アサガオの種子
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米田 芳秋
中国の本草書「神農本草経集註」は 5 世紀頃にまとめられたもので,牽牛(アサガオ)の牽牛子(その種子)が下剤や利尿剤として利用されると書いている。漢方薬として奈良時代に日本に伝えられたと推定されるが,平安時代の「古今和歌集」(903 年)には,「けにごし」を詠んだ歌があり,「延喜式」(927 年) の典薬寮の雑給料中にも牽牛子が出ている。「本草和名」(918 年) には牽牛子の和名は阿佐加保(あさかほ)であると書いている。花が大きくて目立つので,次第に美的な価値が認めらたのである。
中国からの渡来以後,日本でも種子粉末を漢方薬として栽培され現在に至っている。下剤作用については「今昔物語」(1077 年頃) におもしろい話が出ている。
アサガオ種子中の薬効成分については 19 世紀末にヨーロッパで研究が始まったが,その後日本で研究が進んだ。種子から抽出された樹脂配糖体はファルビチンと命名された。ファルビチンをアルカリ加水分解すると配糖体酸のファルビチン酸とメチルブチル酸,チグリン酸,ニール酸という 3 種類の有機酸がとれる。ファルビチン酸を酸加水分解すると単糖類のグルコース,ラムノース,キノボースと脂肪酸メチルのイプロール酸メチル類がとれる。近年の研究によると,ファルビチン酸は 3 種類の単糖が複雑に結合したものがイプロール酸メチル類と結合したものであることが分かったきた。ファルビチンは体内で加水分解されてアルカリ塩となり,大腸を収縮させて下痢を起こすといわれている。
アサガオの種子では貯蔵物質は子葉にあり,ファルビチンもここに溜まっている。アサガオの子葉を陽にかざしてみると点々と透けてみえるところがあり,これが巨大な細胞であることを和田清美ら (1981) が確かめており,ここに樹脂配糖体ファルビチンが含まれていると推定している。
文献
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Edited by Yuuji Tsukii (Lab. Biology, Science Research Center, Hosei University)