ただし,この方法は当然だがO型のものには適用できないし,また,すべてのE型が型転換するとは限らない,など一般性に欠ける。
P. burusaria(ミドリゾウリムシ), P. trichium は一般に被誘導能のないものが多い。(ただし,遠藤によって中には被誘導能のあるものも発見されている。)また,ゾウリムシの中でも,シンジェン1の株では今のところ被誘導能のある株は発見されていない。
また被誘導能があるといっても,どの程度の細胞が接合するかは株によってかなりのばらつきがある。したがって,この方法を用いて突然変異のスクリーニングなどを行なおうとする場合には,被誘導能の最も高い株を選んで行なうようにすべきである。
ゾウリムシ シンジェン3では,27aG3 系列の株に高い被誘導能がある。この株では状態のよい場合には90%以上の細胞が接合に参加する。
ただし,この方法では通常の接合対を形成するもののほかに頭と尻どうしが接着して多数の細胞が塊を作ってしまうこともある。とくに被誘導能の高い株ほどその傾向が顕著である。これは通常の接合では頭から順に繊毛の退化が起こるのに対し,ほとんど一度に頭から腹にわたって退化が起こるためとみられる。このような場合,正常な核交換は行なわれず多くは自家生殖になってしまうのではと予想されるが,実際に確かめてはいない。
化学試薬による接合の誘導には処理される細胞に高い接合型活性のあることが条件となる。(ただし,これも接合型活性そのものが必要なのではない。その証拠にたんぱく質分解酵素で接合型活性を消失させても,被誘導能は失われない。)
手 順
1:接合型活性の高い株(試験管培養の場合は,通常は培養液を与えた翌日)を
以下の溶液で洗い,試験管に適量を分注する。
前処理溶液:
このためには細胞の量が少量ならば手回し遠心機を用いればよいが,大量に処理したい場合は,油分離用の遠心機により梨型遠心管に入れて遠心を行なう。
(あれば,の話だが。油分離用の遠心機は使用目的が限られる割には値段が高い。昭和60年あたりで50万円くらいする。)
上記の溶液は,三宅の場合と異なり,リン酸ナトリウム緩衝液のかわりにリン酸カリウム緩衝液が用いられている。これは,ナトリウムよりもカリウムイオンのほうが接合誘導により効果があるためで,また,そのときのpHも7.0ではなく6.0とやや酸性よりにしてあるものこの方がより接合率が高いことが三宅自身によって報告されているからだ。
また,試験管に洗った細胞を入れるのにもそれなりの訳がある。化学試薬による接合の誘導は,ごく微量のカルシウムなどのイオンによって阻害される。そのためデプレッションスライドなどで反応を行なわせようとすると,ガラスから浸出してくるイオンによって誘導が阻害されることがあるのだ。当初はこの原因がわからず苦労した経験がある。試験管は材質の関係でそのようなことはないようだ。
<<準備中>>
加えた直後の細胞の動き
これで1時間ほどすると多数の細胞が互いに接着を開始する。
これは私(月井)が開発した最も普遍性のある方法と自負している。基本的には接合型活性のある細胞ならばどれにでも適用できるので,上記の方法では自系接合を誘導できないものでもこの方法ならば大丈夫である。
基本原理:
自系接合を誘導したい株に対して,相補的な接合型活性のある細胞をニッケルにより麻酔してから混ぜ合わせる。そうすると交配反応は起きるが麻酔された細胞の側は麻酔から冷めるまではつぎのステップ,すなわち接合対形成に進行しないので,結果的に麻酔されなかった側に細胞どうしが接着し自系接合となる。
ただし,この場合時間が立つと麻酔された側の細胞も麻酔から冷めるにつれ,遅ればせながら接合対を形成し始めるので,
{手順}