はじめに
コンピュータネットワーク(インターネット)上で情報を公開する場合,印刷における紙数制限のようなものはない。また,文字や画像だけでなく動画や音声など,ディジタル化できるものであれば何でも扱える。このため,ネットワークは,従来の印刷媒体では扱いきれなかった学術情報(学術標本や実験データなどの素材情報)を公開する有効な情報媒体となりうる。しかし,現状はなかなか期待通りとはいかず,ネット上での学術情報の公開は盛んではない(参照:「ユニバーシティ・ミュージアムの設置について」平成8年, 学術審議会 報告)。
その最大の原因は,現在のネットワークには,学術情報を公開する媒体に必須の要件が備わっていないことにあると考えられる。その要件とは,公開された情報に対して1)その学術的価値を評価し,2)一定の評価が与えられたものを恒久的に保存する,という社会的機能(ないしシステム)である。印刷媒体にはこれらが具わっている。すなわち,学術情報が公開される際には,多くの場合,事前に内容の評価が行なわれ,学術的価値の認められたもののみが掲載される(そしてそれは研究者の"業績"となる)。また,出版された学術雑誌は大学図書館等で恒久的に保存されることで研究の継続性が保証される。このような評価と保存のためのシステムがネットワークにはないのである。
印刷メディアとネットメディアにおける学術情報の流れ
ネットメディア上で発信されるのは印刷メディアとの競合から素材情報が中心になると思われる