学術標本画像データベース作成の指針

                   平成8年1月12日
                   学術審議会学術情報資料分科会学術資料部会
                   大学博物館ワーキンググループ

 目 次

 

 


I.はじめに

1.趣 旨

 平成7年6月に学術審議会学術情報資料分科会学術資料部会において取りまとめられた 「ユニバーシティ・ミュージアムの設置について」(報告)で,学術標本の公開・活用に資するため,データベース化を行う場合,多方面の利用者が活用できるよう画像データベース化を図ることが望ましい旨の提言がなされた。

 本ワーキンググループはこの提言を踏まえ,学術標本画像データベースの作成について検討を重ね,このたび,各大学において学術標本の画像データベース化を行う際の参考となる事項を取りまとめたものである。

2.学術標本の特性への対応

 学術標本には植物,動物,人類,古生物,鉱物,岩石などの自然史系のものから,考古,美術,民族,民俗などの人文系のものまでさまざまな分野の資料があり,研究・教育にとって有効な画像情報の特性も異なる。したがって,学術標本の画像データベース化に当たっては,画一的ではなく,各々の研究分野での活用に十分耐えるよう,対象とする学術標本の特性を十分に考慮する必要がある。

3.学術標本の多様性と学際化への対応

 また,措定の研究分野で収集された学術標本であっても,異なる研究分野の研究者によって別の角度から研究・教育の資源として利用されることが増大している状況に対応して,単に特定の分野の学術標本の特性を十分に考慮するだけでなく,分野を越えて共通化できる要素(年代(時代),採集地名,国名等)を取り入れた検索項目や共通化による効果を検討して画像データベースの構築を図る必要がある。

 

 


II.学術標本画像データベース作成の基本

 学術標本画像データベースの作成に当たっては,その作成の目的と利用形態等を十分考慮したうえで,下記に留意して対処することが肝要である。

1.学術標本の特性と学際化に対応した画像データベース

 学術標本の画像データベースは,それぞれの分野での研究・教育に資する資源の情報であるから,学術標本の特性に合わせた構造とすべきである。

 加えて,分野を越えた利用が可能なように、共通化できる要素や共通化による効果をも検討して,その構築を図るべきである。

2.画像情報と文字情報の構築

 画像データベースは画像情報を主たる情報とするが,学術標本の学名,和名,採集の場所と日時,寸法等の基礎データ,分析データ,参考文献等が画像とともに検索できる文字情報も重要な価値を有している。文字情報は研究の進展に対応して追加,訂正される場合が多いことを考慮すると,画像情報と文字情報とはそれぞれ別個に作成してリンクさせることが望ましい。

3.画像情報の種類

 研究・教育にとって動画像や音声を必要とする,あるいは動画像や音声の方がより有効な学術標本も存在するが,当面,静止画による画像データベースの構築を優先する。将来的には動画像や昔声のデータベースの作成も容易になると考えられるので,これらの併用を視野に入れておく必要がある。

 静止画像は,学術標本の特性に応じて,全体像,部分像,あるいは採集場所の状況等を組み合わせて構築する。

4.画像情報に付加する文字情報

 画像データベースに付加する文字情報は,学術標本の種類や研究・教育分野によって異なるが,他の分野の研究者の利用も考慮して,収蔵機関名,資料番号,採集した場所と日時,参考文献に関する文字情報は,必ず付加する必要がある。自然史系の標本については,場所に関する情報には地名とともに緯度・経度・高度による地球上の位置を表示する情報も必要である。

 文字情報に使用する言語は,学術標本の種類や分野によって異なるが,国際的な利用を考慮すると,可能であれば英語を併記することが望ましいと考えられる。

5.印刷メディアと電子メディア

 印刷による学術標本目録等は今後とも一定の有効性を保持するものと予想される。したがって,ディジタル化された画像データベースを構築する場合も,印刷メディアの特性をできるだけ忠実に実現させる機能を持たせるよう検討する必要がある。
 

 


III.学術標本画像データベースの技術的留意点

1.画像データベースの画像解像度

 画像データベースの画像データは,サムネイル検索からインターネット等による利用,あるいは端末表示による研究・教育用として多様な活用が見込まれる。したがって,場合によっては,同一資料であっても解像度の異なる画像データを準備することが望ましい。具体的にはサムネイル用の100×200ピクセル(画素)程度から超高精細の4000×6000ピクセル程度の範囲での数種類が想定される。

