3-1-1. 動画撮影装置の改良多くの生物には「動く」という特徴があり,動きによって表現される種の特徴などは静止画像では記録できない。そのため,動画として生きた状態を記録する必要がある。原生生物については,顕微鏡観察下で動画を記録することになるが,その際,通常の顕微鏡カメラと連携したビデオカメラ撮影システムを構築することが望ましい。
なぜなら,実験室で培養できるごくわずかな種類を除けば,野外にいる数多くの原生生物は培養が困難であり,また,それらに遭遇する機会も非常に希だからである。培養が可能な種,ないしは野外で頻繁に発見される種であっても,それが示す様々な生命現象の中には,希にしか起こらないものが数多くある。
それらの希な生物や希な現象は静止画で記録した方がよい場合もあれば,動画でないと駄目な場合もある。しかし,その希な現象に遭遇するたびに撮影装置を取り替えていたのでは,貴重な場面を撮り逃してしまう可能性が高い。
そこで,必要に応じて瞬時に静止画と動画の撮影を切り替えられるシステムとして以下のような条件を満たす装置(Zeiss社製四眼鏡筒)を特注で製作した。
1.通常カメラ撮影と動画撮影の光路をワンタッチで切り替え可能。
2.動画撮影中も双眼で観察可能な光の分配比率(80 : 20)のミラーを用いる。
3-1-2. ビデオカメラの選定
撮影に使用するビデオカメラには,以下の条件を満たすものとして,Panasonic社製のカメラを採用した。
1. ビデオカメラは小型・軽量で,顕微鏡写真撮影装置との併設によっても顕微鏡鏡基のバランスを崩すことがない。
2. 90万画素のCCDにより,DVフォーマット記録の水準を満たすだけの高い水平解像度(約500本)と高い色分解能が得られる。
3. コントローラ側で,感度調節が容易である。
[採用機種]Panasonic社製1/2インチ単板CCD(90万画素)
コントローラ GP-KS1000
図1. 動画撮影装置3-1-3. 動画記録装置の選定と撮影手順
動画においては,編集途中で画像の劣化が起きないように,一次データをデジタルビデオレコーディングする手法を導入した。記録装置として,以下の選定基準に基づいて携帯型ビデオデッキを採用した。
DVデッキ選定の基準
1. 業務用デジタルビデオフォーマットがメーカー毎に異なる方式であるのに対して,民生用DVフォーマットはほとんどの機種間で互換性がある。
2. レコーダー自体が小型で,かつモニター内蔵で顕微鏡周辺の作業スペースを確保しやすい。
3. DVminiテープは小型で一次データの保管性に優れている。
4. デジタルビデオ端子を用いた劣化のない編集が可能である。
[採用機種]SONY社製 デジタルビデオウォークマン miniDV GV-D900
当初,動画をデジタルファイル化する前処理として,出現する原生生物を順次DVテープに記録し,その後,種ないし属ごとに必要な部分のみを他のDVテープに二次データとして再編集する方式を考えていた。しかし,これでは後の編集作業が繁雑になるので,撮影時に各原生生物の属ごとにテープを用意し記録する方式に切り替えた。
これまでに使用したテープは約200本。撮影した原生生物は約200属,種数ではおよそ300種ほどである。
図2. 動画の記録とデジタル化の過程
3-1-4. 動画の取込み
DV (デジタルビデオ)テープから再生された動画を取り込むためのパソコンとして,法政大学備品 Power Macintosh G3 MT266 180Mb/6Gbを利用した。また,動画をパソコンに取り込むための画像入力ボードとしてハードウェアコーデック(信号変換)採用のインタウェア社製DVカードを採用した。
[採用機種]Interware社製 DV Cinema Gear カード
動画の取込みは,上記のカードとビデオデッキとを専用ケーブルで接続し,カードに附属している取込み用ソフト(DV Clipper)を用いて作業を行なった。このシステムでは,動画データは DV-NTSC圧縮と呼ばれる方式で圧縮され,ハードディスク上に動画ファイルとして記録される(注:DV-NTSC圧縮では,コンピュータ表示に用いる画像RGB 24ビットと比べてデータサイズは約1/10に圧縮される)。
また,DVビデオデッキで再生された動画は,リアルタイムでパソコンに転送されてくるが,この動画データは大容量のため,取り込む側のパソコンの処理能力が低いと,動画フレーム(画面)の撮りこぼしが起こる。撮りこぼしを防ぎ,再生されたすべてのフレームを切れ目なくディスク上に書き込むには高速ハードディスク(Ultra-wide-SCSI HDD)が必要である。そのために以下の機種を採用した。
[採用機種]YANO電器製 ハードディスク NJ4500HD-UW
