第28回日本原生動物学会大会 講演要旨


原生生物における研究素材データベースの構築と
ネットワークでの公開


  ○月井雄二・木原章(法政大・教養生物),鵜川義弘農業生物資源研


 研究過程では論文に公開される以外にも数多くの実験・観察データが生産されるが,従来それらは研究者の手許に留まりやがては消滅する運命にあった。これらを公開・共有できれば有用であろう。そのような視点に立って,我々は原生生物に関する研究素材データベースを構築しネットワークでの公開を始めた (http://protist.i.hosei.ac.jp/protist.html)

I. データベースの概要
 我々はこれまでに,日本蟻類研究会との共同で「日本産アリ類カラー画像データベース」を構築しネットワークで公開する活動を続けてきた(月井ら1995)。このデータベースは日本蟻類研究会のメンバーが作成した様々な分類情報をWWW(World Wide Web)形式にまとめた研究成果データベースである(http://www.dna.affrc.go.jp/htdocs/Ant.WWW/htmls/index.html)
 一方,今回構築した原生生物データベースは,研究過程で作成されたものの論文等に公表されないまま残った研究の素データ(写真や測定結果等)を収集し一般に公開するものとした。したがってこれは,アリの場合と異なり,研究素材データベースに分類される。
 内容は画像データとテキストデータからなる。画像は種ごと,テーマごとに区分されている。また実験器材や研究者の写真もある。テキストは論文と同じ構成で,材料と方法に関するもの,実験データ,文献データなどからなる。データの収集・データベースへの組込みは日本原生動物学会会員の協力を得て行なっている。すでに600件余(3000ファイル)の画像データと100件余のテキストファイルをデータベース化しており,今後も追加していく予定である。またミラーサーバを構築してアクセスしやすくしている。

II. 素材情報の公開・共有(広域データベース化)の意味するもの
 従来の研究システムでは,研究成果のみが論文として科学ジャーナルなどの媒体を通じて公開(公報)されていた。しかし,近年コンピュータネットワークを媒体としてより効率的かつ大規模な情報公開が可能となった。その代表例が遺伝情報データバンクである。遺伝情報データバンクは素材情報(塩基配列)の公開・共有を目的としている点が従来の科学メディアにはない特徴である。
 遺伝情報だけでなく,その他(画像など)の研究素材情報の公開・共有が実現すれば生物科学の将来にとって有用であろう。ただし,遺伝情報は要素が均一なためデータを集中させ専門家による管理が可能だが,画像などその他の素材情報は要素が多種多様で,個々のデータサイズも大きいため,サーバを分散せざるをえない。したがって研究者自身による管理が必要になる。
 サーバの開設・維持は技術的にはさほど難しくはない。問題は研究者自身がその必要性を感じるか否かである。この点に関しては研究者自身による素材情報公開にはそれなりの必然性&意義がある,といえる。それらは以下のとおりである。


必然性
○ネットワークでは誰もが情報の発信者となりえる
○多くの研究者は情報発信が可能な環境をすでに与えられている
○多くの研究者は発信すべき情報を所持している

意 義
○新しい公報手段を利用することの優位性
○研究体制の効率化・高度化がはかれる
○利用者層の拡大が期待される(研究以外の利用)
○社会(納税者)への還元

 勿論,新しい試みには様々な解決しなければならない課題もある。すなわち,

○業績評価をどうするか?
○利用方法(研究・教育・実用)の開発・啓蒙
○情報の質の管理,authorizeの方法
○安定性,継続性をいかに確保するか?
○サーバの連携・統合システムをどう作るか?
○著作権の取り扱いをどうするか?

などである。

 以上のような課題を念頭に置きつつ,今後ともデータの収集・データベースへの組込み・ネットワークでの公開を続けていきたい。また,他の研究者による同種活動への支援も行なっていく予定である。

文献
月井雄二・木原章・鵜川義弘 (1995), Japanese Journal of Computer Science, 2 (1): 5-13.


Construction of databases for research information in protists and its use via the Internet.
By Yuuji TSUKII, Akira KIHARA (Laboratory of Biology, Hosei University), Yoshihiro UGAWA (National Institute of Agrobiological Resources)