とはいえ,研究者からの情報発信が遅れている理由は,そのような技術的習熟度の問題だけではない。今日,WWW(World Wide Web)による情報発信は,研究分野以外では非常に活発だが,このことはWWW等を利用した情報発信が技術的には比較的容易であることを端的に示している。したがって,研究者自身に情報をネットワークを介して発信したいという強い欲求があれば,WWWサーバの構築法などの技術的課題は自ずと克服できるはずである。これからいえるのは,研究者の多くはそのような情報発信への欲求を持っていないということである。その理由としては,多くの研究者がインターネットのメディアとしてのすぐれた機能を十分に理解していないということもあげられるが,同時に,仮にインターネット上で学術情報を公開しようとしても,そのために必要な環境が十分に整っていない,ということもあげられる。
すなわち,現状のインターネット上で公開された学術データについては,そのURLの不安定性,authorizationの欠如などの問題があり,学術雑誌上に公開する論文等と同等な学術的価値が保証されないのである。学術的価値が保証されなければ,業績としても認められず,したがって公開をしても無意味と判断されてしまう。これが研究者から情報公開しよういう意欲を奪っている最大の要因と考えられる。以上のように,インターネットはいまだ学術情報公開用のメディアとして十分な機能を備えていないのである。そこで以下の2つの問題が浮んでくる。
1)ネットワークで公開された情報の学術的価値を保証するためには,長期的
安定的に情報公開が維持されなければならない。現在は非常に不安定。
2)公開された情報の質を保証する評価システムが必要である。
現在は,それが存在しない。玉石混交。
これらの問題点が克服されれば,研究者からの情報公開が促進されるはずである。そこで具体的にはどのような対策が必要かを次に述べる。