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Stentor pyriformis の 研 究

 概説1:生態調査・培養法の開発 
 概説1   概説2  生息場所 静止画・動画  論 文 
 培養法   学会発表  目からうろこ 実験データ

繊毛虫の一種, Stentor pyriformis は,今から120年以上前に Johnson(1893)によって最初の報告がなされた。 その中でJohnsonは, S. pyriformis は野外にはたくさんいるが, 実験室では1ヵ月程度しか生存できず,これまでに一度も分裂像を観察したことがない,と述べている。
それが原因かどうかは不明だが, S. pyriformis に関しては,最初の報告以後, およそ100年前に新しい生息域の報告が1つあっただけで(Walker, 1908), これ以外にはまったく研究報告がない。 近年,Foissnerら(1994)によって,ラッパムシ属の再定義がなされた際に,名前が上がってはいるが, S. pyriformis については最初の報告にある情報がそのまま採用されているだけで, 新規の情報は追加されていない。 (ネット上には YouTube に S. pyriformis の動画が2件ある;そのうちの1つは,カナダ, オタワ市にある湿原,Mer Bleue bogで採集したとのこと)
私(月井)が S. pyriformis に遭遇したのは,高地の湿原(にある池塘)で 原生生物の野外調査をするようになった2005年以降である。 ただし,この頃は,ラッパムシの分類に詳しくなかったため,共生藻をもつラッパムシを見ても それが何という種類なのかわからなかった。
それらが平地で見つかることが多い S. polymorphus とは明らかに違うことはほどなく理解したが, S. pyriformis と,それによく似た S. fuliginosus を区別することは,しばらくの間,できなかった。
しかし,あちこちの湿原で何度も遭遇するにつれ,徐々に S. pyriformisS. fuliginosus を生きた状態で識別することができるようになった。 詳しくは →  こちら 

Stentor pyriformis
が興味深いのは,なんといってもその数の多さにある(注)。 時には広々した池塘の水底一面を覆い尽くすほどの数がいるのだ。
ラッパムシの仲間は,ときに大量増殖する(bloomingという)ことはよく知られているが, あくまでそれは一時的なもので,常に大量にいる訳ではない。 しかし,S. pyriformisは常に大量にいるのだ。 しかも,そこは極めて貧栄養の環境で餌が豊富にある訳ではない。 にもかかわらず,どうしてそんなにたくさんの細胞数が安定して維持されているのか? もしかしたら,細胞内にいる藻類との共生が進んで,植物と同じ完全な独立栄養生物にまで進化してしまったのではないか?
ということで非常に強い関心を抱くようになり,大量にいる理由を探るため 6年ほど前(2010年頃?)から 採集サンプル中にいたS. pyriformisの培養を試みるようになった。

注:この他,S. pyriformisは単細胞生物としては非常に表情豊かなのも魅力だ。 原生生物の多くは,細胞はあまり変形しないが,ラッパムシなどの異毛類は,収縮性があるので,絶えず細胞の外形が変化する。 加えて,S. pyriformisは,水底にいる場合でも,底に付着していることもあるが, かなりの時間,水底を這い回っている。その際には,細胞の外形がときおり変化するし,その先端は絶えず向きを変えて動めいている。 細胞が大きめなこともあり,その様子を見ているとまるで多細胞生物かと見間違うほどだ。 その辺が,「かわいい」とまでは云えないが,なんらかの意志があるかのような動きをしているようで,見ていると興味が尽きない。

わかったこと

1)生息域の分布について
これまでの採集で S. pyriformis の生息エリアは4ヶ所 (八甲田山,八幡平,吾妻連峰,尾瀬-日光周辺,いずれも標高 1000〜2000m)あることがわかった。 他のエリアでも採集を数多く行っているが,今のところS. pyriformisは観察できていない。 → 生息場所

2)生態について
上記の生息エリアのほとんどは,山頂や尾根にある湿原で,水源としては雨水しかない場所である。 周囲から流入する水はほとんどなく,極めて貧栄養の状態にある。 そこで大量に増殖できているということは,S. pyriformisが貧栄養環境に適応した生物であることを示している。
適応の結果と思われるが,S. pyriformisは細胞周期(cell cycle)が極めて長い(通常,1ヵ月程度)。 また,細胞が大きい(水底を這い回る状態で0.7mm 程度,この1.5倍くらいまで伸長して棒のような状態になって泳ぎ回ることもある。 水底に付着している場合は 0.5 mmか,それより短い状態になる)。

