公開講演会:生物多様性研究・教育を支える広域データベース
原生生物情報サーバ  月井雄二(法政大学)
3 生物多様性DBの行方
back 3-2 デジタル標本を集めた広域データベースとしての利用 back

 現時点では専門知識を網羅したものが少ないとはいえ,各Webサイトは時間の経過とともに内容が充実しつつあるのもまた確かである。その筆頭が,今回の公開講演会の演者でもある山田まち子さんの「微小貝」であろう。公開歴8年(制作開始からだと12年!)の微小貝に比べると,他のWebサイトは公開歴が1, 2年のものがほとんどなので,内容的にはこれからのものが多いのはやむを得ない。しかし図鑑ないしはデータベースといった,いわゆるコレクター的な要素をもつサイトは,時間の経過とともに制作者本人のWebサイトへの思い入れも深まっていく傾向があるので,今後,すべてではないにしても,多くは質・量ともに充実していくと予想される。

 また,これらのWebサイトの制作者は日本各地に分散しており,各々が自分の住んでいる地域の生物を主な対象にして画像を公開しているケースが多い。したがって,個々のWebサイトは網羅的ではなくとも,上記の検索エンジン等を利用すれば,日本各地で撮影された数多くの野外サンプル(標本)の情報を一つの統合化されたデータベースとして利用することも可能である。故に,これらの「生物多様性関連のWebサイト」は,今後,多様性研究の基礎となる標本データを集めた全国(ないしは世界)規模の広域データベースとして役立つことが期待される。

 ただし,そのためにはいくつかの克服しなければならない課題がある。各地に分散した生物多様性関連Webサイトを統合的に利用できるようにするためには,ある程度,各Webサイト間の連携ないし協調が必要になる。そのために役立つのがメタデータと呼ばれるものだが,ここで説明するには紙数が足りないので,詳しくは以下を参照願いたい。

 http://protist.i.hosei.ac.jp/GBIF/subjects/metadata.html

 また,可能なかぎり各Webサイトの英語化が望まれる。せっかく充実したものを作っても英語の説明がないと日本以外の国の人には見てもらえず,結果として正当な評価が得られないことになってしまう。多様性データベースの場合は,画像についての生物名や簡単な特徴の記載を英語化するだけでも世界的に十分利用価値のある情報提供になるはずである。

 さらに,今後緊急の課題になると思われるのが,山田さんも指摘しているように,各Webサイトがあるサーバの容量不足の問題である。生物多様性関連Webサイトの多くは個人がボランティア的に作っているので,その公開場所は民間のプロバイダである場合がほとんどである。これらのサイトは,内容が充実するにつれ,当然ながら大量の画像データを抱え込むようになるはずだが,個人が経費のかかる民間のプロバイダ上でそのようなデータ量の多いWebサイトを維持するのは無理があろう。そのため,質の高いサイトについては公的機関が公開場所を提供する等の対策が望まれる。

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