原生生物の採集と観察
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1 原生生物の採集法

4)採集後に培養してから観察する方法
 持ち帰ったサンプルはなるべく早めに観察した方がよい。というのは,当然ながら小さなサンプル容器の中でも微生物間の食う食われるの関係は続いているし,時間の経過とともに容器内の環境は採集当時とは異なるものに変化してしまうためである。
 一方,採集直後のサンプルでは見つからなかったとしても,それは数が少ないために見つかり難いだけで実際にはごくわずかだが存在している可能性がある。そこで,既述したように採集したサンプルに米粒などの栄養分や光を当てたり,あるいは餌生物を与えて,観察したい生物が増殖しやすい環境を作ってやれば観察しやすくなる。
 また,原生生物の多くは生育に適さない環境ではシストと呼ばれるものに変化して休眠している。採集したサンプルにはこのシストが多数混じっている可能性もある。そのため,最初は観察されなくても,サンプルを放置しておくと,時間の経過とともに,シストから出て増殖を始め観察されるようになることがある。さらに,それらの生物を餌とする捕食性の繊毛虫や肉質虫が増えてきたり,逆に,それらが出す老廃物を栄養素とする藻類がゆっくりと増え出すこともある。いわゆる生態系の遷移と呼べる現象が採集したサンプルという微小な世界で繰り広げられるのである。ただし,この「遷移」は陸上の生態系の遷移とは比較にならないほどの速さで進行する。昨日まで観察できたものが次の日は姿を消し,それまで観察されなかったものが見つかる。このため,観察は毎日行なうのが望ましい。
1つのサンプルをいくつかに分けて,異なる条件で培養を続けると,それぞれの環境を好む原生生物が増えてくる。また,時間の経過にともない種類が様々に入れ替わる「遷移」も起こる。
注:ミジンコやミミズ類,ボウフラなどは,あらかじめ取り除いておいた方がよい。
 ただし,当然ながら,採集したサンプルにそれらの生物が多少とも含まれていなければ,いくら待っても無意味である。この辺が歴史のある池沼と比較的新しい池,ないしは人手が頻繁に入った池沼との違いでもある。既述したように,古い池沼や旧江戸城の外濠などは,一見するとアオコばかりしかいないようだが,そこにはわずかずつだが無数ともいえる原生生物が潜んでいる。これに対して,掃除や薬剤散布など手入れが行き届きすぎた池沼の場合は,岸辺に草木が生い茂り,水中にはアオコが繁殖している点では似ていても,原生生物はほとんどいないので,上記のような「遷移」は起こらない。
 長期間(1週間あるいは1ヶ月以上)放置しておくと次第に遷移が止んで,いわゆる極相状態に近付いてゆく。米粒を入れた場合はそれでもゆっくりと変化し続けるが,光だけを与えた場合は,特定の藻類が大部分を占めるようになる。ただし,さらに時間が経過すると容器のサイズにもよるが小さなシャーレなどの場合は,次第に環境が悪化して米粒,光条件の違いによらず次第にすべての生物が死滅してしまう。容器がある程度の大きさだと,様々な生物が生息できる多様な環境が維持されるためと思われるが,循環型の生態系が確立し長期間安定することもある。
 なお,採集したサンプルにワムシやミミズ類の他,ミジンコ,ボウフラなどの節足動物がいる場合は,最初にそれらを除去しておく必要がある。そうしないと原生生物の多くはそれらの飢えた多細胞動物達の餌食となってしまうからである。

さらなる工夫
 この「培養してから観察する」方法の発展型がある。それは採集サンプルを小分けして培養する,という方法である。採集サンプルにたくさんの原生生物が少しずついた場合,それらをそのまま培養すると,既述したように,培養器の中では食う食われるの関係や,その他の生物間の相互作用(有害な排泄物がたまる等)によって,あるものは増え,あるものは減っていく。そこで,採集サンプルをいくつかの小型シャーレに分配したり,マイクロピペットで数μlずつ多孔型のプラスチック容器に入れて,そこに適当な培養液を加えておく。こうすると,最初の採集サンプルには多数の原生生物がいるため,互いの競争関係によってそのままでは増えることのできなかった種類が,小分けされ競争相手がいなくなることで増殖できるチャンスに恵まれるようになる。この方式をとると,採集サンプルをそのまま観察したのでは発見できない少数派の種類を観察できる可能性が高まる。

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