原生生物の採集と観察 |
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4 ゾウリムシの培養と観察
1)ゾウリムシとは
この他,細胞内には,収縮胞とよばれる浸透圧を調節する装置や,細胞口,食胞,細胞肛門といった栄養摂取に関連した細胞内器官がある。また,右図にはないが,細胞膜直下には,トリコシスト(毛胞)と呼ばれる特殊な構造がある。トリコシストには特殊なタンパク質が含まれていて,機械的,あるいは化学的な刺激を受けると細胞外へ飛び出す。飛び出すと同時に伸長して槍状構造に変化する(次頁下の写真参照)。防御のため,という説もあるがはっきりした機能はわかっていない。
ゾウリムシは原生生物で最初に性の存在が発見された生物として知られている(Sonneborn 1937)。異なる接合型の細胞が出会うと,やがてお互いに接着して接合対を作る。その中では小核の減数分裂,それによってできた配偶核どうしの融合(=受精)といった有性生殖特有の核変化が起こる。 受精後のゾウリムシには未熟期と呼ばれる接合しない「子供」の時期がある。受精後,一定の細胞分裂を繰り返すと成熟期となり,ふたたび接合ができるようになる。そのまま接合をしないで分裂を続けると,やがて老化してクローン死を起こす。このため,ゾウリムシは老化のしくみを知るためのモデル材料としてもよく利用されている。 |
相補的な接合型の細胞(左上下)を混ぜ合わせるとただちに繊毛を介した細胞凝集反応(mating reaction)が起きる。これが1時間ほど続くとやがて2つの細胞が接着した接合対ができる。 |
単細胞か多細胞かという違いを除けば,両者はよく似ている。 |
ゾウリムシ属の分類
ゾウリムシ属には,ゾウリムシ(Paramecium caudatum),ヒメゾウリムシ(Paramecium aurelia complex),ミドリゾウリムシ(P. bursaria)の他P. multimicronucleatum,P. trichium,P. jenningsi,P. calkinsi,P. duboscquiなど様々な種がいる。ただし,通常採集されるのはゾウリムシ,ヒメゾウリムシ,P. multimicronucleatum( aureliaグループ)の3種と,ミドリゾウリムシとP. trichium(bursariaグループ)2種が主である。 |
野外採集で見つかる主なゾウリムシ 1) P. multimicronucleatum,2)ゾウリムシ,3)ヒメゾウリムシ,4)ミドリゾウリムシ,5) P. trichium |
aureliaグループ3種のうち,P. aureliaは他の2種より小さく細胞後端部が丸いなど外形で区別できるが,P. caudatumと P. multimicronucleatumを外部形態だけで区別するのは難しい。P. multimicronucleatumはP. caudatumよりも若干大きめだが,P. caudatumとされるものでも細胞の大きさは様々なので,大きさだけで両者を明瞭には区別できない。一応,分類学的にはP. caudatumは小核が1個, P. multimicronucleatumは名前のとおり複数の小さな核があるという点で区別される。だが野外から採集したゾウリムシの小核の形・サイズは様々だし,中には核染色をしても小核が観察できないものもある。
一方,P. bursariaとP. trichiumは,両方とも扁平で子供の足型に似た形をしているが,前者がやや大きめで,共生クロレラをもつので簡単に区別できる。 なお,ゾウリムシ属の各種はいずれもバクテリアを餌として試験管培養することが可能だが,ミドリゾウリムシとP. trichiumはバクテリアよりも緑藻類のクロロゴニウム(Chlorogonium )を餌にしてシャーレで培養した方がより確実に増える。バクテリアを餌とした場合,ミドリゾウリムシは比較的増殖が遅くなる場合があるが,同じ株にクロロゴニウムを与えると元気に増え出すことがよくある。ミドリゾウリムシは細胞の形も,他のゾウリムシが葉巻き状であるのに対して,平らなスリッパ状に近い。これは,他のゾウリムシは水中を活発に遊泳するのに対して,ミドリゾウリムシは水中の固形物に付着して生活するのを好むのを反映していると思われる。また,野外では,バクテリアよりもむしろ藻類を好んで捕食している可能性がある。クロレラを共生させるようになったのもそのような食性が影響しているのかも知れない。 |
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