3)培養法の開発
上記の貧栄養環境に適応しているという点にヒントを得て, 培養法がおおよそできた(まだ改良すべき点はたくさんあるが)。 → 培養法の開発

継代培養ができるようになった段階で,諸々の実験が可能になる。
初期の培養条件(1/50 KCM + キロモナス)では半年以上分裂(4〜7回程)を続けたのに,結局,ほとんど絶えてしまった。 この結果は,培養条件に問題があることを示している。このままでは他の実験をしても意味がない(と考えた)。
養命酒+1/50KCMで,ほとんどのバッチ(まだ単離培養できていないので,採集地点ごとに区別するしかない)が元気に増えるようになった。 増殖速度も,当初の培養条件では1ヵ月以上かかったが,養命酒を加えた培養法に変えてからは,速いものでは9日に1回の頻度で分裂するようになった。 しかし,養命酒+1/50KCM+キロモナスに変えてから,まだ1,2ヶ月しか経っていないので,これで今後も増え続けるか確かめる必要がある。 養命酒を用いる前に試していた培養法(フルボ酸 + 1/50KCM+キロモナス)で弱っていた細胞も, 養命酒を加えると元気を取り戻したので,大丈夫だとは思うのだが,,,。 最終判断を下すには,あと半年以上は待たなければならないだろう(2016.08.31現在)。

追記(2017.03.07):半年後になっても,この養命酒+1/50KCM+キロモナスでは,皆,元気に増殖を続けている。 よって,この培養条件は,継代培養法として確立できたといえる。

追記(2017.11.24):1年半以上が経過したが,現在も皆元気に増え続けている。 室温条件(23℃前後)では,養命酒+1/50KCM+キロモナスの交換は1週間に1回程度の頻度で行っている。
(有菌状態で培養しているので,当然ながら,混入している細菌も増える。 中にはS. pyriformisに有害なものもいるので,細菌の増殖が目立つバッチは培養液を交換する際, 新しいプラスチックシャーレに移し替えている。)
一部は16℃の低温庫に置いてあるが,蛍光灯の光りの下,半年以上放置しても皆元気に生きていた。 培養液の交換を行っていないので細胞数はさほど増えていないが,数が減った様子はなく, むしろゆっくり増えていたようだ。

