平成10年度知的基盤整備推進制度
「生物系研究資材のデータベース化及びネットワークシステム構築のための基盤的研究開発」
2-1. 生物資材情報発信のためのWWWサーバ構築サポートシステムに関する研究

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3-2. 海産繊毛虫画像データベースと分類同定システムの構築

3-2-1. 生体試料の観察撮影法

 浮遊性海産繊毛虫は大変遊泳力に優れ,特に刺激を与えられた場合に1cm以上の距離に及ぶ急峻な逃避遊泳を行う。この逃避遊泳が,水面に向かって行われた場合には水面の表面張力で細胞崩壊を起こす。従って,水深1cm以下の浅い容器中では数分で半数以上の繊毛虫が細胞崩壊によって消失する。そのため,顕微鏡観察試料を作成する際には,遊泳力の抑制と繊毛虫を常に水と空気との境界面から遠ざけるための独自の工夫が必要であった。以下に示す手順が,もっとも良い結果を得た手法である。

@ 採取した海水を直径約10cm深さ約15cmのガラス瓶に保存し,水面下約1〜3cmの水をスポイトで採取し,直径約3cm深さ3cmのガラスビーカーに移す。(このときの水深は,最終的に1.5〜2cmにする。)

A 双眼実体顕微鏡下でこのガラスビーカーからマイクロピペットを用いて繊毛虫をスライドグラス上に移動する。

B 厚さ約150μのビニールテープをスライドグラスの両端に接着し、その両端を基部としてカバーグラスを置くことで,薄型チャンバーを作成する。そのチャンバーの端から毛細管現象を利用して粘性を高めた海水(1%ポリオックスを使用)を約10μl挿入する。高粘度海水の淵に,繊毛虫を含む海水約10μlを同様に挿入し,再び高粘度海水を挿入して両端の水面を高粘度海水で挟み込む(図3)。

C このプレパラートを顕微鏡下に移動し,数分後に繊毛虫の運動が低下した時点で,高輝度光源(100Wハロゲンランプ)と高感度フィルム(ASA320)を組み合わせた高速シャッター(約0.2秒)条件下で撮影する。

上記の手法で最終的に,28標本,計257枚のデジタルカラー画像を得ることができた。


図3. チャンバーの構造(標本作製)

3-2-2. 固定標本の撮影法

 固定標本は,油浸レンズを用いた高解像度撮影が可能である。しかし,レンズの解像度を上げることによって,焦点深度が狭まり全体像を把握するための撮影が難しくなる。高解像度で,かつ広範囲の焦点を得るために,デジタルカメラを用いて撮影した複数の連続焦点画像を合成(図4)する方法を導入した。また,顕微鏡を実際に操作する場合と同様に,複数の焦点画像を連続的に表示する動画を作成した。

 この連続焦点画像は75標本について,計約1300枚撮影した。


図4. 複焦点合成画像
複数の焦点の画像を合成し,焦点深度の深い画像を得る。

3-2-3. 分類同定システム

 撮影した標本の種の同定のために必要な文献情報をデジタル化し,種の同定のための検索システムの構築を開始した。検索情報と画像情報を扱うリレーショナルデータベースの概略を図示した(図5)。現時点で,18文献(総説・図鑑を含む)から抽出した説明画像(線画など)及び該当画像の解説,465枚分の入力を完了した。

 今後,公開の為のHTMLファイル化を行う。今後、各文献から獲た画像の使用制限について調査し,違法にならない範囲で公開する予定である。


図5. 分類データベース構造図
6種類のデータベースが図のようにリレーションすることで,画像・同定データベースを構築する。