2.画像圧縮

 良質な画像を得るためにはデータ量も大きなものとなり,データの圧縮が必要となる。この場合留意すべき点は以下のとおりである。

・画像のオリジナルデータは圧縮画像データとは別個に保存し,圧縮率や圧縮アルゴリスムの変更にも対処できるようにする。

・画像の内容及び用途により,適切な圧縮アルゴリズムと圧縮率を選択する必要があり,現在,一般に使用されている圧縮アルゴリズムはJPEGによる圧縮であり,圧縮率は16分の1もしくは20分の1程度である。

・画像入力装置,画像記憶装置,画像出力装置等は,解像度,速度,容量などに関する性能の進歩が著しく,数年で最先端機器が陳腐化し,また,よりすぐれたアルゴリズムやフォーマット形式が生まれてくる可能性が高い。したがって,特定のフォーマット,アルゴリズム,圧縮率に限定せず.資料の特性と使用目的に適したものを採用することが肝要であると同時に,将来,新たな圧縮方式が現れた場合にも対応可能なデータ構造とする。具体的には,データコードに圧縮アルゴリズムの指定子をもたせるように設計する必要がある。

 

 


IV.学術標本画像データベースの実際例

1.基本構想

 学術標本画像データベースの利用方法としては,標本が示す形(外形)と大きさ,標本を構成する部分の形と大きさ,それらの配列のしかた・位置関係・数,表面の構造など多岐にわたる観察・検証を行うことが予測される。また,数多くの標本を比較・計測することによって,形や大きさの変異の解析を行うことが必要な場合もある。これらの利用法に応えるためには,標本の全形の画像が欠かせないと同時に部分の画像もいくつか必要となる。また,表面の微細な構造を観察するには超高精細画像も必要である。

2.データベース構造の決定

a.画像入力装置による基本画像作成

1.ディジタル・カメラによる直接入力もしくは通常のカメラによる
  ポジ又はネガフィルムを作成し,入力する。

2.画像入力に当たっては,用途に応じ,解像度の異なるレベルの画像を
  作成する。

(作成の1例)
 レベル    ピクセル数      用途
 第lレベル  100×200程度  画像データベースの検索用,インデックスプリント用
 第2レベル  250×300 〃  縦位置の画像を上記と同じく表示できる
 第3レベル  500×750 〃  通常のテレビ表示用(通常テレビ級の端末表示用)
 第4レベル  1000×1500〃 HDTV(ハイビジョン等)表示用 
 第5レベル  2000×3000〃 プリント出力用,印刷用
 第6レベル  4000×6000〃 超高精細画像用,精密印刷用

注: 大学で多種多様,かつ大量の学術標本をデータベース化するためには画像入力装置等の機器の整備が必要であるが,個別研究者が小規棋なデータベースを作成する場合には,通常のカメラで撮ったポジ又はネガフィルムを利用し,入力は外部委託することが可能である。

b.文字情報の項目

 画像データには,次の実例を参考にして,学術標本の特性に応じた文字情報を加える。
 なお,*の項目については,できる限り設定することが望ましい。  

 

○考古資料の場合(
東京大学総合研究資料館の例)

 【ディスク番号】  00101
*【登録番号】    B-00253
*【国名】      日本 Japan
*【材質】      青銅 bronze
*【寸法】      高さ:2.3 cm 幅:  奥行き:   最大径:14.7 cm
 【重さ】      423 g
 【採取者名】
*【資料館内収蔵場所】人類収蔵庫
 【収蔵ケース番号】 A-5
 【関係記録収蔵場所】Aa-12
 【記録ケース番号】 Ab-23
*【名称】      銅鏡
*【地域】      関東地方
 【所在地】
*【時代区分】    古墳時代
 【キーワード】   鏡、弥生、銅鏡
*【版権】      総合研究資料館
 【備考】
 

○歴史資料の場合( 国立歴史民俗博物館の例)

