日本動物学会第68回大会 関連集会

インターネットにおける生物データベースの現状と展望

1997年10月2日(木)18:00−21:00 奈良女子大学 F会場 にて開催予定

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パーソナルWeb Publishing の時代

演者:法政大・教養・生物 木原 章

現在のインターネットの状況を見て、実にノイズの多い雑多な世界であり大いなる時間の無駄と嘆かれる方も多い。しかし、そのような嘆きはあくまでも受け手としての論理である。インターネットはあくまでメディアであって、良い情報が発信されればそれだけ便利さは増すはずである。

筆者等はインターネット環境を研究基盤と整えるプロジェクト(日本科学技術振興財団)の一員として「Web データ発信のためのサポートシステム」と言う研究を開始した。しかし、この夏マッキントッシュの新しいOSである「OS8」を手に入れた時点で、いきなり研究計画を見直さざる負えない様な事態に遭遇した。本講演では、OS8によってもたらされる「パーソナルWeb Publishing の時代」における研究活動の変貌について考察してみたい。

OSにWebサーバーが組み込まれる意味

データベースプロジェクトの一つの悩みは「サーバーの調達」の為の予算確保と設定のための時間確保であった。従来サーバーの調達には予算と手間がかかり、その結果その予算と手間に見合った内容の物しか発信できないと言う状況であった。金も手間も掛けずにWebサーバー出来るとしたらどうであろう?そのことを論じる前に、OS8でWebサーバーを組み込むまでの手続きを解説しよう。

OS8のインストーラーを起動すると「Personal Web Sharing」を組み込むかどうかの選択肢に至る。ディフォルトの設定で組み込まれることに成っているので、恐らく何も気付かないうちに組み込まれることになる。

さて、このままではWeb サーバーは働かない。OS8をインストールしたコンピュータを起動したら、コントロールパネルから「Web Sharing」を選択し「Start」ボタンを押す。

このスタートボタンを押すと、システムフォルダと同じ階層にできる「Web Pages」フォルダの内部がインターネットの世界に向けて開放されることになる。つまり、1回余計にボタンを押す作業をすれば、サーバーが出来てしまうわけである。

今までWeb Server を使ってこられた方はWebで情報を発信するためには「HTML」と言った何やら呪文めいたファイルを作って、最後に「.html」と言う名前を付けてやらないとWWWとしては機能しないと思われるであろう。しかし、このPersonal Web Sharing にはファイルのリストを自動的にWWWとして発信する「Personal NetFinder」が組み込まれている。つまり、「Web Pages」フォルダにファイルを入れておくだけで世界中のどこのコンピュータからもそのファイルにアクセスすることが可能になる。

セキュリティーの問題

ではこのPersonal Web Sharing のセキュリティーの問題はどうであろうか。

基本的に、Personal Web Sharing では「全ての人が読むことだけ出来る」アクセス権を与えるか、従来のファイル共有の設定を行うことで特定のユーザーに制限するか、2つの設定を選択することが出来る。従ってファイル共有の設定を間違えた場合は、「Web Pages」フォルダ内に限り、データの流出や消失、と言った被害が予想される。しかし、「Web Pages」フォルダ内にファイルを置くという「公開」されることに意識が有ればそのようなことは大したダメージには成りえないと考えてよいであろう。

また、Personal Web Sharing 自体は、そこから他のネットワークに対してアタックするようなハッカーの足場になることは無い。そのような面においては極めてセキュリティーの高いシステムを考えられる。(...と言うか、現時点でセキュリティーの低いシステムを汎用OSに組み込むということ自体が考えにくい。)

共有設定でアクセス制限をしたフォルダを開けようとすると、ユーザー名とパスワードを入力する画面が表示される。ここに、登録ユーザが入力を済ませれば中を見ることが可能である。つまり、今までe-mailで送っていた添付ファイルは、これからは「Web Pages」フォルダの特定のフォルダに入れておいて、相手にはユーザー名とパスワードを教えておけば良いことになる。

ファイル形式の問題

Webで情報発信するためには、「HTML」文やら「GIF」画像ファイルと言った様々な制限があると思われているかもしれないが、Personal Web Sharing では基本的にはファイルをダウンロードして自分のソフトで開くという考え方を取れば、如何なるファイルでも公開可能である。

実際には、Web Sharing MIME Typesと言うファイルに使用可能なファイルの情報が収められている。この情報が欠落しているファイルを公開することは出来ない。しかし、大手のソフトに関する情報は最初から収められえているので、たとえばエクセルで作られたファイルはダウンロードしてファイルをダブルクリックすれば自動的にエクセルで読み取ることが可能である。

このような機能は、メーリングリストと合わせることで共同研究に役立つと考えられる。作業ファイルを「Web Pages」フォルダ内に置くだけで、お互いが仲間の進行具合を確認しながら作業を進めることが出来る様になる。わざわざ、研究集会を開いたり海外へ出かけていかなくても済むことが増えるに違いない。

他のサポートツール

パーソナルWeb Publishingの時代をサポートしてくれるツールが次々と出現している。市販のHTMLエディタは、きらびやかなWebページを楽に作ってくれるツールでは有るが、必ずしも全ての研究に必要というツールでは無い。研究に必要なツールとは、まず自分の研究に役立つこと、そして共同研究の障害を減らしてくれるような道具である。GraphicConverter は従来のWeb サーバー管理者にとっては画像ファイル形式の変換において役立っていた。しかし、新しく追加された機能の画像の一覧をWeb上で見るためのカタログ作成は、自分のデータ一覧を見るためにも、また共同研究者同士でデータを回覧するため使うことが出来る。

「Web Pages」フォルダに「Thumneils」と「Images」というフォルダを作っておけば、カタログファイルが作られ、それをNetScapeで見ることが出来る。

パーソナルWeb Publishingのもたらすもの

パーソナルWeb Publishing時代なんて、雑多な情報が増えるだけだと心配なさる方もおられるかもしれない。しかし、インターネットを既存のマスコミと同様にとらえるのは間違いである。例えば、台風が来たときに台風情報を得ようと全国の人が気象庁のサーバーにアクセスすると、ネットワークは途端にスピードが低下し、ほとんど全ての人が台風情報を得る前にアクセスを諦めることになる。そして、そんな情報はテレビやラジオを聴いたほうが早いことに気付くであろう。つまり、万人に向けた情報こそがインターネットを無駄に使っていると言っても過言ではない。

むしろ、特定の限られた分野に絞って活用することこそがインターネットの威力であり、そのためには特定分野の専門家の発信する情報こそが価値のあるものと言うことができる。世界に一人しか研究者のいない分野は山ほど有る。その人をインターネットを通じて見つけることが出来れば、どれほど研究に役立つか計りしれない。つまり、研究者個人がストレス無く情報を発信できる環境が出来たということは、研究において最も価値の高い希少情報をお互いに気兼ねなく交換できる環境が整ったと考えてよいのではないだろうか。


[1997. 9. 27 受理]