牧野富太郎は,日本の植物にラテン語名をつけて登録した最初の日本人植物学者である。1884年に彼が発見し「ヤマトグサ」(Cynocrambe japonica Makino) として「植物学雑誌」 (1887年) に登録されたものが,それである(図1)。当時,西洋の学者に頼らざる負えなかった学名登録を日本人として最初に行ったと言う点で,牧野富太郎が我が国の分類学に残した功績は大きい。牧野没後に,大泉の自宅に残された約38万点にものぼる標本は,当時彼が名誉都民だったことから,東京都立大学に寄贈され「牧野標本館」としてその管理を委託されることに成った。植物標本は,その植物が地球上に存在したという証しであり,分類学では,最初に登録された標本をタイプ標本として,その種を判定するための基準として用いられることから,人類共通の重要な資産と言うことができる。牧野富太郎は生涯を通じて約1600種の新種記載を行ったが,牧野標本館にはその内の743種のタイプ標本が保管されている。これらの分類学的にも,また日本の文化財としても貴重な価値を持つタイプ標本のラベル情報と高解像度画像をデータベース化し,インターネットを通じて公開したのが,牧野標本館タイプ標本データベースである。
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図1 ヤマトグサ Cynocrambe japonica Makino
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