研究資材データベース構築&公開ガイド |
7. 将来展望 |
学術情報にとってその永続性は不可欠の要素である。印刷メディアに記録された場合には,それが学術印刷物であれば図書館など公的な保存機関の存在によって,その永続性は十分に保証されているが,ネットワーク上で公開された学術情報に関しては,現在,一部を除いて,そのような公的保存機関はなく,したがって永続性は保証されていない。 とくに,ここで取り上げている研究者が個人または小グループでボランティア的に発信した研究資材情報データベースの場合は,いかにその学術的価値が高くとも,その個人または小グループがサーバを維持できなくなれば,とたんにそれらの情報はネットワーク上からは消滅してしまうことになる。 そのような永続性の保証されない情報であっては,学術研究に利用するわけにはいかない。なぜなら,学術研究で利用した情報源は,本来,すべて引用に明記し後世の人々が参照できるようになっていなければならないからである。いずれ消滅してしまうかも知れない情報源を引用するのは無意味,というよりはむしろ危険である。 したがって,現状のままではネット上で公開された学術情報は,いかに学術的価値の高い情報であっても,その永続性が保証されないため,本来の学術情報としての利用価値がないといえる。近年,学術文献等で引用元として様々なURLを記載するケースが増えているが,果たしてこれらの内,どれだけが10年後,20年後,さらにはその後も引用元として存在し続けるのであろうか?もし,それらがすべて消滅したとすれば,引用した文献そのものが,やがては学術情報としての存在意義を失ってしまうはずである。 かといって,それを理由に,ネットワークを学術情報発信のための媒体として利用するのを止めてしまったのでは元も子もない。この問題については,その考え得る解決策とともに 別 紙 で詳細に論じているので,そちらを参照願いたい。
とはいえ,上記のリンクも将来消滅してしまうかも知れないので,以下にその概略を示しておく。 従来の科学のシステムでは,:研究者が生産した情報は,学術雑誌等の印刷メディアを介して公開される。そして,公開されたものは大学図書館等の公的機関で恒久的に保存される。学術情報は,このような生産と公開,そして保存という3つの要素(ないし機関)が連携してはじめて学術情報本来の機能を果たし得る(ただし,この場合,公開の前に学術的価値の評価が行なわれ,一定の評価を得たもののみが公開される)。 一般に,生産(研究者)と公開(学術雑誌)の役割については認知されているが,大学図書館等の公的機関が果たしている保存の役割については意識されることが少ないようである。だが,この学術情報の恒久的な保存がなされてこそ,後になって論文等で引用することが可能となるのであり,研究の継続性が保証されるのである。したがって,情報を恒久的に保存するための公的機関は学術情報にとって不可欠の要素といえる。 以上のように,学術情報が学術情報として機能するためには,生産・公開・保存という3つの要素が備わっていなければならない。だが,現在,ネットワーク上で公開されている学術情報については,一部の例外を除いて,それらを恒久的に保存するための公的機関が存在しない,という致命的な欠陥がある。(また,印刷メディアには備わっている学術的価値の評価システムもない)。このため,これまでも指摘しているように,ネットワーク上にある情報は,その学術的価値の有無/高さに関わらず,論文等で引用することができず(もしくは引用しても無効になる可能性が高いので),実質的には学術情報としての利用価値を持たないのである。 したがって,今後は,ネット上にある学術情報を恒久的に保存する公的機関の設置が望まれる。 ただし,その際に問題になるのは,学術的価値の評価をどうするか,である。従来の科学では,研究者が生産した情報が学術雑誌等で公開される前に,Peer Reviewによってその学術的価値の評価がなされ,学術的価値があると認められたもののみが公開されるという「品質管理システム」があった。しかし,ネットワークメディアにおいては,生産者である研究者がみずから情報の公開もできる,という点が大きな特徴である。このため,情報が公開される前に「品質管理」をするのは難しい。 そこで,ネット上にある情報については,公的機関が保存をする際に,学術的価値があるか否かを判断して,価値があると評価されたもののみを保存する,という方式が考えられる。 |
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