 
 原生生物と日本産アリ類の広域画像データベース
原生生物と日本産アリ類の広域画像データベース
1 日本産アリ類カラー画像データベース作成の経緯
1-2 分類学における画像データベースの必要性
 生物分類学は基礎生物学だけでなく,医学薬学,農林水産学にいたるあらゆる生命科学の基盤であり,生物分類なくして生命科学は成立しない。また,現代は環境破壊が進む中,種の多様性維持が叫ばれており,今後,生物分類情報への需要は社会的にも増すことが予想される。
 しかし,生物分類学の現状はそのような期待とはおよそかけ離れている。これまでに発見・記載された生物種は約140万種といわれるが(表1-1),それらの種の記載を一つにまとめた書物はなく,すべての生物について種名すら確認することは困難である。
 表1-1 記載された種の数
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| 界または主要分類 | 種 類 |  | 
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| ウイルス | 1,000 |  | 
| モネラ(細菌) | 4,760 |  | 
| 菌類 | 56,983 |  | 
| 藻類 | 26,900 |  | 
| 植物 | 248,428 |  | 
| 原生動物 | 30,800 |  | 
| 無脊椎動物 | 989,761 |  | 
| 脊椎動物 | 43,853 |  | 
| 全生物の総計 | 1,392,485 |  | 
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 E.O.Wilson, Ed., Biodiversity, 1988より
また,種の判定は,原記載とその元となった模式標本(基準標本)によって行なわれるが,模式標本は世界各地に分散し,参照するのは容易ではない(今泉 1991)。分類学においては以前から膨大な研究情報をいかに効率的に利用するかが問題になっていたのである。
 そこで,模式標本を精緻なディジタル画像に置き換え,それを原記載やその他の分類情報とともに広域データベース化してインターネット上で公開すれば,将来的には分類情報が,いつどこにいても,かつ,誰にもで容易に入手し利用できるようになるはずである。そうなれば,他の様々な分野の研究者および一般の利用者にとって有用なだけでなく,分類学自体の進歩にも大いに貢献すると期待される。本研究はそのような意図に基づいて行なわれている。