公開講演会:生物多様性研究・教育を支える広域データベース |
私的ハゼの百科事典 向井貴彦(東京大学 新領域創成科学研究科) |
ウェブサイトの持つ力 |
上記のウェブサイトの利点の他,生物多様性に関するサイトを研究者が運営することによる実利的効果はある.例えば,自然についての知識の普及という点では,研究者として学術誌に論文を書く以外にも市販の雑誌などに記事を書かせてもらえば,それも情報提供として効果的である.ウェブサイトを運営していれば,そうした雑誌記事執筆の依頼がくることもあるため,編集者との直接的コネがない場合の役に立つ.特に,こちらが収入のない時は,雑誌に記事を書かせていただけると経済的に助かるので,大学院博士課程修了後のキビシすぎる生存競争にさらされるポスドクにはオススメである.雑誌の編集者の方は,人助けだと思って,不遇な若手研究者たちにもっと原稿を依頼していただければ幸いである.
また,生物多様性に関するウェブサイトの運営は,自然環境の保全に対して力を発揮する可能性がある.私自身は干潟のハゼを研究しているので,ウェブサイトを見た方から,ある干潟の保全運動へ助言や協力を求められたことがある.そのときは,結局負け戦だったが,場合によっては有効な働きができるかもしれない.他にも,やんばるの野生生物保護に関して,やんばるの固有種に大きな悪影響を与えているノネコ・マングースの排除事業がおこなわれているのだが,それを妨害していた「動物実験の廃止を求める会」の悪質な内部文書をネット上に公開して,かなりの効果を挙げることができた.ただし,向井の所属する「東大」のネームバリューが効いただけのような面もあり,必ずしもサイト運営のおかげ,というわけでもないのが残念である.しかし,「研究教育機関に所属する研究者」がウェブサイトを通じて情報を発信するというのは,このような社会に影響を与える「力」となりうることは確かだろう.
ただし,ウェブサイトを,「武器」として使うのは,ポスドクのような不安定な身分の者にとっては命取りにもなりかねない.実際に社会に影響を与えるほどの効果をもたらしたときは,それによって不利益をこうむる人物・団体が卑劣な攻撃をしてくるからである.したがって,覚悟のない人,理解のない上司のもとにいる人が戦わなかったとしても,それは仕方のないことだろう.
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