合がほとんどであろう。そのため,通常は,分子レベルの違い(配列の違い)の程度が系統が分岐した後の物理的時間の経過を反映している(=分岐後の経過時間に比例している)とみなすことができる。
しかし,ゾウリムシにおける接合型特異性を決める活性部位では,その取り得る立体配置が無限ではなく,かぎられていた可能性がある。このように,同じ分子レベルであっても,生理機能に関係するものなど,やや複雑なものになると,とり得る変異の幅が狭くなるものもあるはずである。
Copyright 2004 by Yuuji Tsukii |