公開講演会:生物多様性研究・教育を支える広域データベース |
日本産アリ類画像データベース 今井弘民(国立遺伝学研究所 / 総合研究大学院大学) |
アマチュアグループによるアリ類画像データベース登場 |
暗い話が続いた。またしても日本は乗り遅れたかという声が聞こえそうであるが,実は日本にはかつて学問としての自然史科学が根づいたことはなかったのである。明治以来日本の博物館は,社会教育目的の展示場で学問としての分類学の拠点ではなかった!また日本に大学博物館が設置されたのはつい最近のことである!従来の日本の分類学(特に昆虫分類)を担ってきたのは,実は,個人の篤志家つまりアマチュアであった。アリもまた例外ではなかった。
アリは,身の回りでよく見かける昆虫でしかも仲間と助け合って高度な社会生活をするためか,昔から蟻(義の虫)と呼ばれ一目おかれてきた。現在日本には273種のアリが知られているが,10数年前までは極く普通に見られる種でもその学名ははっきりしていなかった。というのは大半(200種以上)のタイプ標本が欧米の自然史博物館に収蔵されており,加えて日本にはアリの文献が皆無だったからである。この窮状を救ったのは,私財を投げ出しアリの文献と標本を収集した一人の在野のアリ研究家であった。そのような経緯を経て,1965年にアリの同好会(日本蟻類研究会)が結成され,1988-1994年に同研究会の有志が日本産アリ類の分類学的な整理をおこなった。これにカラー画像を加えて日本産アリ類図鑑を刊行しようとしたが,カラー印刷が高価なため実現できなかった。丁度そのときインターネットが実用化され,生物情報学のメンバーの協力を得て「日本産アリ類カラー画像データベース」としてWeb上に公開したのが1995年1月であった。そんな経緯でできたアリのデータベースが,公開以来高い人気を保ち続けているのはどうしてであろうか?次にアリ類画像データベースの特色を述べて,その理由の一端を考察してみたい。
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