これまでに培養できたS. pyriformis
(単離培養ができていないので,採集地点ごとのサンプルで表わしている)
湿原名 標高(m) 山域 都道府県 採集年月日 現状
田代平湿原 550-
580
八甲田山 青森市 2015.10.05 しばらく息も絶え絶えだったが,養命酒+1/50KCMに変えてからやっと増え出した。 → 最近,結構増えた(2016.09.10現在)。 → 安定して増殖中(2017.03.08現在)。
田代平 1220 八幡平 仙北市 2015.08.30 旧培養法ではあまり分裂せず,細々と生き長らえていたが, 養命酒+1/50KCMに変えてからは順調に増え出した。 ただし,細胞数はまだ十分ではない。 →最近,だいぶ増えた(2016.09.10現在)。 → 安定して増殖中(2017.03.08現在)。
八幡平
北西尾根
1550-
1600
八幡平 八幡平市 2015.09.24, 2016.09.02 北西尾根に点在する湿原群。複数箇所で採集したので,培養も複数系統あり。 かなり増えたものもある。旧培養法では半年くらい分裂を続けたが,その後,死滅したものが多い。 養命酒+1/50KCMに変えてからは順調に増え出した。 → 安定して増殖中(2017.03.08現在)。
安比高原 920 八幡平 八幡平市 2016.06.19 過去2回(2013.05.18,2014.07.06)の採集では観察できなかったが, 2016年,大量増殖したS. amethystinusに混じって,わずかだが観察できた。 当初,徐々に増えていたが,養命酒+1/50KCMに変える前になんらか理由でダメージを受けてしまった。 急遽,養命酒+1/50KCMに変えたが,大部分は手後れのようだ。数匹は元気を取り戻したが, さて,どうなるか?(2016.08.28現在) → 養命酒を加えてもいまだに元気にならない。絶滅寸前だ(2016.09.10現在)。 → 今にも絶えそう(2017.03.08現在)。 生き残っているのは,わずか数匹。その後,絶滅。
仙水沼分岐近く
(浄土平南)
1574 吾妻連峰 福島市 2015.10.10 仙水沼へ向う遊歩道沿いの小湿原。 養命酒+1/50KCMに変えてからは順調に増えている。
変更前,共生藻が凝集して弱っていた細胞が多くいたバッチがあった。 養命酒+1/50KCMに変わってからは元気を取り戻したが,一部,共生藻が凝縮したまま, ないし,共生藻がほぼ完全に消失したまま元気を取り戻したものがいた。 このまま共生藻のないまま増殖できるか調査中。 → 結局,共生藻を失った細胞は死に絶えた。 共生藻を持つタイプは元気だが。
→ 安定して増殖中(2017.03.08現在)。 ただし,新しい培養条件(液肥+光)だと,やや不調。
室温で培養しているものはなぜか次第に弱って絶えてしまった。 しかし,16℃の低温庫に置いたものは生きている。 低温条件でのみ培養を続けている(2017.11.24現在)。
栂平 1661 吾妻連峰 福島市 2015.10.10 養命酒+1/50KCMに変えてからは順調に増えている。
栂平に唯一ある池塘で採集。周囲にコケが育っているので,いずれは池塘でなくなるだろう。 2016年は,雨が少なかったため,湿原全体の水位が下がっていた。 そのため,この池塘も干上がりつつあった。
今回の干上がりは一時的なものだが,栂平全体は,次第に笹薮に覆われつつある。 また,笹薮以外の場所も背の低い灌木で覆われており,長期的に見ても乾燥化が進んでいるといえる。 笹薮を除去するなど保護対策が必要だ。
鳥子平 1606 吾妻連峰 福島市 2015.10.10 養命酒+1/50KCMだけでなく,旧来のフルボ酸-1/50KCMで今でも元気に増えている? 一部は養命酒+1/50KCMに変えたが,それだとなおさら元気になった。
南北に細長い湿原の南側に大きな池塘がある。水深もそれなりにあるので,雨が少なかった2016年でも十分に水があった。 そのためか,池塘の水底は一面,S. pyriformisで覆われていた。 数が多かったのは,S. pyriformisじたいもかなり元気なためかも知れない。 → 安定して増殖中(2017.03.08現在)。
田代山湿原 1926-
1971
尾瀬-日光 南会津町 2015.10.13 月井栄三郎氏による採集。
養命酒+1/50KCMに変えてもなかなか元気にならない。が,少しずつ増えてはいる。 → しかし,結局,弱ってしまった。いまや息も絶え絶えだ(2016.09.10現在)。
一方,2014年のサンプル(2014.08.31, by 月井栄三郎)はわずかだが生き残っている。 こちらは若干だが増えている。
もしかすると,培養条件が他のS. pyriformisとは異なるのかも知れない。 しかし,それを確かめるには,ある程度の量まで増やさなければならない。 今のところ,細胞数が少ないので無理。
2017年現在,結局,死に絶えてしまった。
栄三郎氏により採集が再度行われた(2017.07.09)。2017.08現在,最新の培養条件で培養中。 これまでのところ順調に維持できている。
横田代 1860 尾瀬-日光 片品村 2015.08.15 養命酒+1/50KCMに変えてからは順調に増えている。
→ 安定して増殖中(2017.03.08現在)。 ただし,新しい培養条件(液肥+光)だと,やや不調。
その後,液肥の濃度を下げた所,順調に増えだした(2017.11.24)。
xxx湿原 xxxx ***** xxxx県 xxxx.xx.xx xxxxx。

