公開講演会:生物多様性研究・教育を支える広域データベース |
日本産アリ類画像データベース 今井弘民(国立遺伝学研究所 / 総合研究大学院大学) |
分類学の新しい潮流と日本の実情 |
分類学といえば,ヨーロッパの列強が7つの海を制覇した大航海時代には自然史科学の華であった。しかし近年,特に日本では,分類学は著しく衰退して社会から乖離しつつある。このことは分類研究者自身が危機感を感じているようで,最近「地球規模生物多様性情報機構(GBIF)」という国際的科学協力プロジェクトが立ち上がり,分類学の活性化が試みられていることからもうかがえる。その目的は「各国の大学や博物館に収蔵された生物標本の分類データベースを構築して世界の人々が利用できるようにする」ことにある。
日本はこの国際プロジェクトの事務局運営ために米国と並んで70万ドルという高額の資金を提供している。一方各国のデータベース整備は各国が自前でおこなうのが原則で,欧米諸国は分類学が生き残る最後のチャンスと,国家事業として潤沢な予算を投入してタイプ標本を中心とした分類データベースを立ち上げつつある。日本では科学技術振興事業団(JST)が受け皿になって,国立大学や主要博物館を中心にGBIF-Japanが組織された。しかし,昨今の国立機関の独立行政法人化と予算削減の余波で,計画はスタート前から頓挫してしまった。
内情はさておき,平成15年度のGBIF会議の日本開催が決まっている。開催国として日本の分類学の水準を世界にアピールするよいチャンスである。日本では植物分類が比較的しっかりした組織をもっているようで,乏しい財源をやりくりして東大と科博に集中的に予算投入されることになった。これに対して動物分類はリーダー不在で力がでないようである。しかしいずれにしても,日本ではタイプ標本の整備が著しく遅れており,種数や収蔵場所一覧などの分類情報調査が分類学会を中心にこれから始まろうとしているのが実情である。
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