原生生物の採集と観察
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5 アメーバの培養と観察

1)アメーバとは
 アメーバ・プロテウス(Amoeba proteus)は,和名をオオアメーバといい,アメーバ類の中でも大型の種類に属する。既述したように,アメーバ属で野外で見つかるのはほとんどが Amoeba proteus一種のみである。これは,かつては多くの種がアメーバ属として分類されていたのが,その特徴の違いから,今日ではことごとく別の属として分類されるようになったためである。
 Amoeba proteusに似た形だが,より大型のアメーバが希に見つかることがある。Chaosという属名のアメーバで,細胞内に多数の核があるのが特徴である(下図)。

アメーバ・プロテウス(Amoeba proteus)
 移動時の細胞は,葉状の仮足を出す。細胞体の上部に移動方向に沿った何本かの尾根(ridge)ができるのが特徴。核は扁平な球体ないし厚みのある円盤状で,中央に窪みがある。後方に収縮胞があり,後端部にはウロイドと呼ばれる房状の構造がある。排泄はこのウロイド付近で起こる。細胞質内には結晶成分があるがこの形状に種の特徴があるとされる。
 Amoeba proteusの場合,移動中の細胞は 0.5 mm前後あり,ゾウリムシよりもやや大きい。ただし,大きさには個体差(クローン間の違い)がある。移動中に進行方向に伸びる部分を仮足という。仮足はときおり新しい場所に発達して移動方向が変わる。仮足や移動中の細胞形態は種によって固有の特徴があり,分類上の基準となっている。
 アメーバには口や肛門はないが,細胞全体を変形させて獲物となる原生生物を取り囲み(食椀形成;phagocytosis),やがて食椀が閉じてできた食胞(food vacuole)中で消化してしまう。消化した後,残ったものは移動中の細胞後端部から「糞」として排泄する。
 アメーバにはゾウリムシにみられるような「性」の存在は知られていない。細胞が「老化」することもなく餌が与えられるかぎりいつまでも元気に増え続ける。ちなみに法政大生物研究室には約30年前から培養しているアメーバ株がいる。途中で具合が悪くなったりしたこともあるが,培養の世話を丁寧に続けることで今現在も昔と変わらずに元気で増え続けている。
 また,Amoeba proteusは細胞が大きいわりには核はあまり大きくなく,核のDNA量も少なめである。そのため,DNA量の多いゾウリムシの核は染色されやすいが,アメーバの核は染まりにくい。
カオス(Chaos carolinense)
 左図1はゾウリムシ食べている様子。一度に2,30匹を食べる。左図2は細胞を拡大したもので,内部に多数の楕円形の核が見える。下図は,大きさの違いを見るために,上のA. proteusと対比させたもの。


トリカメーバ(Trichamoeba,左)とポリカオス(Polychaos,右)
 いずれもアメーバ(Amoeba)とほぼ同じサイズのものだが,トリカメーバは移動時の仮足が常に1本で分岐することはない。反対にポリカオスは常に仮足を複数出すのが特徴。細胞質は透明で仮足が縮む際に表面にシワが寄る。両種とも藻類を捕食するが,この点でもアメーバとは異なる。

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