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アメーバの培養法


 アメ−バ・プロテウス(Amoeba proteus)の培養に使用する餌としては,原生動物繊毛虫,テトラヒメナ(またはゾウリムシ)と,鞭毛虫,キロモナスとがある。



テトラヒメナによる培養

 テトラヒメナは,無菌培養が容易である。そのため,通常は無菌培養したものを,アメ−バ用の塩溶液(後述)で洗ってから与える。テトラヒメナが適量与えられた場合,遅くとも1〜2時間以内には,ほぼすべての細胞が満腹になるまで食べる。テトラヒメナを餌として毎日与えた場合,一日に約一回くらいの頻度で分裂する。

1)通常の培養法(室温での維持)

 通常は,2〜3日に一度位の頻度で餌を与える。あらかじめ餌を与える前に汚れた培養液の上半分くらいを捨てて(このときアメーバは底にいる),新しい培養液を補充してから餌を与える。テトラヒメナは,一日に食べつくせるくらいの量を与える。
 与える適量をどうやって判断するかだが,これは結局経験的に判断するしかない。目安はアメーバ少なくとも4〜5匹,多ければ十数匹のテトラヒメナを食べて満腹になるので,アメーバの数に対して,十数倍の数のテトラヒメナがいれば充分である。これ以上は,元気のよいアメーバ株なら多少多めでもやがて喰いつくすが,増殖の遅い株などの場合は,食べ残したテトラヒメナによって培養液が劣化してアメーバが死んでしまうこともあるので要注意。
 また,これを続けると,培養している細胞密度にもよるが,しばらくたつとシャーレの底が雑菌の繁殖等により汚れてくる。一般には,かなり汚れても培養液の汚れほどの悪影響はないので焦ってシャーレを交換する必要はない。適宜取り替えるべし。

2)実験に使用する際の培養法(大量に条件のそろった細胞を集める)

 実験の際には,早く,生理的条件の整った大量の細胞が必要になる。この方法はそのような要求にあった培養法である。かなり手間もかかるが,増殖が速く,細胞の状態のよいものが大量に得られるという利点をもつ。
 この方法の1)との違いは,最初に培養液の交換をせず,餌を先に与えること。そして,餌を与えた後,満腹になった細胞がシャーレの底にかたく接着する性質を利用して,その時点で,食べ残したテトラヒメナを残った培液とともにすべて捨ててしまうことにある。この後,新鮮な培養液を与える。その結果,そこには満腹のアメーバと汚れていない培養液だけが残る。
シャーレの底が汚れていた場合は,餌を与える前の細胞は培養液中に浮遊しているので,これらを汚れた培養液とともに新しいシャーレに移す。そのうえで,餌を与える。後の操作を上記と同様に行なえばよい。
 この方法では,培養条件が毎日最適条件に戻されるので,コンディションの揃った細胞を得ることができる。この方法で大量培養も可能となる。
 ただし,既述したように,過剰に与えた場合は,食べ残したテトラヒメナをできるかぎり早目に除去するなどの注意が必要となる。また,テトラヒメナによる培養は,増殖速度が早いと同時に,餌をあたえないでおくと,弱るのも速く,室温では4〜5日以上餌を与えずにおくのは,危険である。
もし,どうしても4〜5日以上餌を与えることができない場合は,下記のキロモナスの場合同様,シャーレに1,2粒の白米を入れておくとよい。


キロモナスによる培養

 キロモナスは,別に培養したものを,テトラ同様アメ−バ用の塩溶液で洗ってから与えてもよいが,下記のように混合培養することもある。しかし,いずれにしても,アメ−バ細胞はキロモナスを一度に満腹になるまでは食べられないので,常にキロモナスを混在させながら培養をする必要がある。そのため,テトラを餌にした場合に比べると,分裂頻度は良くないし,細胞のコンディションも揃わない。したがって,コンディションの揃ったある程度の数の細胞が要求される実験には適していない。
ただし,白米を2〜3粒アメ−バの入ったシャ−レに入れ,これにキロモナスを加えておくと,白米から少しずつ浸みだす養分で,キロモナスが増え,それを食べてアメ−バが増えるという条件ができる。この方法(混合培養)では,長期間(ただし,1カ月以内;室温)餌を与えずに維持しようとするのには適しており,いくつかの系統を単に保存・維持する方法としては簡単で有効である(後述)。



 以上,テトラヒメナ,キロモナス二種の生物を餌に使った場合を,簡単に紹介した。これから後は,テトラヒメナを餌とする培養法(とくに2の実験に使用する際の培養法)について,より詳細に解説する。

材  料

培養用容器:
 シャ−レ(通常は12cm前後のものを用いる。クロ−ニングなどを行なう場合は,デプレなど小型の穴のなかで培養し,ある程度数が増えた時点で,小型のシャ−レ,中型のシャ−レと,順々にサイズを大きくしていく。)

培養用塩溶液:
 これは,当研究室では,KCMと呼ばれているものである。
 以下にその100倍原液の作り方を示す。

    KCl         0.8 g/L     1.6 g/2L
    CaCl2・2H2O   1.3         2.6
    MgSO4・7H2O   2.5         5.0


方  法

 前述のように,アメ−バは培養液の汚れに対して極端に敏感である。したがって,過剰に加えた餌は,早目に取り除くことが望ましい。このためには,アメ−バの摂食の最中,および直後は,接着性が増し,かなり強くシャ−レのガラス底に着くのを利用する。この間にシャ−レをひっくり返すことで,旧くなった培養液とともに,食べ残されたテトラや,その他のゴミを捨てるのである。
 (cf.空腹時にはガラス底に対する接着性が低下し,浮遊している細胞もでてくるので,この方法は使えない。)

