インターネットを利用した生命科学情報の広域データベース化とその意義
日本産アリ類カラー画像データベースの紹介

7.今後の課題と将来展望

 本研究は,従来限られた分類の専門家にしか利用できなかった生物分類情報を広域データベース化することによって,一般の人々にも容易に利用できるようにすることを主な目的としている。しかし,それ以外に精緻なカラー画像を従来の模式標本に替わるものとして位置付けることで分類の手法じたいが変革されることも狙っている。また,ネットワークを介して分類学者が互いの情報を交換・共有できる場を提供することで分類学研究そのものにも役立つことを期待している。

 現在は海外に向けて公開するために,データベースに含まれる日本語テキストを英語化する作業を行なっている。しかし,分類学は基本的に母国語主義,すなわち,研究者の母国語による種の原記載が認められているため,日本で発見されたアリについては英語の記載データがなく英語化の作業に時間がかかっている。また,海外のアリ研究者との連携も今後の課題である。
 現在のシステムはWWWサーバの基本的な機能しか利用していないため,種名などによる単純な検索しかできない。しかし,採集した標本の種の同定などのためには,複数の形質による検索機能は必須である。そのため,現在は,完全マトリックス法による検索システム【16】をネットワーク上で利用できるようにするソフトウェアを開発中である。
 また,既述したが,CD-ROM試作版では野外で活動中のアリの動画もいくつかの種について見れるようになっている。今後はプロの動物写真家が撮影した産卵やその他の生態的行動のビデオ映像を提供してもらい,それらを電子化してデータベース化する予定である。ただし,現在の国内の通信速度では動画の転送には不十分なので,ネットワークでの公開は未定である。
 将来的には,同じことを他の生物種(当面の対象は原生生物)でも実現させたいと考えている。そして,ゆくゆくは全世界に散在している全生物種の分類情報が広域データベース化され,画像を中心としたDPDDとして利用可能になることを願っている。

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