原生生物の採集と観察 |
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3 培養法
2)単離した細胞を培養する
a. 除菌法
上述のように,二員培養,および無菌培養では,細胞を単離する際に完全な除菌を行なう必要がある。バクテリアなどは実体顕微鏡では見えないので,この除菌作業にはそれなりの工夫が必要になる。 ゾウリムシや ミドリムシ 等では,細胞の遊泳力を利用して除菌を行なうのが一般的である。細胞の周囲に混在している雑菌からゾウリムシが離れて雑菌のいない場所まで移動するのを待って,それを単離する。藻類など遊泳しない細胞の場合は,基本的には希釈方式によって周囲の雑菌の数を減らしていく以外にない。 この他,抗生物質を使って雑菌を死滅させる方法もある。これは雑菌の比較的少ない野外のサンプルなどについてはある程度有効だが,富栄養条件で多くの細菌が混じっている場合や,抗生物質の効きにくい菌類に対してはあまり役に立たない。また,何度もくり返して使用していると,抵抗性のある雑菌が増えてくるので次第に効き目がなくなる。 遊泳力を利用する方式,あるいは希釈方式いずれの場合も,除菌の際に注意しなければならないのは,細胞の内部,あるいは表面に付着したバクテリアがいるかどうかである。以下に紹介するゾウリムシの除菌法は,かなりの労力を使うが,これはゾウリムシの食胞内にある雑菌や,細胞表面に付着した雑菌を除去するのに手間がかかるためである。また,藻類の多くは細胞表面から粘着性の物質を分泌しているため,これにバクテリアが付着していて容易に除菌できない場合がある(この除菌法については後述)。 |
細胞の遊泳力を利用した除菌法: |
面倒な移植操作の替わりに,細胞の負の走地性や走電性を利用して,長い管の中を細胞を泳がせて除菌を行なう方法もある。ただし,これらの方法は,遊泳させる細胞の数や管の長さ,溶液の組成,電流量など様々な条件を決めるまでにかなりの試行錯誤が要求される。 |
ところが,ゾウリムシのように細胞内にバクテリアを取り込んで消化する繊毛虫と異なり,周囲にある栄養分を細胞全体から浸透させて増殖する
ミドリムシや
キロモナス
などの鞭毛虫類の場合は,簡単な作業で細胞を無菌化することができる。既述したが,ミドリムシやキロモナスは細胞口を持たず,周囲にある養分を細胞内に「浸透」させることで増殖する。ゾウリムシのような食胞を持たないので食胞に雑菌が残るという心配はない。また,まれに細胞の周囲にバクテリアが付着していることもあるが,一般には細胞表面は非常に平滑でバクテリアなどの付着物は見当たらない。
このため,下図のような簡単な方法で細胞を無菌化することができる。すなわち,デプレッションスライドに入れた滅菌済みの塩溶液(KCM溶液など)の片隅に増殖したわずかな細胞集団を移し入れ(この時,液は極力動かさないようにする),やがて細胞の一部が泳いで反対側へ移動するのを待つ。最初に移動してきた細胞は元の細胞集団に混じっていた雑菌から離れている可能性が高いので,これをすみやかにマイクロピペットで吸い取って,滅菌した培養液中に「単離」する。こうすると,必ずという訳ではないが,複数個の細胞を同じ方法で単離すると,その中のいくらかは完全に無菌状態となって増殖を始める。 |
長年,ゾウリムシのコンタミ(雑菌の混入)に悩まされ,無菌培養も何度も試みて途中で挫折した筆者にとってはこのように簡単に無菌化できるというのは驚きであった。そのため,現在は,数多くの鞭毛虫,藻類を無菌化して培養するようになった。 |
SDSを利用した除菌法:
これはつい最近初めて成功したばかりの方法なので再現性がどれくらいあるかはわからないが,界面活性剤であるSDSを使った除菌法を紹介する。SDSといえばDNAを抽出する際に細胞を溶かすための薬品として知られているが,先に紹介したように藻類はSDSに対してかなりの耐性を持つものが多い。とくにクロレラ類は容易に溶けないが,今回は,接合藻類チリモ目のアワセオオギ( Micrasterias rotata )の除菌にSDSを使用した。 このM. rotataを単離培養しようとしたのだが,当初細胞全体に0.02%ハイポネックスの培養液中で非常に増殖しやすいバクテリアが付着していて,これが希釈法では容易に取り除くことができなかった。このバクテリアが増えるにつれ,M. rotataが少しずつ死に出し培養が危うくなりつつあった。そこで,思いきってこの細胞を1%SDSに5分間おき,その後で希釈法で除菌を行なった。すると見事に除菌が成功し,その後の細胞は元気に分裂を続け,死ぬものもなくなったのである。このようなことができるのは藻類ならではで,繊毛虫や肉質虫類には当然ながら応用するのは無理である(なお,同じ接合藻類でもホシミドロ目の ミカヅキモ は比較的SDSで溶けやすいので,この方法は適用できないだろう)。 |
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