科学とインターネット
ネットワーク上の学術情報を評価しバックアップする社会システムの必要性 月井・木原・鵜川
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4 研究経過

 我々は,試験研究「生物分類情報の広域データベース化とそのネットワークにおける利用システムの開発」(1995-1996)により,日本産アリ類(http://www.dna.affrc.go.jp/htdocs/Ant.WWW/htmls/index.htm),および原生生物(http://protist.i.hosei.ac.jp/protist.html)に関する様々な情報を広域データベース化しネットワークで公開する活動を行なってきた。現在までに,アリ類については258種の模式標本の画像(約1000枚)と分類学的記載データを,原生生物については,3600枚以上の画像データと各生物種(260種以上)の分類情報をデータベース化した。また,ネットワーク公開と同時に,各々のCD-ROMを作り,一般への無償配布(一部有料)も行なっている。CD-ROMはすでに累計7000枚を配布済みで,ひき続き「アリ類」についてはその英語版を,「原生生物」についてはデータを大幅に追加・更新した第3版(大型画像を除いたCD-ROMと完全版のDVD-ROM)をそれぞれ製作し一般に配布する準備を進めている。

原生生物情報サーバの初期画面
原生生物図鑑」では,分類体系に従って画像とその分類上の記載データがある。 「研究資料館」がデータベースの本体で,ここでは3600枚の画像を色々なサイズで閲覧できる。 「原生生物学関連情報」では研究者のホームページ,メーリングリストの紹介など関連する情報を紹介している。 画面では隠れているが下には「インターネットと生命科学」としてこれまでに発表した論文などをWebPage化してある。 ( http://protist.i.hosei.ac.jp/protist.html)

 以上のような活動を続ける過程で,研究者がネットワークを媒体として学術情報の発信・公開を続けていくためには,前述のような学術的価値の評価と恒久的保存のための社会システムが必要不可欠であることに気付いた次第である。

 その後,平成9年度より日本産アリ類,および原生生物をモデルとし,他の生物においても同様なデータベースを構築しネットワーク公開することを目的とした「生物形態資料画像データベース」プロジェクト(総合研究大学院大学;研究計画3年)が発足した。我々もこのプロジェクトに参加して,他の研究グループ(海棲哺乳類・哺乳類頭蓋・ショウジョウバエ・ハツカネズミ・ヒドラ・牧野標本館植物・アサガオ)が行なう画像を中心とした広域データベース作りに協力している。本研究においては,このプロジェクトで他の研究グループが公開するデータベースを,評価と保存のためのシステム作りのモデルケースとして利用させてもらう予定である。

生物形態資料画像データベース参加グループ
日本産アリ類 遺伝研,農業生物資源研,法政大,帯広畜産大,
白梅学園短期大,九州大,人と自然の博物館,
(協力:CSIRO, Canberra, Australia)
原生生物 法政大,農業生物資源研
(協力:石巻専修大,筑波大,都立大)
海棲哺乳類 国立科学博物館
哺乳類頭蓋 獨協医科大
ショウジョウバエ 京都工芸繊維大
ハツカネズミ 宮崎医科大
ヒドラ 遺伝研
牧野標本館植物 都立大
アサガオ 静岡大

 さらに,同年度には,科学技術振興事業団(JST)が計画した「平成9年度 科学技術振興調整費による知的基盤整備推進制度」の新規課題:「生物系研究資材のデータベース化及びネットワークシステム構築のための基盤的研究開発」(研究計画5年)にも参加している。ここでは,生物系の研究資材等の学術情報をデータベース化しネットワーク公開する作業をマニュアル化するとともに,ネット上で公開された生物系の学術情報をロボットを使って収集し,データベース化して,統合情報検索システムを構築する予定である。
 JSTの研究では収集する対象を生物系に限っており,そこで構築される統合情報検索システムも「保存」システム構築の前段階でしかない(公開された学術情報のすべてをバックアップする計画は当面含まれていない)。そこで,収集する対象を基本的には学術研究の全分野に広げることを目指して本研究が計画された。また,学術情報の保存(バックアップ)システムを構築する上で必要となるサーチエンジンとしては,JSTの研究で構築される統合情報検索システムにあるものを活用し,これを基本として保存システムを構築する上で必要となる諸条件を検討したい。


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