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ゾウリムシの無菌化への試み


 繊毛虫では,テトラヒメナは無菌培養が容易だが,その他の種では非常に困難である。それでも,ヒメゾウリムシでは,一応,無菌培養が可能で,それを利用した研究報告もないわけではない(アイソザイム電気泳動の実験など)。しかし,恒常的に無菌化した培養を用いて実験を行なうまでには至っていない。ゾウリムシでも,無菌化して食胞形成を調べている R. Allen & A. Fok らのグループもあるにはあるが,限られた株を用いて実験をしているのみで,自由にどんな株でも,というわけではなさそうである。その理由は,なによりも,細胞を無菌の状態にもっていって,それに適応させ,増殖するようになるまでが大変なためだ。大量に無菌化するための方法を開発しようとしただけで論文(S. Allenら)がでるのもその点を反映したものだ。

 無菌培養の方法を開発するためには,まず,大量の無菌状態の細胞を手に入れることができなくてはいけない。なぜなら,どんな培養条件が適しているかなどを知るためには,まず,確実に無菌の状態にある細胞を使ってテストする必要がある。ところが,この無菌状態の細胞を大量に手に入れるというのが,なんとも厄介なのである。
 一番確実なのは,一匹ずつマイクロピペットでつまんで洗えばいいわけだが,これでは,いろいろな条件で調べることはできない。確実に増えることがわかっているテトラなどでは,強力な抗生物質で処理してかなりの細胞にダメ−ジを与えても,生き残った細胞がどんどん増えるのでかまわない。しかし,もともとその培養液で増えるかどうかわからないところへ,強力な抗生物質で処理した細胞をいれた場合,増えてこないのは,培養液が悪いのか,抗生物質処理で弱ってしまったためなのかわからなくなってしまう。なによりも,いつもコンタミを除くために抗生物質処理を繰り返していることが多いので,処理をしても完全には除菌できないことが問題である。一見,きれいになったようにみえても,かなり後になってから次第にバクテリアが増えだして,無菌化された筈の培養液が濁ってくることがよくあるのだ。

 そこで,無菌培養を達成するためには,とにかく抗生物質を使わずに無菌状態の細胞を手に入れることが第一である。との判断に基ずき,筆者(月井)は,以下のような細胞の無菌化の手法を考案し,かつ,実際に試してみた。その結果,一応,無菌状態の細胞が,得られ,なおかつ,既報の無菌培養液で数カ月間継代培養することに成功した。しかし,如何せん,常温では,1カ月たつと絶えてしまうので,テトラのような長期保存ができなかった(これは,培養液の問題だとは思うが)。さらに,意外に,cell densityが上がらず,通常の有菌培養よりもdensity が低かった。など,あまり,好ましいものでは,なかったために,やる気をなくし,途中で継代培養を止めてしまった。

追記:その後,無菌化前処理法の改善,培養液の改良などを行なった。



走電性を利用したゾウリムシの無菌化法

 まず,培養の定常期にある細胞を用意する。これを適当な溶液中で一昼夜放置する。

改良:「適当」ではだめで,できるかぎり有機物を含まない塩類溶液であることが望ましい。現在は,Naリン酸緩衝液(pH7.0)2mMを用いている。

 翌日,長いガラス管をいれた試験管に滅菌した0.5% Polyox (製品名,製造元 ユニオン・カーバイト)を満たしたもの(当然,緩衝液も必要)を用意する。

改良:0.3%で充分。場合によっては,ただのNaリン酸緩衝液(pH7.0)2mMだけでもよいようだ(現在,検討中)。
注意:Naリン酸緩衝液以外では,各電極で電気分解が起きた際,有害物質ができることもある。トリス塩酸緩衝液はだめ。細胞が死ぬ。

 (このとき,試験管の底に何かガラスなどの破片を入れておく,こうして後で入れたガラス管が底に密着せずに,多少隙間ができるようにする。こうすると後述するようにゾウリムシがその隙間を通って移動できる。)さらにこの試験管には2本の白金線が刺してあるシリコ栓で蓋ができるようにする。
 ガラス管の内側に細胞を入れ,2本の白金線を定電圧計に接続し通電する(電圧,電流は・・・)。ゾウリムシはガルバノタキシスによって+極に(?)ひかれていくのでガラス管の内側の液に接触する方を−(マイナス)極,外側を+極とする。(逆か?)
 通電を開始すると,細胞は次第にガラス管の下方に下がっていく。そして底まで移動したものは,今度は上方に向かって泳ぎ出す。そうすると一部はガラス管の外側へでて上へ移動するものが出てくる。
 こうしてガラス管の外側に適当な数の細胞が集まった時点で通電を止め,ピペットにより細胞を採取。あたらしい培養液へ移す。これで終了。

コメント:この方法の利点は,抗生物質処理などを途中に含まないので細胞に与えるダメージが少ないこと。そのため,細胞内に共生細菌などを持っている株でも無菌化(?)することが可能だ。


無菌状態への移行

 問題なのはこの後である。ゾウリムシは,テトラヒメナと違って簡単に無菌培養液に適応できない。そのためいったんゾウリムシを無菌的な条件に慣らしながら少しずつ増えだすのを待つ方法をとる。

【方法】
 滅菌したディスポのデプレッションプレート(?正式名称忘れた)に無菌培養液を入れ,そこに上述の細胞を分注する。細胞数は10〜数十が適当。
 滅菌状態になれさせるため,アルコール固定したバクテリアをごく微量まぜたが,これなしでも大丈夫かもしれない(現在,検討中)。

【結果】
 当初,いろいろな成分を混ぜたものなども用意したが,現在は既成の無菌培養液を基本にして培養を行なっている。無菌化は毎年のように思い出すとチョコチョコと手をつけるもののなかなか成功には至らなかった。上記の走電性を利用した方法も開発してから1〜2年後になってようやく起動に乗った。
 最初に無菌化に成功したのはHj2という株だ。既成の培養液では1ヶ月ももたなかった。しかし,試行錯誤を繰り返すうちに培養液を薄める(1/2〜1/3)とcell densityはそれほど変化しないながらも長期間(1〜2ヶ月)維持できるようになった。これは,既成の濃度の培養液ではなんらかの成分(おそらくタンパク質)がゾウリムシには有害な作用をもつためと思われる。
 ただし,増殖速度,最終的なcell densityはいずれも高くない。通常の有菌培養のときと同じか,それよりも低いくらいだ。


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