原生生物の採集と観察
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5 アメーバの培養と観察

3)アメーバの観察

a. アメーバ運動の観察
 アメーバは細胞が大きく,動きもゆっくりしているので,移動の様子や餌の捕食過程は実体顕微鏡下でも十分に観察できる。40倍程度の倍率があれば,細胞内での原形質流動の様子も観察できるはずである(多少の慣れは必要かも)。光学顕微鏡下でも,スライドガラス上に細胞をおいてしばらく静置すればやがて動き出す様子が観察できる。細胞内にある核は「硬い」構造で細胞全体が変形しても核の形が変わることない。核は原形質流動に流されるようにして細胞内を移動する。

b. 餌の捕食過程の観察
 ゾウリムシやテトラヒメナなどの繊毛虫は,ときおり繊毛を使って固形物の表面に付着して「休む」ことがある。アメーバはこの性質を利用して,自分の周囲に来て休んでいる繊毛虫を捕食する。しかし,いつでもうまくいくとはかぎらず,捕食されそうになったのに「気付いて」(実際には様々な刺激により遊泳行動を再開しただけだが)逃げられてしまうこともある。
 捕食過程を観察する場合,餌としてはゾウリムシが最適なのだが,ゾウリムシは細胞が大きいこともありなかなか捕まりにくい。そのため,1個のアメーバがゾウリムシを捕らえる様子をはじめから観察するのはむずかしい。ただし,たくさんのアメーバの中から捕食中のものを探して観察するのは比較的簡単である。一方,テトラヒメナは細胞が小さい上,遊泳も活発ではないので,ある程度多めに与えれば,捕食過程を最初から連続して観察するのも比較的容易である。テトラヒメナは,無菌培養したものをアメーバ用の塩溶液(KCM溶液)で洗った後,与える。

テトラヒメナを捕食するアメーバ・プロテウス (by木原)
 アメーバは餌生物から出るわずかな化学成分に反応してターゲットに向かって原形質流動を起こす性質がある。このため,やがて餌となるテトラヒメナはアメーバの食椀で囲まれてやがてその内部に閉じ込められてしまう。
c. 細胞分裂
 アメーバ類は,培養細胞などと同様,細胞分裂の前には必ず細胞体が球形になる。その後,核分裂に続いて細胞質分裂が起こる。注目して欲しいのは,細胞質分裂の際にも細胞はまだ球形をしていて,動物の卵が分裂するのと同様,中央部でくびれるようにして分裂が起こる,という点である。中高校の教科書を見ると,しばしばアメーバ細胞が「ちぎれる」ようにして細胞分裂が起こるような模式図が描いてある。これは実際の細胞分裂を観察せずに想像で描かれたものと推察されるが,「ちぎれる」ように分裂したのでは,遺伝子の均等な分配はおぼつかない。上述のように,アメーバの分裂は動物細胞の場合と基本的には同じなのである。


アメーバ・プロテウスの細胞分裂 (by木原)

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