平成8年度 教材の工夫と授業の改善
微小生物の培養・観察法

前ページ | 目 次 | 次ページ

1 原生生物の扱い方

2)単離操作

 原生生物を扱う上で欠かすことのできないものが,(双眼)実体顕微鏡とピペットである。顕微鏡の扱い方については他に様々な解説書があるので,ここではピペットの作り方についてのみ紹介する。
 ピペットには,移植用と単離用の2種類がある。移植用とは,試験管等の培養器で培養した細胞を培養液とともに吸い取り他の培養器に移すためのものである。一方,単離用のピペットはマイクロピペット(ミクロピペット)といい,細胞を一つずつ「つまんで」移植を行う際に使用する。
(移植の際は,通常,雑菌の混入を防ぐために滅菌したピペットを用いる。そのため,ピペットの素材は加熱滅菌処理に耐えられるガラスの場合が多い。滅菌する必要がないなら,ガラス以外の素材を用いていもかまわない。)

移植用ピペット
 移植用には一般に長めのものが用いられるが,それらは自作する場合と市販品を利用する場合の2通りの選択肢がある。自作する場合は,まず,ガラス管(外径 8 mm,肉厚 1 mm程度)を作ろうとするピペットの長さの約2倍の長さに切る。(ピペットの長さは,実験の内容,各自の好みによって異なる)つぎに,その両端を持って中央部をガスバ−ナ−であぶる。ガラスが柔らかくなってきたら,頃合を見計らってバ−ナ−の炎の外に出してゆっくりと引っ張る。この際,ガラス管の周囲が一様に暖まっていないと,ひっぱる際に均一に伸びずゆがんでしまう。まっすぐ伸ばすには,ガラス管の周囲が均一にあたたまるように回転させながら加熱するのがコツである。
 また,ひっぱる際にやわらかくなったものを急に引くと,口先が細くなりすぎてしまうので,炎の外に出した後,いっとき間をおいてから引いた方がよい。かといってあまり時間をおいたのでは,ガラス管が冷えて硬くなってしまうので十分に細くすることができなくなる。その間合いは各自経験によって学んでいくしかない。引き伸ばしたガラス管は,冷えてから伸びた中央部分をアンプルカッターやヤスリ等で切断する。また,反対側の端にはキャップを取り付けるが,キャップがはずれないように膨らませておく。端の部分をバーナーで加熱して硬い物に押し付ければ簡単に膨らませることができる。
 一方,市販品としては様々なメーカーが製造している「パスツ−ルピペット」がある。ただし,市販のものは主にシャーレ等で培養される細胞等を扱うために製造されているので,試験管で培養した原生生物を移植するには長さが少し短い(実験の内容による)。標準の2倍の長さのものもあるが,それは先の細い部分を伸ばしてあるだけなので,細い部分が折れやすく,移植用には適さない。
(注;ただし,長めのパスツ−ルピペットは,手製のガラス管を加工してつくった遠心管を使用して手廻し遠心を行う際,細い管の底に集まった細胞を吸い取るのに便利である)。


双眼実体顕微鏡とマイクロピペットで細胞を
単離する

マイクロピペットによる細胞の単離操作


マイクロピペット
 マイクロピペットは市販品はないので,自作する。つくり方は,基本的には移植用の場合と同じだが,先を極力細くするために多少の訓練が要る。 マイクロピペットは移植用のピペットの先が折れたりして使えなくなったものを利用して作る。自分の手のサイズや自分の持ち方を考えて適当な長さを決め,その長さに相当する場所をガスバ−ナ−で加熱する。十分加熱したら,炎から出して細くなるまで引く。この際,元の太いガラス管をいっきに引延すと,あまり細くならないか,もしくは先が急に細くなったものになるので使いずらい。そこで,二回に分けて引き伸ばしを行なう。第一段階では,加熱部分を軽く引いて,移植用のピペット先程度まで細くする。つぎに,少し時間をおいてから,さらにこの部分を加熱して,今度はいっきに引き伸ばす。こうすると,なめらかに先が細くなっていくピペットができる。
 硬質のガラス管を使った場合,火力の強いガラス加工専用のバ−ナ−(ふいご式など)でないとガラス管の加工はできない。一方,市販のパスツ−ルピペットのように軟質ガラスの場合は,ガス管から引いただけの通常のガスバ−ナ−で十分加工することができる。

デプレッションスライド
 (なければちいさなシャーレや時計皿等でも代用可能)
 原生生物の観察や単離操作などは実体顕微鏡下で行う。このため,実体顕微鏡に合った適当なサイズの透明容器が必要になる。ゾウリムシ研究者などではそのために専用に開発された特別のガラス容器,「デプレッションスライド」を使用している。
 デプレッションスライドは,厚さ1cm 前後のガラス板に3つの円いくぼみ(1cm3)をつけたものである。これを双眼実体顕微鏡の下において,細胞の様子を観察したり,細胞を「つまんで」別のくぼみ(デプレッション)へ移したりするのに用いる。くぼみの中に培養液を入れ,マイクロピペットで単離した細胞を培養するのにも利用する。従来は市販品がなかったので,特別注文で作っていたが,近年は,市販品としても販売もされるようになった。ただし,デプレッションスライドには様々な形状のものあり,研究分野ごとに使用目的に合った形のものが作られている。したがって,ゾウリムシ用に設計されたものを指定して購入する必要がある。

 市販品: プレス型血液反応板 穴径22mm
           東北大型 10 x 27 x 87 定価 1,100円

 デプレッションスライドとミクロピペットを使って細胞を単離したり,その単離操作を繰り返すことで原生生物から雑菌を除去することができる。そのような作業を行う場合,作業中に空気中から雑菌が混入することを防ぐために,プラスチック等でできた覆いを用いる。三方が塞がれ,一方だけが空いていてそこからデプレッションスライドの出し入れを行う簡単なものだが,これで十分雑菌の混入を防ぐ効果がある。
 また,デプレッションスライドで培養を行う際は,培養中に外部から雑菌が混入するのを防ぐために,適当な容器のなかにいれる。(ゾウリムシ研究者の間では「弁当箱」と呼ばれる金属性の箱を使用している。金属製にしてあるのは,容器を乾熱滅菌するためである。簡単なものとしては,プラスチック製の入れ物をアルコール消毒して使用してもかまわない。)


マイクロピペットの先に吸い込まれた
ゾウリムシ

弁当箱とデプレッションスライド

前ページ | 目 次 | 次ページ


Copyright 原生生物情報サーバ