公開講演会:生物多様性研究・教育を支える広域データベース

病原真菌データベース
http://www.pfdb.net/
槇村浩一(帝京大学 医真菌研究センター)

背景と目的

 症例数がきわめて多い皮膚真菌症,増加の一途にある致命的深在性真菌症をはじめとした,真菌症とその起因菌に対する研究教育の重要性は今日益々高まっている。しかし,これに反して医真菌学研究のために利用できる情報は,極端に限られていると言わざるを得ない。

 分散限局している医真菌研究・教育資材の効率的利用と,研究者相互の情報交換を計るためには,研究者が容易に(誰もが,自由に,無料で)利用できる知的基盤の整備が必要である。 そのための試みとして,「病原真菌データベース」(英名:Pathogenic Fungi Database,略称:PFDB)http://www.pfdb.net/を作成し,日英両言語で画像情報を提供している(図1)。


図1 病原真菌データベース

URL, http://www.pfdb.net/

 PFDBは,日本語(図2)または英語版のインデックスから,病原真菌菌種別のリスト(図3)または真菌症別のリスト(図4)を経て,各々起因菌(図5)または臨床(病理)像のページ(図6)に進み,そこから必要な(病原真菌,または真菌症臨床)画像のサムネイルを選択することによって,希望の画像を閲覧し,必要に応じてダウンロードが可能な構成となっている。


図2 日本語トップページ
URL, http://www.pfdb.net/myphp/database_jpn.php

図3 病原真菌菌種別リスト

URL, http://www.pfdb.net/php/list_species.php

図4 真菌症別のリスト
URL, http://www.pfdb.net/php/list_disease.php


図5 起因菌(Aspergillus fumigatus)のページと拡大イメージ
(Copyright R. Kano/PFDB)

URL, http://www.pfdb.net/php/s_html_create.php?direct=true&speid=11&PHPSESSID=0e7f78874a7e68048a539b839d0edeb4'



図6 臨床(病理)像のページ(アスペルギルス症)と拡大イメージ
(Copyright K. Makimura and K. Shibuya /PFDB)

 PFDBの作成・公開によって,貴重な画像情報が研究者の退職等によって散逸することを防ぎ,これを学術画像情報の国際的相互利用システムとして供することが可能となった。また特筆すべきは,斯界の研究と教育に寄与することを目的としているPFDBの画像は,従来インターネット上で得られていた低画質の画像とは異なり,データベース化された高画質の病原真菌および真菌症画像であり,出版またはスライド作成に耐え得る点が挙げられる。

経緯と現状

  PFDBは,病原真菌画像データベースとして第0.0.1版作成(1999年11月)以来,第1.0.0版(2000年11月),第1.9.6.1版(2002年9月迄,ここまではhtmlファイルを作成)を経て,php版(2002年9月以降)に至る。

 公開以来,医真菌にかかわる情報の無償共有に賛同する研究者からの情報提供(図7)を依頼し,データベース化に関わる作業と手順は,「規約」に基づいて「病原真菌データベース運営委員会」(http://www.pfdb.net/myphp/editors_pfdb.php?lang=jp)が行っている。また,運営に関わる費用は,本データベースの主旨に賛同していただけた企業等からの寄付,および病原真菌研究に関する公的研究助成金の獲得に依存している(http://www.pfdb.net/php/list_shaji.php?lang=jp)。


図7 制作者・著作権者と著作権者によって提供された画像リスト
URL, http://www.pfdb.net/php/list_cpright.php?direct=true&lang=jp

運営情報としては,病原真菌(菌株)画像に真菌症(臨床)画像と放線菌および放線菌感染症画像他を加えて,主要病原菌として39属68菌種,真菌症としては33件を収載している。情報量は,htmlファイルとして130ページ,画像ファイルとしては,サイズの違いを同一換算すると471画像,総データ量は384.7MBである。アクセス数は,1日に3000-6000件程度を記録しており,国外からのアクセスが大部分(約65%)を占めている。

 アクセス数の増大に伴い,帝京大学医真菌研究センター内に設置していた学内サーバーから切り替え,より接続速度の速い外部専用サーバー上の独自ドメイン(http://www.pfdb.net/)からの発信(移行)を開始した。この際,株式会社デザインハウス(図8)の協力により従来の「手書きHTML形式」にかえて「phpデータベース」を採用することによって,学術文献(写真)の管理・公開手順の簡素化,真菌症(臨床画像)ページに対する登録・アクセス制限(医療従事者および研究者に限定)の設定,および電子ブックCDとしての配布(未施行)等を可能にした。


図8 phpデータベースの作成協力(株式会社デザインハウス)
URL, http://dhc-net.vis.ne.jp/dhcindex.html

データ提供と使用上の注意

PFDBに用いられている画像は,情報の無償共有に賛同する諸研究者からの提供によるものである。画像の提供は,データベース管理者宛電子メール,またはスライドなどの送付によって受けつけ,必要に応じて管理者がデジタル化した後,原図を返却している。情報提供者氏名は,提供データの明示とともに,データベースの著作権者リストに掲載し,著作権保有を明示する。 PFDBのすべての画像,およびその他のデータの著作権は,その制作者・著作権者(画像の場合は提供者),および病原真菌データベースにある。PFDBにある画像を,教育・研究など非営利目的で使用する場合は,無償で利用することができる。しかし,その際は各画像に制作者・著作権者の名前を必ず付記しなくてはならない(例: (c)K. Makimura/PFDB)。言うまでもなく,制作者・著作権者に断りなく,情報を営利目的(商用目的)で利用することは禁じている。これら注意事項の詳細は,PFDBの該当ページを参照されたい。(http://www.pfdb.net/myphp/copyright.php?lang=jp

展望とお願い

 より一層情報収集と共に,現在PFDBの現有画像を,臨床的・基礎的に使用しやすい形態への整理を進めている。また今後,分類・同定のための遺伝子情報,その他の表現形質に関する情報を画像に対応させる形で加え,代表的な最小限の菌株については,画像データ,および遺伝子データと対応させる形で保存できるシステムを考えたい。併せて原記載等の古文献のデータベース化も求められている。

 病原真菌は単に起因菌であり,研究対象であるのみではなく,国家的生物資源である。従ってこれをデータベース化する作業は学術的,産業的,政治的に必須である。

 ボランティアデータベースに相当するPFDBを育ててゆくためには,一方的利用のみではなく,病原真菌と真菌症にかかわる情報の無償共有に賛同する研究者の情報提供が求められる。また,本データベースは,公的・私的な援助がなければ継続した知的基盤となり得ない。各方面からの援助獲得を検討し続けたい。