5 今後の課題
この報告書は,
1)
ユニバーシティ・ミュージアムの設置について(報告)
一一学術標本の収集,保存・活用体制の在り方について一一
平成8年1月18日
学術審議会 学術情報資料分科会 学術資料部会
2)
学術標本画像データベース作成の指針
平成8年1月12日
学術審議会学術情報資料分科会学術資料部会
大学博物館ワーキンググループ
という2つの文書からなる。
1)では,「学術研究の所産として生成され,また研究課題に沿って体系的に収集された学術標本は,これまでの学術研究の発展過程を証明する貴重な資料であると同時に,自然史,文化史等の研究に不可欠な資料として重要な役割を果たしてきた。」として,学術標本の重要性を指摘している。しかし,現実には,国内の研究機関にある総計2500万点におよぶ標本のほとんどがデータベース化はおろか目録すら作られていない状況を(参考資料)「大学における学術標本の現状」として紹介している。
これを受けて2)では「大学等においては,学術研究活動に伴い様々な学術標本が産出されているが,近年の分析法や解析法の目覚ましい発達によって,学術標本から新たな学術情報を生み出すことが可能になったこと等により,多面的な情報を有する学術標本を実証的な研究・教育に活用することの必要性が急速に高まってきている。」とし,そのためには学術標本のデータベース化が不可欠であるとして,それを構築するための具体的な指針を提示している。
指針の中で,とくに重視しているのは,画像データベースの画像解像度である。すなわち,「画像データベースの画像データは,サムネイル検索からインターネット等による 利用,あるいは端末表示による研究・教育用として多様な活用が見込まれる。したがって,場合によっては,同一資料であっても解像度の異なる画像データを準備することが望ましい。具体的にはサムネイル用の100×200ピクセル(画素)程度から超高精細の4000×6000ピクセル程度の範囲での数種類が想定される。 」として以下のような事例を紹介している。
a.画像入力装置による基本画像作成
1.ディジタル・カメラによる直接入力もしくは通常のカメラによる
ポジ又はネガフィルムを作成し,入力する。
2.画像入力に当たっては,用途に応じ,解像度の異なるレベルの画像を
作成する。
(作成の1例)
レベル ピクセル数 用途
第lレベル 100×200程度 画像データベースの検索用,インデックスプリント用
第2レベル 250×300 〃 縦位置の画像を上記と同じく表示できる
第3レベル 500×750 〃 通常のテレビ表示用(通常テレビ級の端末表示用)
第4レベル 1000×1500〃 HDTV(ハイビジョン等)表示用
第5レベル 2000×3000〃 プリント出力用,印刷用
第6レベル 4000×6000〃 超高精細画像用,精密印刷用
(以上は,「学術標本画像データベース作成の指針」からの抜粋)
また,注として「大学で多種多様,かつ大量の学術標本をデータベース化するためには画像入力装置等の機器の整備が必要であるが,個別研究者が小規棋なデータベースを作成する場合には,通常のカメラで撮ったポジ又はネガフィルムを利用し,入力は外部委託することが可能である。 」とコメントが付けられている。
これらの指針は,アリおよび原生生物情報サーバが採用してきた画像のディジタル化,およびネットワークでの公開の方式とおおよそ合致するものである。そのためもあってか,「指針」の中では,(参考資料)として,東大総合研究資料館が作成した「考古資料画像データベース」と並んで,「日本産アリ類カラー画像データベース」が学術標本画像データベースのモデルケースとして紹介されている。
しかし,現在ネットワーク上で大学やその他の研究機関が公開している画像資料のほとんどは画質や解像度の点で上記の指針にある条件を満たしていない。そのほとんどは,残念ながらモニタ画面で閲覧できればよいという程度の解像度であり,通信時間を短縮するために画質を落として表示している場合が多い。ようするにパンフレット程度の内容を公開しているだけで,学術資料として利用可能な情報提供になっていないのである。多くが試験的なネットワーク公開の段階に留まっているため,学術資料としての情報公開にまで配慮が行き届いていないのであろう。
その意味では,この「ユニバーシティミュージアムの設置について」および「学術標本画像データベース作成の指針」は,今後の学術資料のネットワーク公開を推進していく上で重要な意味があると考えられる。
ただし,報告書の形ではそれが多くの人々(とくにネットワーク上で学術情報の公開を目指している人々)の目に触れる機会が少なく,せっかく指針を作っても十分に活かされない恐れがある。そこで,我々は,その内容をWebPage化してネット上でも紹介したいと考え,文部省学術国際局学術情報課の許可を得てアリおよび原生生物データベースの関連資料として公開している。