DVテープに記録された動画の編集は,テープでは行なわず,すべていったんコンピュータに取り込み,デジタルファイル化したもので行なった。取り込んだ動画ファイルの保存用媒体としては,昨年初頭(1998年)から普及が始まったDVD-RAMディスクを採用した。DVD-RAMを採用したのは,これが現在普及している記録媒体として,データあたりのコストがもっとも安い(1 M bytesあたり約1円)からである。
[採用機種]Panasonic社製 LF-D100JA
動画の編集をテープ上で行なわず,デジタルファイル化したものを使って行なうことにした理由は以下のとおりである。
まず,通常のビデオ編集では,一次データのあるテープから必要なカットを選び出し,それらをイベントリストとしてまとめた上で,一括して別テープへ転写する作業を行なう。しかし,動画データベースの場合は,撮影した各カットの動画は,将来様々な目的で利用される可能性があるので,あらかじめ特定の目的にしたがって取捨選択するわけにはいかない。
また,静止画の場合は,動いている原生生物を撮影するため,撮影された画像(スライド)の中には,ピントが合わなかったり,構図が良くないなどの理由でデータベースに使えないものが混じってくる。そのため,デジタル化(フォトCD化)の前に,データベースに収録できる画像(スライド)とそうでないものを選別する必要がある。しかし,動画の場合は,静止画の場合のような撮影ミスや不要なカットはほとんどなく,したがってそのような理由で捨てるべきデータもない。
以上のような理由から,撮影された動画データはほとんどすべてをデジタル化し,保存する必要があると判断した。そのようにして蓄積した動画ファイルのストックの中から,必要に応じて適宜ファイルを選んで編集・圧縮作業を行ない動画データベースを構築しネット上で公開していく方針である。
現在は,動画を一次データとして DVD-RAMディスクに保存する作業を行なっている。今後は,取り込んだ各動画ファイル(サンプルごとのファイル)を各カット(場面の切替わり)ごとに切り分け,各カットに学名や場面の説明などのテロップを入れる予定である。この作業には,動画編集ソフトである Adobe Premiereを使用する。
3-1-5. 動画の保存状況
既述したように,今回の動画撮影は,撮影時に各原生生物の属ごとにテープを用意し記録する方式にした。これまでに撮影されたDVテープは約200本であるが,これらに記録された原生生物は約200属,300種余になる。各属の撮影時間は平均30分弱であり,したがって総撮影時間はおよそ100時間である。
撮影は各サンプルごとに平均で2分前後の長さで行なっており,総サンプル数は,推定で3000個程度になる。各サンプルの動画には,細かな場面の切替わりが10〜20秒ごとにある。仮に20秒を1カットとして計算すると,これまでに撮影したカットの総計は約18000個と推定される。
2分ほどの長さの動画を連続して取り込むと,記録された動画ファイルは400 Mバイト弱の大きさになる。したがって,2分程度の動画ファイルを5〜6個,計12分ほど取り込むと2〜2.4 G バイトとなり,DVD-RAMディスク片面の容量(初期化後 2.3 Gバイト,注)とほぼ等しくなる。
注:現在のシステムでは両面を同一のボリュームとして扱えない。したがって,DVD-RAMディスク1ボリュームの最大容量は片面の2.3Gバイト(初期化後)である。
そのため,動画ファイルの撮影時間の合計が,およそ10〜12分の長さになった時点で,いったん取込みを中断し,ハードディスク上に記録された動画ファイルをDVD-RAMディスクにコピーして保存ファイルとした。ついで,ハードディスクにあるファイルを消去した後,取込みを再開する,という作業を繰り返した(現在,継続中)。
上記のように,動画の長さでおよそ10〜12分が一枚のDVD-RAMディスク片面に収録できる。両面のDVD-RAMディスクを使用した場合,やや多目に見て1枚のディスクに30分弱(0.5時間)の動画が記録できることになる。したがって,これまでに録画した動画約100時間分をすべて取り込むためには,およそ200枚のDVD-RAMディスクが必要になる。
DVD-RAMの問題点
上記の作業工程で現在一番の問題となっているのが,高速ハードディスクからDVD-RAMディスクへの書き込みの遅さである。現在のDVD-RAMドライブ(Panasonic 社製 LF-D100JA)では,撮影時間でわずか12分程度の動画ファイル(約2Gバイト)をDVD-RAMディスクの片面にコピーするのにおよそ1時間かかっている。これが作業の進行を著しく遅らせている。当面の対策としては,処理システム(パソコン本体,DVD-RAMドライブ,動画取込み用ボード,高速ハードディスク)を増やして効率化をはかる以外にないが,予算や人手の問題がネックとなっている。