公開講演会:
生物多様性研究・教育を支える広域データベース
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原生生物情報サーバ 学術研究におけるインターネットの有用性と生物多様性DBの行方 |
月井雄二(法政大学 自然科学センター) |
「原生生物情報サーバ」は様々な微生物の画像やその分類学的記載等をネットワーク上で公開して,広く世界中の人々に利用してもらうことを目的としている。現在までに公開したのは,静止画 約30,000枚(約450属,1,600種以上)と 動画 556クリップ,および2つの古文献である。 画像については,採集(あるいは培養)した各標本(細胞またはクローン)ごとにWeb pageを作成し,これらを分類体系にしたがって種,属ごとにグループ化してある。画像は閲覧用のサムネール画像から印刷用の大型画像まで5段階の異なるサイズのものが用意されている。 これらの画像は,ネットワークで公開するだけでなく,その一部をCD-ROMに焼いて,無償配布する活動も行っている。その結果,これまでに約7,000枚を全国に配布し,利用者から様々な反響を得た。また,画像は,自分達が作ったものだけでなく,ネットワークを介して他の人々が撮影した画像の提供も受け付けている。さらに,一部は種の同定が不確かなものもかまわずに公開してあるが,これらを見て種の同定を助けてくれるユーザーもいる。この他にも,画像の利用願いや,種の同定依頼など様々な形で利用者との交流がある。 自分たちのデータベースを構築・公開するとともに,他の研究者からも同様な情報発信がさかんになるように学会やWebサイト上での啓蒙活動も行っている。しかし,これまでのところ期待するほどには研究者からの情報発信は増えていない。その原因を分析した結果,ネットワークには学術研究に必要不可欠な要素,すなわち,公開された情報を「評価」し「保存」するための社会的仕組みが備わっていないことに気づいた。評価されなければ,やる気が起こらないのも無理はない(詳しくはここ)。 しかし,近年,状況は急速に改善しつつある。保存については,ネットワーク上にある情報を人類の貴重な歴史遺産として残そうと,6年前から世界中のWebサイトからデータ収集を行ってきたInternet Archiveが,その集めた膨大な情報を昨年末から公開するようになった。これによりオリジナルの情報が消滅しても,Internet Archiveの中から探し出して利用できるようになった。 評価に関しては,現在,世界中でもっとも利用者の多い検索エンジン Googleが採用しているPageRankという仕組みが注目されている。Googleでは,リンクという形で人間が行っている個々のWeb pageに対する評価を集計して情報のランク付け(PageRank)を行っている。これにより,注目度(評価)のより高いWeb pagesが検索結果の上位に来るので,利用者は必要な情報を得やすくなる。 このように「評価」と「保存」のためのシステムがどうにか揃いつつあるので,今後は研究者による情報発信が増える可能性がある。 また,今回の講演会を契機に,ネット上にある生物多様性関連Webサイトの調査を行った。調査は今も継続中だが,これまでにわかったのは,近年これらのサイトの数が急速に増加しつつあり,時間の経過とともに各サイトの内容も充実しつつある,ということである。これらのサイトの大部分は,専門家が作成したものではなく,一般の人々が個人的な興味から作成・公開しているものである。そのため,原記載やシノニムなど専門知識を網羅したものは少ないが,逆に一般の利用者にとって(そして専門外の研究者にとっても)わかりやすく利用しやすいものが多い。したがって,教育用のリソースとしては十二分に役立っているといえる。また,各地で数多くの野外サンプルが記録・公開されることで,研究の基礎となる標本データを集めた全国(or 世界)規模の広域データベースとして役立つことが期待される。 |
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