アサガオ百科 その他 

環境問題

Copyright 1998-2017  米田 芳秋
 第2次大戦が終わり戦災と貧窮の中から民主的な文化国家を建設しようと復興に努力した結果,経済的にも次第に力をつけてきたが, 1970 年になると経済の急速な成長に伴って環境汚染問題がクローズアップしてきた。この年,光化学スモッグが東京で初めて発生し多数の被害者が出た。スモッグの構成分である光化学オキシダントは名前の通り酸化力が強い物質で,オゾン,PAN (ペルオキシアデニルナイトレート)などがあり,多くの植物にも被害を及ぼしている。

 アサガオもその一つで,特にスカーレットオハラという紅色の美しい花を咲かせる品種は光化学オキシダントの主成分オゾンに非常に感受性が強く,葉に白い斑点ができるので,光化学オキシダントが発生したかどうかの指標植物として使うことができる。観賞用に栽培しながら大気汚染の程度も判定できるのである。

 米田芳秋は 1974 年から3年間,読売新聞と都道府県共催のアサガオによる光化学スモッグ観察・全国調査に参加し,スカーレットオハラがどのように被害を受け,地域によって被害がどう違うかをつぶさに経験した。例えばアサガオの葉の緑が点々と抜けて白くなったものを漂白斑というが,被害の程度としては軽い方で明らかにクロロフィルが一部分解したことを示している。重度の被害を受けた葉は葉身が破れて巻いて黒くなり,さらにひどい場合には落葉に至る。なお,アサガオでも品種によってオゾン感受性に違いがあり,同属のソライロアサガオ Ipmoea tricolor(西洋朝顔ともいう)も感受性が高い。オゾンは葉の気孔を通じて葉肉に達し,細胞水に溶けて拡散しアスコルビン酸などを酸化し,タンパク質の働きを無くして大きな影響をあたえる。また細胞の膜にある脂質を分解して膜を傷つけてこわしたり,クロロフィルを分解すると言われている。

 酸性雨は特にヨーロッパにおいて森林に大きな被害を与えている。雨は二酸化炭素を溶かしているので弱酸性であるが,pH 3.5 以下の雨を特に酸性雨という。工場などから排出される二酸化硫黄などが雨に吸収されると強い酸性となる。アサガオの花も酸性雨の影響を受ける。アサガオのように花弁が薄く,比較的水に濡れやすい表面構造をもった植物で酸性雨による脱色が見られるのである。特に青色の花弁に酸性雨が滴下すると斑点状の脱色斑がよく見える。

 環境汚染物質に敏感に反応する指標植物は汚染物質の作用のしくみを解明することにも役立っている。しかし何と言ってもスカーレットオハラのような感受性の高い植物が正常に生きられる環境をつくることこそ地球生態系を持続するために最も望ましいことである。



文献
  1. 調査委員会編 (1975) アサガオによる光化学スモッグ観察全国調査結果報告, 全国都道府県・読売新聞社.
  2. 調査委員会編 (1976) アサガオによる光化学スモッグ観察全国調査結果報告, 全国都道府県・読売新聞社.
  3. 調査委員会編 (1977) アサガオによる光化学スモッグ観察全国調査結果報告, 全国都道府県・読売新聞社.
  4. 米田芳秋 (1995) アサガオ 江戸の贈りもの −夢から科学へー, 裳華房.



Edited by Yuuji Tsukii (Lab. Biology, Science Research Center, Hosei University)