アサガオ百科 組織培養と形態形成

組織培養・不定胚形成・個体再生

Copyright 1998-2017 米田 芳秋


 植物の組織培養とは植物体から切り出した細胞,組織,器官をガラス器の中で一定の栄養と物理条件の下て培養する方法で, 1930 年代に始まった。例えば種間交雑などによって生じる胚が正常に発生しない場合に,その未熟胚を取り出してガラス器の中で適当な栄養を与えて培養することにより雑種植物体を得られる場合がある。 1950 年代にはスチュワード(Steward)らがニンジンの根の組織片を培養して植物体を再生している。現在ではかなり多くの植物で,培養組織や培養細胞から植物個体が再生することが確かめられており,新しい育種法の一環として利用されている。

 アサガオについては,茎や胚軸切片を培養するとカルス(細胞が無秩序に集まってできたた無定形の組織塊)ができ,このカルスを培養すると不定根は容易に発生するが,不定芽の発生には至らない。

 アサガオにおいて培養下で個体を再生させる方法はないかと種々検討した結果,米田は中村信雄と協力して,開花後 13 日目位のさく果から子葉期の未熟胚を取り出し,子葉を切除して,カザミノ酸を加えた無機塩類と砂糖を含む寒天培地に植える方法を検討した。その結果,未熟胚の胚軸の先の方から多数の突起が出て,その一部は不定胚になり分化して最終的に個体となることを見つけ,さらに胚軸の先端を幼根を含めて三角錐状に切り出したものを植えると,急速に不定胚が出ることを発見した(1987 年)。これがアサガオにおいては最初の個体再生法である。その後,この方法はさらに改良されているが,このような個体再生系を用いて遺伝子導入などを行えば,これまでと違った全く新しいアサガオを育成できると予想される。

以下にアサガオの組織培養関係の文献をあげる。イポメア属のサツマイモの個体再生については 1980 年代に成功している。


アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 東京古型標準型
カルスと不定根

 アサガオの茎や胚軸切片などを植物ホルモンを含む寒天栄養基本培地に置いて培養するとカルスが発生し, 不定根が容易に発生する。図のカルスの下側から出ているのも根状の構造である。しかし不定芽などの発生は見られない。

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 東京古型標準型
子葉切除胚培養→ カルスと種々の突起

 受精して1週間目位の子葉期胚から子葉を切除して,幼根を含む胚軸を培養すると,切り口からカルスが発生し, カルスと胚軸の境目付近から管状,杯状,棒状など種々の形状の突起が出てくる。 ここで用いる寒天栄養培地には特にホルモンを添加しなくてもよい。

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 東京古型標準型
胚軸先端片培養→不定胚形成

 受精して1週間目位の子葉期胚の胚軸先端部だけを切り出して,これを培養すると種々の形状の突起と共に不定胚が発生する。 この図では植え込んだ胚軸先端部から突起がでているが,先端に不定胚が見える。

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 北京天壇
子葉切除胚培養→不定胚 よりの再生小植物体

 不定胚から発達した小植物体で,茎と本葉が見える。

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 東京古型標準型
子葉切除胚培養→ 不定胚よりの再生小植物体

 不定胚から発達した小植物体で,茎,本葉,根が見える。

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 東京古型標準型
子葉切除胚培養→ 不定胚よりの再生小植物体

 再生した小植物体を試験官からやや大きなガラス瓶に移植したもの。

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 東京古型標準型
子葉切除胚培養→ 再生植物体の鉢移植

 再生小植物体をさらに植木鉢に移植したもの。

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 902M
子葉切除胚培養→不定胚よりの再生小植物体

 紫系統由来の一系統について同様の培養を行った結果を示す。不定胚から再生した植物体に本葉,茎,根が見える。

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 902M
子葉切除胚培養→再生植物体

 ガラス瓶に移植した再生植物体

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 902M
子葉切除胚培養→再生植物体

 ガラス瓶の中で開花した再生植物体

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 902M
子葉切除胚培養→再生植物体

 ガラス瓶から鉢に移植した再生植物体

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 902M
子葉切除胚培養→再生植物体

 ガラス瓶から鉢に移植した再生植物体の開花

アサガオ Ipomoea nil (=Pharbitis nil) 902M
子葉切除胚培養→再生植物体

 さらに成長した再生植物で,花は牡丹咲であった。

アメリカアサガオ Ipomoea hederacea (= Pharbitis hederacea)
受精後約1週間の幼胚(子葉期)

 左側はアサガオの近縁種アメリカアサガオの子葉期胚をとりだしたもの。 右側に胚珠の胚のう内にある子葉期胚の組織像を示している。

アメリカアサガオ Ipomoea hederacea (= Pharbitis hederacea)
子葉切除胚培養→不定胚形成

 この時期の胚から子葉を切除して培養したもので,種々の突起が生じている。

アメリカアサガオ Ipomoea hederacea (= Pharbitis hederacea)
子葉切除胚培養→再生小植物体

 不定胚状突起が発達して小植物体となったもの。

アメリカアサガオ Ipomoea hederacea (= Pharbitis hederacea)
子葉切除胚培養→再生小植物体

 栄養基本培地にグルタミン酸 500mg/l 加えた培地で培養して得られた小植物体。

アメリカアサガオ Ipomoea hederacea (= Pharbitis hederacea)
子葉切除胚培養→再生植物体の鉢移植

 ガラス器から植木鉢に移植した小植物体。環境の激変を避けるためしばらくビーカーを被せる。

アメリカアサガオ Ipomoea hederacea (= Pharbitis hederacea)
子葉切除胚培養→再生植物体

 植木鉢で開花したもの。

アメリカアサガオ Ipomoea hederacea (= Pharbitis hederacea)
子葉切除胚培養→再生植物体

 さらに成長して,開花したもの。                             

植物組織培養の全般的な解説書

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Edited by Yuuji Tsukii (Lab. Biology, Science Research Center, Hosei University)