*【資料番号】    H 612   
 (公開)
          さびじごまいどうぐそく こぐそくつき
*【資料名称】    錆地五枚胴具足(小具足付) 
 (公開)
          さびじごまいどうぐそく こぐそくつき
 【コレクション名】 錆地五枚胴具足(小具足付)
  (公開)
 【指定】      未指定
 (公開)
*【数量】      1領
 (公開)
*【法量】      縦  cm  横  cm  高さ 47.0cm
 (公開)
 【材質】
 (公開)
 【実物・構造区分】 実物
 (公開)
*【製作年代】    西暦:1594年, 世紀:16, 元号:文禄3年,
 (公開)
 【付属品】     有=具足櫃2合
 (非公開)
 【利用規制】
 (非公開)
*【使用地】     不明
 (公開)
 【入手担当者】   宇田川武久
 (非公開)
 【入手方法】    購入
 (公開)
 【入手先】     ******
 (非公開)
 【受入日】     1986年11月25日  
 (非公開)
 【資料写真】    有り
 (非公開)
 【記入日】     1993年06月10日
 (非公開)
 【記入者】     宇田川武久
 (非公開)
 【備考】      胴高32.5cm 後47.0cm 兜鉢高14.0cm
 (公開)      前後27.0cm 左右25.0cm
 

○植物資料の場合( 国立科学博物館の例)

 【ディスク番号】
 【登録番号】
 【目・科】         Polygalaceae
*【学名】          Salomonia Kradungensis H. Koyama
*【記載者または同定者名】  H. Koyama
 【引用文献】        Bull. Natn. Sci. Mus., Tokyo, Ser.B, 21(1): 1995
 【標本の種類】       isotype (holotype in KYO)
*【採集地(緯度,経度,高度を含む)】 Thailand [ NE ]: Loei, Phu Kradung,
                   Wat Phra Kaeo (RS-10), 1280 m.
 【生育地状況】       Shallow sandy soil on flat rock.
 【生育特性】        Erect herbs; flowers purple.
*【採集年月日】       1988/09/04
 【採集者[および採集者番号]と採集番号】 Hiroshige koyama T-61547
 【収蔵機関[および登録番号]】 TNS 554339
 【収納ケース番号】
 【解析結果(電顕像,染色体数,成分,DNAなど)】
 【備考】

 

○動物資料の場合( 国立遺伝学研究所・日本蟻類研究会の例)
 ( アシナガアリ  Aphaenogaster famelica(Fr. Smith)の例

*【ディスク番号】 0232-78〜80; 0313-01〜03
*【標本番号】   HI93-101
*【標本ケース番号】J-Ant-01
*【標本の形態】  乾燥標本
*【種名】     Family:F0RMICIDAE アリ科
          Subfamily: MYRMICINAE フタフシアリ亜科
          Tribe:Pheidolini オオズアリ族
          Genus: Aphaenogaster アシナガアリ属
           アシナガアリ Aphaenogaster famelica(Fr. Smith)
*【採集地】    三島(静岡県)
*【採集年月日】  9/28/93
*【採集者】    今井 弘民
 【分類形質計測値】HL=2.18,HW=1.95,SL=2.60,EL=0.43,WL=2.85,AW=1.47,TL =8.84
          HL:大あごを除く頭長,HW:頭幅,複眼の後方で測定,SL:触 角の柄節長
          EL:複眼の最大幅,WL:Weber方式による胸部(前伸腹節を含 む)長
          AW:胸部最大幅,PL:腹柄節長,PPL:後腹柄節長,TL:全長 。
          大あごの先端から刺針を除く腹部末端までの長さ
 【模式標本に関するデータ】
          模式標本の所在:英国ロンドン 大英自然史博物館(The Natural
          History Museum,London)
          模式産地:兵庫県神戸市付近
 【シノニム】   Apbaenogaster famelica Fr.Smith,1874
          アシナガフタフシアリ(矢野,1909)
          キアリ(太田,1935)
          ・・・・・(以下省略)
*【種の記載】   体長3.5〜8mm。触角柄節,胸部,脚ともに比較的長い。体色は暗褐
          色で,頭部,腹部はやや濃色,脚は褐色。・・・・(省略)
          最も普通種で,東日木では平地,西日本では平地から山地までの林
          縁,林内の土中や石下に営巣する。・・・・(以下省略)
*【分布】     北海道,本州,佐渡島,伊豆諸島,四国,九州,壱岐,対馬, 黒島,
          種子島,屋久島,口永皮部島,トカラ列島;中国
*【文献】     Smith,F.(1874)Descriptions of new species of Tenthredinidae,
          Ichneumonidae,Chnysididae,Formicidae,etc.of Japan.
          Trans.Ent.Soc.London373−409.・・・・・(省略)
          Imai,H.T.(1969)Karyological studies of Japanese ants.
          I.Chromosome evolution and species differentiation in ants.
          Sci.Rep.Tokyo Kyoiku Daigaku Sec.B,14:27−46
 【その他関連情報(染色体、DNAレポジトリー等)】
          染色体数2n=34(神奈川県丹沢 H.Imai,1969)
 

