カイコ細胞質多角体病ウイルス



Cytoplasmic polyhedrosis virus CPV

二本鎖RNAを遺伝子として持つレオウイルス科(Reoviridae)の中のサイポウイルス属(Cypovirus)に属するウイルス。

感染と病気

 主に鱗翅目(蝶や蛾)の幼虫に感染する。中腸の細胞の細胞質で増殖し、細胞質に光学顕微鏡で見えるくらい大きな封入体<封入体蛋白質〔ポリヘドリン〕の塊>を作る。ウイルスは、この封入体の中に、丁度ブドウパンの中の干しぶどうの様に散らばって入っている。感染幼虫は、下痢を起こし、やがて細胞が崩壊する。幼虫が、桑の葉に付着した封入体を葉っぱとともに食べると感染する。

ウイルス粒子と遺伝子

 ウイルス粒子は、直径約60nmの正二十面体構造をしている。正二十面体の各頂点に当たるところ(五回対称軸)に、突起が付いている。突起は煙突のように中空になっている。遺伝子は、十本に分かれた(分節した)二本鎖RNA。

 このウイルスは、粒子内にmRNAを作るために必要な酵素群を持っているので、精製された粒子を使って(細胞に感染させる必要なく)試験管内でmRNA合成を行わせることが出来る。そのため、このウイルスを使って多くの mRNA合成機構に関する研究が為されている。


 古市泰宏、三浦謹一郎らは、このウイルスの遺伝子の構造を研究し、一方の鎖の5’末端に特別な構造があることを発見した。直ちに世界中で、他のレオウイルス属ウイルス遺伝子やいくつかの一本鎖(+)RNAウイルス遺伝子などについてこの構造の存在が確かめられた。更にウイルス遺伝子のみならず、これが広くすべての真核生物のmRNAの5’末端にあって、蛋白質合成に重要な役割を果たしている構造であることが確かめられた。この構造が,その後『Cap構造』と呼ばれる様になった重要な発見であった。
Furuichi Y. and Miura K. (1975) Nature, 253, 374.

 1980年に、矢崎和盛と三浦謹一郎は、精製ウイルスとmRNA合成中のウイルスの粒子と分節遺伝子の構造を電子顕微鏡で観察し、mRNA合成に必要な酵素群が突起基部にあり、遺伝子がそこをスライドして行くことによってmRNA合成が進むと言うモデルを提出した。この粒子構造とmRNA合成のモデルは、1990年代中頃以降の、数多くのx線結晶学やCryo電子顕微鏡による研究で支持されるようになった。他のレオウイルス科のウイルスの粒子構造とmRNA合成の様式も、このモデルを支持している。
Yazaki K. and Miura K. (1980) Virology, 105, 467-479.

(矢崎 和盛<法政大学>)


<科の説明へ>

<トップページに戻る>