S. pyriformisの生息は確認済みだが,培養できていない場所
八甲田山( 毛無岱 ),
八幡平( 大谷地大沼湿原八幡沼湿原黒谷地湿原裏岩手縦走路沿い三ッ石湿原千沼ヶ原 ),
吾妻連峰( 西吾妻一切経縦走路沿い麦平 ),
尾瀬/日光( 田代山湿原鬼怒沼湿原広沢田代,熊沢田代富士見田代
結構ある。。。
#:培養実験の途中で絶やしてしまった。ただし,上記のように,田代山湿原は新規の採集サンプルが手に入ったため, 現在,順調に増殖中。

おまけ <吸血ワムシ>
2,3年前だったと思うが,この S. pyriformis を専門に狙っているのではないかと思われる吸血ワムシに悩まされたことがあった(残念ながらその当時の写真はない。 しかし,ごく最近,同じ吸血ワムシがS. pyriformisに食らい付こうとする様子を撮影できた →  それはこちら)。
たしか,鬼怒沼湿原に大量にいた S. pyriformis の培養を試みていた時だったと思うが, 採集してきてからしばらくすると,培養器(シャーレ)の中に, S. pyriformis と似ているが, どうも様子の異なる生物がいるのに気づいた。 よく見ると,それはワムシだった。大小色々いたのだが,最大のものは S. pyriformis とほぼ同じサイズだった。 通常はほとんど動かないので,低倍率で見ていると S. pyriformis と区別がつかなかった。 なぜなら,ワムシの内部は S. pyriformis と同様,透過光で見ると,ほとんど黒に近い深緑色のもので満たされていたからだ。 外形も休んでいる時の S. pyriformis に似た長楕円体をしているので,よほど注意しないと,その存在に気づけないのだ。
時間がたつと,このワムシは次第に数を増した。それと反比例するように, S. pyriformis は次第に数を減らし, 一部には小さく縮んだようになったものが目立つようになった。 どうも怪しいということで,詳しく観察していると,そのワムシが S. pyriformis に喰いついて細胞質を吸い込んでいることがわかった。 ただし,吸管虫のように,細胞質をすべて食べ尽くすのではなく,一部を吸うだけなので, S. pyriformis はすぐに死んでしまう訳ではない。 とくにワムシが小さい場合は, S. pyriformis の方が圧倒的に大きいので,当然,食べ切れずに S. pyriformis から離れて行く。 ワムシが成長すると食事量も多くなるので,吸血された S. pyriformis は小さく縮んでしまい,最後は死んでしまった。
やっかいなのは,このワムシの子供(ないし卵)はどうやら非常に小さいらしいことだった。 「らしい」というのはその卵を実際には観察できていないからだ。 普通見かけることの多いワムシは,一度に1,2個の大きな卵を産むので,双眼実体顕微鏡でも容易に見つかるのだが, このワムシの卵は,いくら探しても双眼実体顕微鏡では見つけられなかった。
そのため, S. pyriformis を守るために,双眼実体顕微鏡でワムシを徹底的に取り除いたつもりでも, しばらくすると,ふたたびワムシが増えてきてしまうのだった。
この頃は,まだ培養法が開発できていなかったので,ワムシと戦っているうちにS. pyriformisじたいが弱って 死滅してしまったのだが,つい最近採集したサンプルにもこのワムシがいるのを観察したことがある。 S. pyriformisは野外では大量に増殖しているので,S. pyriformisを餌にするワムシが進化したのだろう。

こういった例は他にもある。 2010.08.10 に訪れた須川高原にある 大仁郷湿原 では,木道脇でミドリムシの一種, Euglena mutabilis が大量増殖していた。 これを採集したところ,そのサンプル中にEuglena mutabilisを捕食する レプトファリンクス(Leptopharynx) が混じっていた。 手元には無菌培養しているEuglena mutabilisもあるのだが,E. mutabilis は増殖速度が遅いし,細胞密度もあまり上がらない。 そこで,変わりに 無菌培養している Euglena agilis (旧称;E. pisciformis)を餌にして培養したところ 非常によく増えた。現在も培養を維持している。 ( Euglena gracilis も試したが,こちらはやや好みではないようで,レプトファリンクスはあまり増えなかった)
Euglena agilis は,共生藻を持つクリマコストマム (Climacostomum) の餌としても用いている。よく増える。


