公開講演会: 生物多様性研究・教育を支える広域データベース


アサガオ類画像データベース
データベースの内容と利用状況
米田芳秋
 

 総研大企画の共同研究「生物形態資料画像データベースの構築」の一環として上記データベースを作成し,1998年よりWeb上で公開している。編集は法政大の月井雄二氏が担当している。

 アサガオはヒルガオ科に属する。アサガオ類(Morning Glories)という言葉は広くアサガオ類似の植物を指すが,本データベースでもヒルガオ科の中で比較的によく知られている植物を加えている。しかし,中心はアサガオ(Ipomoea nil)である。アサガオは中国から渡来した植物で,江戸時代に多数の突然変異体が出現し,これらが組み合わされて日本独特の園芸植物となった。いわゆる古典園芸植物の一つである。これが材料となって,20世紀初めより日本の古典遺伝学が開始された。これまで200以上の遺伝子が分析されている。したがって生物多様性という観点からすると,アサガオはその中に多数の突然変異遺伝子の組み合わせからなる多様な系統を有する植物といえる。また演者が近縁種のマルバアサガオ(Ipomoea purpurea)を交配して種間雑種を育成して以来,新しい栽培品種が加わりこの面での多様性も増加しつつある。本データベースではこれらの植物の画像を中心に歴史,遺伝上の説明を加え,関連文献を掲載した。

 アサガオは小学校の教材として広く使われているので,小学生向けの写真図鑑をデジタル化して取り込み,アサガオ入門とした。また一般愛好者も多く,同好会が各地にあるのも特徴の一つである。このため,小学生から研究者までを広く対象としたデータベース作成を心掛けた。

 九大の仁田坂英二氏もアサガオホームページを作成し,分子遺伝学的研究を含めて広くアサガオを紹介している。上記共同研究において,法政大と九大分を統合してアサガオ画像データベースとして2000年にWeb上で公開し,CD-ROMを作成,配布している。

 アサガオは典型的な短日植物として1950年代以来日本で研究が進展し,その後花芽分化の研究材料として国際的にも広く使われている。2001年度よりアサガオの生理学分野を新潟大の和田清俊氏が担当協力している。

 また,農業生物資源研究所が開発した生物系のサイトに特化した検索エンジン,BioCrawlerを利用させてもらい,これら3箇所(東京,福岡,新潟)にあるデータを一括して検索できる「アサガオ統合検索」が実現した。これにより地理的に離れている3つのWebサイトを統合してアサガオ関連の広域データベースとして利用することが可能になった。

 アサガオというと小学校低学年の教材や夏休みの自由研究のテーマとしてよく使われている。このような活動を通じて生物への興味が深まり発展していく子供がいる。小学校教員からの質問もある。研究者,趣味家,一般の方からは情報交換,質問,種子分譲依頼,CD-ROM購入希望などがあり,企業などから画像掲載依頼,取材依頼があった。

 このようにデータベース公開により交流の範囲が確実に広がったという点に大きな意義がある。小学校でインターネット使用がさらに普及すれば教育現場での活用が一層増加するのではないだろうか。

 現在,英語版を作成中で,これにより日本の伝統的な園芸植物としてのアサガオがさらに広い地域で理解され,異文化交流という面でも役立っていくことが期待される。また英語版を含めたCD-ROMの制作改版を予定している。

 現在は総研大,法政大,新潟大,九州大において管理し,ミラー遺伝学普及会に置いているが,今後は九大を中心に管理をしていく予定である。

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