日本動物学会第70回大会(山形) 関連集会 インターネット懇談会 1999.9.26 17:00-19:00
学術情報をネット上で公開することによって何が変わったか,
ネット上で学術情報の公開を続けて行く上での問題点:
月井雄二(法政大)
← PREV :
NEXT →
1.これまでの経緯
インターネットは様々な形で科学活動に利用されているが,その一つに分散型広域データベースがある。これは簡単にいうと,多くの研究者が自らの情報をデータベース化しネット上で公開して互いに共有しあおうというものである。一人が公開できる情報はわずかでも,それを皆がやれば,地球規模では膨大な知的資産となり,研究や教育に役立つはず,というのが発想の原点にある。
我々はそのような分散型広域データベースの一つとして,1995年以来,「原生生物データベース」を構築しネット上で公開する活動を続けている。原生生物データベースでは,研究の過程で作成した素材データ(写真等)の中で論文等に公開せずに眠ったままになっているものを集めて公開することを主な目的としている。
データベースは,当初,知り合いの研究者から集めた写真等を中心にスタートしたが,その後,学会等で他の研究者にも素材データの提供をよびかけた。しかし,思うようには集まらなかった。これは,今から考えれば当然で,素材データをネット上で公開したところで,研究業績として認められるわけでもなく,他にみかえりがあるわけでもないのだから,集まらないのも無理はない。
また,公開したデータは,当然ながら論文等に掲載することを目的として作成されたものが多く,自然の状態にある生物の画像などは少なかった。教科書を作る場合は別として,通常の論文にはそのような画像を載せる必要がないからである。しかし,実際にデータベースをインターネット上で公開すると,アクセスしてくる利用者の大部分は一般の人々(多くは教員,他に環境関係,デザイナー等々)であった。そして,その人達が望んでいるのは,専門的な情報よりも,自然な状態にいるゾウリムシやアメーバなどの画像や,培養の仕方など,より一般的な情報を得ることだった。
そこで,それらの期待に応えるべく,途中から野外採集した様々な原生生物を写真撮影し,それらの画像と文献から得た情報を組込んで,分類データベースとしても内容を充実させることにした。
幸い,原生生物の多くはcosmopolitanであり,形態レベルでは同じ生物種が世界中に広く分布している。そしてその小ささ故に,わずかなサンプル採集でたくさんの種類を観察することができる。このため,短期間に数多くの原生生物の画像を撮影することができた。現在公開している種類はおよそ1100種(画像数12000枚)を超えている。
このようにしてデータベースの内容が充実するにつれ,利用者側からも画像や分類学的記載の追加・修正など様々な情報が提供されるようになった。これは我々のデータベースが社会的に認知された証拠なのかも知れないが,いずれにせよ,最近になってようやくデータベース開設当初の趣旨が実現しつつある,という状況にある。
図1 原生生物データベース初期画面 |
図2 原生生物図鑑メニュー画面 |
← PREV :
NEXT →