公開講演会:生物多様性研究・教育を支える広域データベース
私的ハゼの百科事典  向井貴彦(東京大学 新領域創成科学研究科)
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 さて,それはともかく,どうせ作るなら見て楽しいものを作りたい.そこで,サイト作成にあたっては,少なくとも自分自身が見て楽しいと思えるものを作ることを第一に考え,最新の情報を常に取り込むことを意識した.

 ただし,内容を魚類全体に広げると個人の手に負えなくなるため,対象をハゼ類に限定して情報を充実させるように心がけた.ハゼに限定したといっても,世界中のさまざまな水域に生息し,約2200種もいる大分類群なので,個々の種類や新情報を紹介するだけでも,新種の記載・系統分類・進化の仕組み・環境への適応・希少種の保全など,生物学一般につながるテーマはいくらでも含まれており,「ハゼ」という魚をキーワードに,そこから自然全般への興味を広げられるようにできると考えたからである.

 また,自分が持っている情報で一番充実していたのが干潟など汽水域のハゼ類の分類・生態・進化に関することなのだが,市販の魚類図鑑や既存のウェブサイトには,ろくな写真も情報も載っておらず,身近な環境に棲む魚でありながら,世間に知られていないことを感じていた.特に,ほとんどの図鑑は「淡水魚」と「海水魚」に区分されており,「汽水魚」は,どちらにも掲載されないことが常である.サケ科などはどちらの図鑑にも多数のページが割かれていることがあるのに,多くの身近なハゼ類が,名前さえ載せられていないのである.

 市販の図鑑に掲載されていない理由には,汽水域の透明度が低く,生活廃水などで汚濁が進んでいるためにダイバーが写真を撮影しないということや,淡水魚の愛好家には海水魚だと思われ,海水魚の愛好家には川魚だと思われている(あるいは,汽水域に魚がいるとは思われていない)ことも挙げられるだろう.しかし,汽水域とは,河川の下流域から沿岸浅場にいたる淡水と海水の混じる水域のことであり,多くの人が住む都市部に最も身近な水環境でもある.それなのに,こうした身近な環境にすむ魚たちが情報の死角に隠されているのである.

 そこで,身近なのに知られていない魚たちの姿を知ってもらうために,図鑑をめくって楽しむような感覚で見られる構成にしようと考えた(図2).‘図鑑’の形式なら,ページを順繰りに見ていくことで知名度の低い魚たちも見てもらえると思ったからである.また,写真と学名・分布などを列挙するだけではなく,多少のコメント的な説明も付け,場合によっては読み物的なページにも行けるようにした.これは,単なる写真の羅列ではなく,それぞれの種類のもつ自然史的な背景を知ることで,興味を持ってもらいやすくなるのではないかと思ったからである. Fig2
図2 「日本産汽水・淡水(+海産)ハゼ類図譜」の一ページ.

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