手 順

1)テトラヒメナは,三角フラスコで培養したものを,上記の塩溶液で洗い適当に希釈する。

 (この際,注意すべき点は,あまり培養してから時間のたったものは,用いないこと,また,テトラ細胞を集めるのに強い遠心をしないことである。いずれも,細胞の死骸,あるいは,弱った細胞が混じってくるので,これらがシャ−レの中で溶解すると,アメ−バがガラス底に接着しなくなるので,あとで培養液の交換を行なうのが難しくなる。)

2)アメ−バの入ったシャ−レに上記のテトラヒメナを満腹になるのに適当なくらいの量加える。

 アメ−バの摂食は,直ちに始まるが,しばらくすると多くのテトラは,培養液表面に浮いてしまうので,早く摂食させたい場合は,時々シャ−レを軽くゆすってテトラをシャ−レの底に移動させる。ただし,あまり激しく,かつ,頻繁にやるとアメ−バ自身がシャ−レに接着できなくなり摂食不能になるので,適当に。

3)アメ−バ全部が満腹になったころを見計らって,培養液の交換を行なう。

 上記の方法では,約1時間以内には,ほぼすべての細胞が満腹になるまでテトラ細胞を食べ終える。満腹になったアメ−バ細胞は,内部に沢山のテトラヒメナを入れた状態で,丸くなったまま,シャ−レの底に接着して動かなくなる。そこで,この時に古くなった培養液とともに余分のテトラヒメナをシャ−レをひっくり返して捨てる。つぎに,これに新しい塩溶液を加える。
 ただし,アメ−バの数が多い場合,あるいは,培養の状態が良好でない場合は,一部のアメ−バは,摂食をしないか,あるいは,摂食した後も浮遊したままでいることがある。その場合は,余分であれば,培養液の交換の際に一緒に捨てればよいが,それらもなんとか生かして使いたいという時は,培養液をいったん他のシャ−レに移して,新しい塩溶液を加えるなどしてコンディションを良くしてシャ−レ底に接着するのを待つ。もし,もとのシャ−レでは,細胞の数が多かったために,たまたまうまく接着できなかっただけであれば,ただちに接着するので,新ためて培養液の交換を行なえばよい。しかし,細胞のコンディションが良くないために接着できなかったのであれば,シャ−レを替えても接着できない場合が多いので,その際はあきらめて捨てる。

**給餌,および培養液の交換は,アメ−バを早く増やしたいときは,毎日行なうことになるが,1日,2日おきでもかまわない。3日おきでもほぼ問題はないが,良好なコンディションで培養したいときは,少なくとも1日,2日おきには餌を与えたほうがよい。

**また,何日かすると,シャ−レの底が汚れてくる。アメ−バ細胞のコンディションが良い場合は,特に頻繁にシャ−レ交換をする必要はないが,アメ−バの死骸が混じってきたり,正常な浮遊型でないものがたくさんでている場合は,コンディションが良くないので,早目にシャ−レを新しいものと交換したほうがよい。
 シャ−レの交換は,テトラヒメナを与える直前にシャ−レを軽くたたいて,底にくっついているものを浮遊させたうえで,すべてのアメ−バを汚れた培養液ととも新しいシャ−レに移しかえる。その後,テトラを食べさせればアメ−バだけが底に接着するので,他の汚れなどは,培養液の交換の際に取り除くことができる。

保  存

 テトラヒメナで培養したものを保存するのは,かなり問題がある。通常は,餌をほどほどに与えた後,10〜15°Cで保存している。この方法で保存する場合,シャーレ中の細胞はあまり多くないほうがよい。なぜなら,たくさんの細胞がいれば,たくさんの餌を与えなければならず,それだけ培養液が劣化するのが早まるからである。

そうやっても,10日以上たつとシャ−レによっては,すべての細胞が死滅するものがでてくる。元気なシャ−レもあるのだが,その違いが何によって生じるのか今のところあまりハッキリしていない。したがって,同じ株について,ある程度余分な数のシャ−レを容易する必要がある。株によっては低温を好むものとあまり低いとすぐに弱ってしまうものがある。10°Cはかなり厳しい条件なので,できればそれよりもやや高めの温度のほうがよいだろう。

 一方,キロモナスで混合培養しているものは,そのまま室温で1カ月程度,手を加えずに保存することができる。ただし,前述のごとく細胞の数はテトラヒメナで飼った場合に比べると,極端に少ないので,とにかく保存したいというのに適しているだけである。

注意;但し,キロモナスで混合培養する際にも,単に米つぶを加えておけばよいというのではない。変なコンタミがふえたりすると,場合によっては,アメ−バがやられてしまい。うまく増えないで逆に減ってしまうことすらある。一番,アメ−バにとってよい条件は,米つぶに水カビがつくことである。水カビがなぜいいのかはハッキリしていないが,おそらくカビの存在によって,アメ−バにとって有害な物質をだすバクテリアの増殖が押さえられるためと思われる。いったん,水カビがついてしまえば,常に培養液中にカビの胞子があるので,カビの維持を気にかけることなく,ふるくなった米つぶなどは培養液ととも捨てればよい。(1カ月に一度くらい。)

 この他,テトラで飼ったアメ−バを,半乾燥の状態で1カ月以上保存できたとする報告もあるが,今のところ試していない。


文 献

Prescott, D.M. & James, T.W., Exptl. Cell Res. 8: 259- (1955)
Prescott, D.M., Exptl. Cell Res. 9: 328- (1955)
Griffin, J.L., Exptl. Cell Res. 21: 170- (196?)



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