○微化石資料の場合(日本福祉大学・ 名古屋大学の例)

 【種名】        Pantanellium foveatum MIZUTANl and KID0
 【資料タイプ】     Holotype
 【化石試料の地質時代】 ジュラ紀中期
*〔登録番号】      16395/535
 【登録者名】      水谷伸治郎・木戸 聡
*〔収蔵機関】      名古屋大学古川総合研究資料館
*【収蔵場所】      地球科学資料室:放散虫化石資料室
*【原試料岩石採取地域】 岐阜県加茂郡七宗町樫原
*〔岩石採取地点経緯度】 137゜7.15'E;35゜31.8'N.  
 【岩石採取者】     木戸 聡
 【採取年月日】     1981年8月19日
 【文献】        Mizutani,S. and Kido,S. (1983), pl.51,fig.1a.
 【記載〕
 【備考】
 【ディスク番号】    NFU-9502(23/59)
 【画像データベース作成者名】水谷伸治郎・永井ひろ美・磯貝芳徳
 【画像データベース作成年月日】1996年4月30日
 【版権】
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 【Species】         Pantanellium foveatum MIZUTANl and KID0
 【Type】           Holotype
 【Age of the Fossil】    Middle Jurassic
 【Register No.】      16395/535
 【Registered by】      Mizutani,S. and Kido,S.
 【Institute of Repository】 Nagoya University Furukawa Museum
 【Floor & Room】      3rd Fl.,Earth Science Section
 【Locality of Rock Specimen】Kashibara,Kamiaso,Gifu,Mino terrane,Japan
 【Long.; Lat.】       137゜7.15'E;35゜31.8'N
 【Specimen collected by】  Kido,S.
 【Date of collection】    Aug.19,1981.
 【Reference】        Mizutani,S. and Kido,S. (1983),pl.51,fig.1a
 【Descriptions】
 【Note〕
 【Disc No.】         NFU-9502(23/59)
 【Image-Datebase edited by】Mizutani,S., Nagai,H. and lsogai,Y.
 【Date】           April 30, 1996.
 【Copyright】
----------------------------------------------------
 【Name of the Reader,Institute,Address,Date】
  ・name:
  ・institute:
  ・address:
  ・e-mail:
  ・date:
  ・Please write here your suggestion on this fossil in English
 

 注:
・入力データは,標本に伴われたラベルから作成し,ラベルにない追加部分は[ ]を用いて入力時の追加事項であることがわかるようにする。
・補足には多大の時間と専門知識が必要であるが,この部分の充実度が画像データベースの利用度を高めるポイントとなる。
・また専門外での標本画像データベースの利用を想定すると,標本についての信頼できる分類学的同定が不可欠であり,分類学者による責任同定determinationのない画像 データ・ベースの公開は避けるべきである。
・閲覧者の名前や注記については,書き込み可能な領域を作っておいて,閲覧者からの学術的な意見を受け入れられるようにしておくことが望ましい。
 

c.検索画面

 標本の部分と全体,共存資料の情報など,その画像データとその他のデータとの相互の関係が理解できるように検索機能を設け,画像データベース全体を有効に参照できるよう留意する。
 

 


      第14期学術審議会学術情報資料分科会学術資料部会
      大学博物館ワーキンググループ名簿
 

 

 主 査  岡 田  茂 弘  国立歴史民俗博物館 情報資料研究部長

      青 柳  正 規  東京大学総合研究資料館長(文学部教授)

      小 山  博 滋  国立科学博物館 植物研究部長

      水 谷  伸治郎  日本福祉大学情報社会科学部 教授

      森 脇  和 郎  総合研究大学院大学 副学長

 

 


                        (参考資料)
 

 

 

 


Copyright 1996 by 文部省 学術審議会 学術資料部会