公開講演会:生物多様性研究・教育を支える広域データベース
原生生物情報サーバ  月井雄二(法政大学)
1 原生生物情報サーバの紹介
back 1-1 データベース構築の目的 back

 「原生生物情報サーバ」は1995年から構築を始め,同年に画像データベースとしてインターネット上で公開した。制作者は月井(法政大),木原(法政大),鵜川(宮城教育大)の三名で,画像の作成,Web pagesの編集を月井が,静止画・動画編集システムの開発,古文献データベース(後述)の構築を木原が,そして,ネットワークの管理を鵜川が担当している。構築の目的は,様々な原生生物の画像や記載情報をネットワーク上で公開し,広く世界中の人々に利用してもらうことにある(図1)。


図1 原生生物情報サーバ(日本語版)

URL, http://protist.i.hosei.ac.jp/index-J.html

 ただし,構築当初は,自分達の手許にある画像,すなわち研究の過程で作成したものの論文等で使用せずに残った写真などを主なデータベース化の対象にしていた。そのため,公開した画像は実験に使われるアメーバやゾウリムシなどごくわずかな生物種に限られていた。しかし,いざ公開してみると,利用者の多くは一般の人々であり,専門的な知識を得ることよりも,原生生物に関する基本的な知識,その中でもとくに分類情報を求めてアクセスしてくることがわかった。社会は原生生物に関する分類データベースを必要としていたのである。

 これは制作者の一人である私(月井)にとっては「渡りに舟」であった。なぜなら,私はもともと原生生物の進化に興味があったからである。進化を研究するには分類学の知識が不可欠だが,私はそれまでは分類にはまったく関心がなく,データベース構築当初は,自分の研究材料であるゾウリムシやアメーバ以外にどんな原生生物がいるかほとんど知らなかった。そこで,網羅的な分類データベースを作れば,自分にとっても原生生物の分類を学習するよい機会になるのではないかと考えるようになったのである。

 とはいえ,動物や植物で「網羅的な分類データベース」を作ろうとすれば,世界中をかけ回ってサンプルを採集もしくは撮影しなければならないだろう。これはとても個人レベルでできる仕事ではない。しかし,原生生物の場合は,その小ささ故に他の生物での常識が往々にして通用しないことがある。私の場合はそれが幸いした。というのは,原生生物の多くは,コスモポリタン,すなわち,形態的に同種と見なせる生物が世界中に広く分布しているのである。これは言い換えると,限られた場所を調べるだけで,世界中で知られている数多くの種が発見できることを意味する。多くの労力と費用をかけて世界中を駆け回らなくとも,身近な池や沼,あるいは町中の下水道などからサンプルを採集するだけで網羅的なデータベースが作れる(可能性がある)のである。

 そこで,実際に数年前から,野外採集した原生生物を片端から撮影して,その名前を調べ画像とともにデータベースに組み込む作業を行うようになった。

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