研究資材データベース構築&公開ガイド
back 1-4. 有用なデータベースとは? forward

 重要なことは,研究面であれ,教育・その他であれ,実際に役に立つものを作ることである。決してデータベースを構築することだけで自己満足してはならない。

 それでは一体何が「役立つ情報」なのだろうか?もちろん,公開された情報に学術的価値がなければ無意味だが,しかし,たんに学術的価値があるというだけでは「役立つ情報」とはいいがたい。

 なぜなら,情報が伝達されるためには媒体が必要な訳だが,その媒体には様々なものがあり,ユーザーはもっとも利用しやすい媒体を通じて情報を得ようとするからである。そのため,学術情報をネット上で発信しても,同じ情報が他の媒体(印刷,放送など)にもあり,そちらの方がユーザーにとってより利用しやすければ,ネット上にある情報は利用されない可能性が高い。すなわち,学術的価値のある情報ではあっても実際には役に立たない(=利用価値がない)かも知れないのである。

 ネット上にある情報には,簡単に入手できるという大きな優位性があるが,一方の印刷物には,特別な電子機器などを使わなくてもいつでもどこでも手軽に手にとって見ることができるという利点がある。とくにたくさんの文字情報からなる書籍などの場合,それがすでに手許にあるならば,わざわざネットにアクセスして見るという人は少ないはずである。

 それでは,いったいどうすれば,あるいは,どのようなものが役立つ情報,ネット上で公開する意義のある情報,となり得るのであろうか?これについては,要は,従来のメディアと競合しないもの,すなわち従来のメディアでは発信できなかったものであればよい,といえる。たとえば,従来,必要とされていながらもあまりに量が多すぎて印刷メディアでは公開できなかったもの(その代表がゲノム情報),あるいは,音声動画などそもそも印刷メディアには載らないもの等である。これらこそが電子メディアとしてのネットワークの特性を活かして発信するのにもっとも相応しい素材といえる。

 ここでいう印刷媒体にはない「電子メディアとしてのネットワークの特性」とは,公開可能な情報の量が圧倒的に多いこと,また,その種類が多いことである。(情報伝達速度が圧倒的に速いのもネットワークの特性だが,伝達速度の速い遅いは情報の内容そのものには関係しないのでここでは除外する。)
 今日,ハードディスク等の記録媒体の記憶容量の増大には目をみはるものがあるが,これらの記録媒体を使って発信できる情報の量は事実上無限大といってよい。また,それらの記憶媒体にある情報は基本的には0,1という単純で共通のデジタル信号で記述されているわけだが,それを受信する人間には,文字や画像(静止画)だけでなく,音声や動画といった従来のメディアでは扱えなかった多様な情報として伝達され得る。

 印刷媒体に慣れ親しんだ人々の中には,メディアを通じてそのような膨大で多様な情報が受発信できるという現実の変化に十分対応できていない人も多いように見える。また,従来の感覚では,学術情報(論文等)は文字と静止画(しかも多くは白黒画像)で表現するものであり,それ以外の表現方法が取り得るということじたいを受け入れがたいと感じている人もいるかも知れない。

 たしかに,科学が誕生して以後,つい最近までは,科学が利用してきた情報メディアはそのほとんどが印刷だったのだから,急に新しいメディアを取り入れるのには抵抗があろうし,適切な利用法が生まれるまでには相当な時間が必要なのもたしかであろう。

 しかし,ネットワークの登場で学術研究以外の様々な分野も大きく変化しつつあり,この変化の流れの中で学術研究だけが従来のままでいる訳にはいかない。ならば,そのような時代の変化に追随するのではなく,ネットワークを積極的に取り入れて自らの手で学術研究のあり方を変化させていくことこそが,知的創造を主たる任務とする研究者の果たすべき役割なのではないだろうか。

 なお,当然ではあるが,データベースはできてしまえば,それで終わりというわけにはいかない。データベースの有用性を維持するためには,常にデータの追加/修正を行なうとともに,利用者の要望や批評を受け入れて,より有用なデータベースとなるよう常に改良に努める必要がある。

 以上の諸点を踏まえて,研究資材データベースを作成する際に心掛けるべき要点を次に示す。

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