今後の課題

1)培養法のさらなる改良
-- いまだに単離培養ができていない --

-- 簡素化,効率化,大量培養へ,無菌化? --


2)共生藻はどれほど S. pyriformis の生存・増殖に貢献しているか(=共生関係はどこまで進んでいるか)? → 実験の第2ステージ(もしかすると S. pyriformis は,やはり独立栄養生物にまで進化しているのかも!?)へ。
野外採集した直後のS. pyriformisは,どれも皆,透過光で見ると真っ黒に見えるほど, 細胞内には共生藻を含んでいる。 しかし,実験室で培養を続けると,一部の細胞内にある共生藻は次第に減少していることがある。 細胞が弱って死ぬ前にも同じことが起こる場合があるが,元気に増殖している細胞でもそういった変化がみられることがある。
細胞内共生の研究で良く知られるParamecium bursariaの場合も,餌を十分に与え続けると, 次第に細胞内にある共生藻の数が減少していく(ただし,簡単にはゼロにはならないが)。
これは,P. bursariaの細胞内にいる共生藻は1日に最大2回(クロレラなどは夜に2回連続して分裂して必ず4細胞に増える) しか分裂しないが,P. bursariaじたいは餌となるバクテリアが十分あれば,1日に2回以上(ときには3回?)の 速さで分裂できるからだ。宿主の分裂速度が共生藻よりも速いので,徐々に細胞あたりの共生藻が希釈されてしまうのだ。
また,P. bursariaの場合は,共生藻を完全に無くしても,餌生物(バクテリア等)さえあれば,それだけで十分増えることができる。 P. bursariaにとって共生藻は,あれば好ましいが,餌生物さえあれば,無くても生きていける存在なのだ。
逆に,餌バクテリアを与えずに光だけを与えた場合,P. bursariaは共生藻が光合成によって作り出す栄養分に頼って, 自らも細胞分裂できるだろうか?すなわち,植物と同様,光合成だけに頼って増殖できる完全独立栄養の生活も可能か, という点に関しては情報が不足している。
私の経験では,
1)光だけだと共生藻があれば,無い場合と比べてより長期間生き長らえるが, いずれは,飢餓が進んで細胞内にある共生藻も消化してしまうか,
2)逆に,共生藻が生き残って宿主であるP. bursariaが先に死んでしまう。
といった2つのケースを観察したことがある(随分昔だが)。とにかく光だけでは分裂して増殖はできなかった。
一方, S. pyriformis は冷涼な湿原にある池塘という極めて貧栄養の環境に生活しながら, 水底を覆いつくすほど,膨大な数に増えていることが多い。
これについては,既述したように,現在は,S. pyriformisは細胞を大型化させつつ, 代謝を落とし,結果,細胞分裂速度も落とすことで,少ない餌でも大量に増えることができているという仮説を立てているのだが, 以前は,貧栄養(=餌生物が少ない)の条件で大量に増殖できていることから, 「もしかしたらS. pyriformisは,植物と同じように,共生藻が行う光合成だけで自らも細胞分裂できる 独立栄養の状態にあるのでは,と考えたことがある。
このこともS. pyriformisに強い興味を持つようになった理由の一つなのだが,果してどうだろうか? これについては,今のところ,なんともいえないというしかない。
以前は,そのことを確かめようとして,餌生物を与えず,藻類と同じ条件で分裂するかを確かめようとしたことがある。 しかし,当時は,S. pyriformisが増殖するには,貧栄養の状態を保つ必要があることに気づかなかったため, 他の藻類と同じ条件にしてしまった。当然,失敗した(増えなかった,というより死んでしまった)のだが, 貧栄養の指標である低い導電率(池塘はおおよそ10 μS/cm前後)を保つということは,液肥などは きわめて薄い状態にしておかなければならないことを意味する。 この条件で培養するとなると,シャーレなどの狭い培養器の中で培養する場合は,養分の量がきわめて少ないので培養液を頻繁に換えてやらないと ならない。これは大変面倒な作業になる(自然界では,貧栄養でも十分な量の水の中にいるので養分の供給は確保されているはず)。

→ 概要その2:S. pyriformis は独立栄養か?

月井 雄二
(法政大学 自然科学センター)

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