日本動物学会第70回大会(山形) 関連集会 インターネット懇談会 1999.9.26 17:00-19:00
学術情報をネット上で公開することによって何が変わったか,
ネット上で学術情報の公開を続けて行く上での問題点
月井雄二(法政大)
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3.ネット上で学術情報を公開する上での問題点

3-2. ボランティアデータベースを支援する公的機関の必要性

 したがって,今後,ネットワークを科学のためのメディアとして確立するためには,発信された情報を恒久的に保存する公的機関(仮称,情報発信支援センター)の設置が不可欠となる(図3, 4)。


図4 論文投稿とボランティアデータベースの連携
左図は,論文の執筆と素材データの公開が同一の研究者による場合を示している。
 この他,別の研究者が論文の中で,公開されている素材データを利用(引用)する場合もあり得る。

 ここでその詳細を論じるには紙数が足りないが,要点のみを書けば次のようになる。まず,研究者は研究成果を論文に発表する前に,研究の過程で生産した素材データ(写真や測定値等)を自分が管理するサーバか,もしくは他の研究者(ないしグループ)が管理するサーバに組込み,ネット上で公開する。そして,それを各研究分野ごとの「情報発信支援センター」に伝え認証コードの発行を申請する。これに対して,支援センター側では,審査委員会が申請された情報の学術的価値を吟味する。審査を通った場合は,認証コードを発行して申請者に伝えるとともに,申請者が公開している素材データをセンター側のサーバにコピーしてバックアップを作成する。一方,申請者である研究者は,その認証コードを記入した論文を学術雑誌に投稿する(図4)。

 このようにして公表された論文には,関連する素材データの所在がそのURLと認証コードによって表記されているので,読者はそれらを見て,必要な情報をネット上から得ることができる。(以上は,研究素材データをネットで公開した場合だが,論文等の研究成果をネットで公開してもよいだろう。ただし,その場合は,印刷物としての学術論文と同様の審査体制が必要になる)

 ただし,オリジナルのサーバが公的機関でない場合は,やがてはネット上から消滅してしまう可能性が高い。その場合,利用者は支援センターにアクセスして,そのURLと発信年,あるいは,認証コードを入力することで,支援センターがバックアップした情報を引き出すことができる(図4, 5)。

 また,オリジナルのサーバが消滅しない場合でも,研究者が公開する情報は,研究活動の進展にともない随時更新される可能性が高い。その場合,時間の経過とともに論文に引用されたものとは内容が異なってしまうので,研究者側のサーバは引用元としては適当ではなくなる。このため,情報センター側で,オリジナルのサーバへ定期的(年度ごと?)にアクセスし,内容に変更があった場合は,情報の差分をバックアップへ追加していく必要がある。こうすれば,引用元として利用することが可能となる。

図5 考えうる学術情報アーカイブの利用法
 研究者側のサーバが稼働していても,その内容が変更されている場合は,アーカイブの利用が必要になる。

 以上のようなシステムは,現時点ではあくまでアイデアにすぎないが,技術的には十分可能と思われる。また,すでにある類似した活動としては「Internet Archive」(http://www.archive.org/)があるが,Internet Archiveでは,ネットワーク上にある情報を人類の知的資産として内容を問わずに収集して保存している。しかし,対象を限定せず,内容の品質管理も行っていないため,学術情報のバックアップとしては利用できない。

 今後,ネットワーク(インターネット)を科学のためのメディアとして確立させるには,以上のような公的機関の設置が必須と考えるのだが,いかがであろうか?


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