3 克服すべき課題
研究者は本来情報生産・発信者としての社会的役割をもち,その意味で印刷メディアだけでなく,新しい電子メディアとしてのインターネットを利用した情報発信を積極的に行なうことが期待されている。とくに,インターネットでは,従来の印刷メディアでは扱い切れなかった膨大な量の研究素材データ(遺伝情報,画像等)をデータベース化し公開することが可能である。しかし,インターネットの発達はあまりに急速であるため,多くの研究者はデータベース化・WWWサーバの構築などの情報発信技術を十分に習得できておらず,結果として,情報公開ができずにいるのが現状である。そこで,今後は,容易に情報発信ができるシステムの開発・サーバ構築の指導など技術的支援を行なうことが急務となっている。
とはいえ,研究者からの情報発信が遅れている理由は,そのような技術的習熟度の問題だけではない。今日,WWW(World Wide Web)による情報発信は,研究分野以外では非常に活発だが,このことはWWW等を利用した情報発信が技術的には比較的容易であることを端的に示している。したがって,研究者自身に情報をネットワークを介して発信したいという強い欲求があれば,WWWサーバの構築法などの技術的課題は自ずと克服できるはずである。これからいえるのは,研究者の多くはそのような情報発信への欲求を持っていないということである。その理由としては,多くの研究者がインターネットのメディアとしてのすぐれた機能を十分に理解していないということもあげられるが,同時に,仮にインターネット上で学術情報を公開しようとしても,そのために必要な環境が十分に整っていない,ということもあげられる。
すなわち,現状のインターネット上で公開された学術データについては,そのURLの不安定性,authorizationの欠如などの問題があり,学術雑誌上に公開する論文等と同等な学術的価値が保証されないのである。学術的価値が保証されなければ,業績としても認められず,したがって公開をしても無意味と判断されてしまう。これが研究者から情報公開しよういう意欲を奪っている最大の要因と考えられる。以上のように,インターネットはいまだ学術情報公開用のメディアとして十分な機能を備えていないのである。そこで以下の2つの問題が浮んでくる。
1)ネットワークで公開された情報の学術的価値を保証するためには,長期的
安定的に情報公開が維持されなければならない。現在は非常に不安定。
2)公開された情報の質を保証する評価システムが必要である。
現在は,それが存在しない。玉石混交。
これらの問題点が克服されれば,研究者からの情報公開が促進されるはずである。そこで具体的にはどのような対策が必要かを次に述べる。