この方法は,連続遠心機がなかったため,従来の連続遠心機を用いた大量の細胞の集め方ができなかったために,考えだされた苦肉の策である。
ろ紙を利用した方法じたいは過去にもあったが,今日では一般には行なわれていない。しかし,ここで紹介する方法によれば,連続遠心機とほぼ同等のスピ−ドで大量の細胞を集めることができる。しかも,ろ紙は,使用後は捨ててしまえばよいので,後片付けが楽である点で,連続遠心機を利用した場合よりも優っている。
ゾウリムシ細胞は,アカエンドウ豆抽出液を餌にしたフラスコ培養により培養した。
まず,培養の定常期に入ったものは,底にたくさんのバクテリアのかたまりが沈澱している。ほとんどゴミだが,これらを除くためにフラスコを斜めにしてしばらくおく。(斜めにするには,試験管立てを横にしてそこにフラスコを置く。)
すると,ゴミはフラスコの片隅に集まるので,これらがなるべく混じらないように気をつけながら,ロ−トに乗せた8枚くらい重ねたガ−ゼの上に培養液を注ぐ。
2 ろ紙による細胞の濃縮と洗浄
つぎに,ろ紙をひだ状に折ったものをロ−トにのせる(東洋ろ紙の場合,NO. 101;ただし,これはゾウリムシでの話。細胞のサイズがもっと小さい種類では当然より目の細かいものにしないと漏れてきてしまう。)。これに細胞の入った培養液を注いでいく。このとき,ロ−トとろ紙が密着すると,液が落ちにくくなるので,ロ−トは,溝のついたものを用いるとよい。
この条件だと,3〜4リットルの培養液だと,数分で細胞だけを集めることができる。集めた後,細胞を洗いたい場合は,洗浄用の緩衝液を少しずつロ−トにいれてやり,培養液と置換する。
この方法のポイント
この方法でもっとも大切なのは培養のコンタミである。コンタミが多いとどうしても漉紙での漉過に時間がかかる。場合によっては,漉紙が目づまりしていつまでたっても濃縮できないこともある。そんな時は,仕方がないので,新しい漉紙に交換するしかない。
コンタミの少ない培養にするにはなんといっても雑菌を除いた培養を心がけることだが,おなじ雑菌があっても以下のような条件で培養すると意外に効率のよい細胞の濃縮ができる。
それは,培養の途中で別途に培養したバクテリアを洗浄してから追加してやり,細胞密度を上げることである。こうするとバクテリアだけが追加されるので余分なコンタミが増える余裕がなくその分だけ培養全体に占めるコンタミの割合が減少するようだ。これで細胞密度を通常の培養液だけのものよりも3〜4倍まで上げることができる。そうすると,通常は1リットルフラスコ2本くらいが2枚重ねの漉紙で漉過できる最大の量なのだが,この方法だと容量は同じ2本でも細胞の数からすると通常の6〜8本分くらいの細胞数が集められることになる。しかも,調子がよいと通常の培養のときよりも漉過速度が速いのでおそらく2本以上,4本くらいは同じ2枚重ねの漉紙で漉過できると思われるので,それで計算すると12〜16本分くらいが一度に漉過できてしまうことになる。