HANDBOOK OF PROTOCTISTA

eds; Lynn Margulis, John O. Corliss, Michael Melkonian, David J. Chapman

Jones and Bartlett Publishers, Boston, Copyright, pp. 914, 1990

Introductionより

(注:以下の文は、かつて草の根パソコン通信「PBBS」なるものを稼働させていた頃に作成した文章です。参考としてここに置くことにしました(月井)。)

 


え〜、以下に長々と示しますのは、昨年出版された"HANDBOOK OF PROTOCTISTA" という本(A4以上のサイズで914頁もある)の巻頭部分に共生進化説で名高いLynn Margulis博士が書いたIntroduction の部分訳です。

私は先日、理研からの依頼でProtozoa.DataBaseに関する資料の整理を行なったのですが、そこであらためてProtozoaなる用語が学術的には死語になりつつあること、そして、その替りとして Protista ないしProtoctista なる言葉が用いられるようになったことを認識しました。

Protozoaが学問的には死語だというのは、これが旧来の動物、植物の区分を生物分類の基本とする習慣から産まれた言葉であること。しかし、現実には鞭毛虫(あるいは鞭毛藻類)などのように旧来の分類ではうまく分類できないことなどから明かなのです。

そこで専門家たちはよく知られた五大分類というのを提唱して動物、植物、菌類を区別し、そしてそれらにうまく当てはまらない真核生物(多くは微生物)を原生生物としてまとめることになった訳です。

(ですからこのBBSも学問的には Protozoa.BBS でなく Protista.BBSあるいは Protoctista.BBS とすべきなのです)

と、そこまではいいのですが、フト気がついたのは専門書ではProtistaの他にProtoctistaという用語も頻繁にでてきていて、私がその違いをよく理解していないことでした。そこで、これではイカン!と思いこの本を読んでみたのですが、それでやっと理解できました。

すなわち、以下の部分訳でも示しますが、Protoctistaという用語は動物、植物、菌類の多細胞真核生物以外のすべての真核生物を含めるのです。(なぜそうすることが適切かは以下の訳を読んで各自考えてください。)そして、Protistaといのはその中で顕微鏡を使わなければ観察できないくらいの大きさのものをさす便宜的な言葉として定義されていたのです。

無論、これはMargulisら真核微生物の分類を専門に行なっているグループの見解であり、すべての生物学者が受け入れた見方ではまだありません。

しかし、そこですこしなさけなくなったのは、日本ではこれらProtistaとProtoctistaに対応する正式な日本語の用語がまだできていないことです。「原生生物」という言葉はありますが、これはあくまでホイッタカーの五大分類の中ででてくるProtista(単細胞真核生物)をさす言葉なはずです。

しかし、欧米の連中はすでに単細胞と多細胞のちがいを分類の基本的基準とするのは誤りだ(理由;らん菌や粘菌のように多細胞にもなるProtistaがいるので、、、)として使用せず、新しい視点で分類を行なおうと試みているのです。

う〜、おいてかれてしまいそう!


"HANDBOOK OF PROTOCTISTA"

Editors: Lynn Margulis, John O. Corliss, Michael Melkonian, David J. Chapman

Jones and Bartlett Publishers, Boston, Copyright 1990


Introduction

1. For whom this book is intended; Protoctistsの関心のある研究者、教員、学生のためにこの本は書かれた。

Protoctists = the eukaryotic microorganisms and their descendants (exclusive of the animals, fungi and plants) そうなんです。後でもでてきますが、Protoctistsというのは単細胞の真核微生物だけを含むのではないんです。

2. How many protoctists are there? 現在までに知られているのは10万種以上。未知のものはこれ以上にあると推定される。

3. There are no single-celled animals or plants 多くの科学者には、いまだに原生動物や藻類を動物、および植物界(Kingdom)のなかのひとつの門(Phylum) として扱う慣習が残っている。しかし、、、These organisms are no more "one-celled animals and one-celled plants"than people are shell-less multicellular amebas.

そうなんだ。本当はまったく逆で、Protoctistsの多様さからみたら我々動物なぞは多細胞化したアメーバの一群にすぎないのだ!

4. Like lichens, all protoctists are co-evolved microbial symbionts.

訳注;これは著者の Margulisの真骨頂を表す部分今日では定説となりつつある共生進化。Protoctistsの中にもたくさんの光合成をする仲間がいるが、その起源は単一ではない。したがって、たんに光合成色素をもつからという理由だけでおなじ植物の仲間に入れることはできない。Indeed, In many groups of algae (e.g., euglenids, prasinophytes, chlorophytes and conjugating green algae) it is guestionable that the heterotrophic hosts are directly related to each other. という訳だ。

5. Terminology: flagella/undulipodia, flagellate/mastigoteこれは以前からあった混乱を正すためにMargulisらが提唱しているもの。

鞭毛という言葉がこれまでは真核生物のそれとバクテリアのそれとに使われてきたが両者は構造的にみてまったく別のもの。そこでより構造が複雑で多様性のみられる真核生物の鞭毛(これがたくさん生えていると繊毛になる)のほうを総称して波動毛(Undulipodium)と呼ぼうということ。

6. Undulipodia, sex and the four groups of phylaその波動毛を有性生殖の有無、などからProtoctists は4つのグループに大別できる。

I No Undulipodia; Complex sexual cycles absent

II No Undulipodia; Complex sexual cycles present

III Reversible Formation of Undulipodia;

Complex sexual cycles absent

IV Reversible Formation of Undulipodia;

Complex sexual cycles presentという訳だ。

7. Kinetids, sexual life cycles and chapter order

 省略

8. Kingdom ProtoctistaProtoctistaには非動物、非植物、非菌類であるすべての真核生物が含まれる。それは有名なWhittaker(1959)の五大分類のひとつとして位置づけられる。(ただし、Whittakerの考えとは一部異なる)非動物、非植物としてのProtoctistaという言葉は Hogg (1861)によって初めて使用された。しかし、今日あるのはH.F. Copeland 博士の分類(1956)を受け継いだものだ。ただし、博士の分類では菌類をもProtoctistaの中に入れており四大分類となっている。

五大分類を初めて提唱したのは記述既述したがWhittaker(1959)だ。ただし、WhittakerはProtoctistaの替りにProtistaという言葉を用い、単細胞と多細胞の違いを基本的なものとみて分類を行なった。しかし、それは false dichotomy であるので受け入れられない。

9. How many kingdoms of organisms should be recognized?Protoctista をいくつのグループ(界, Kingdom)にわけたらいいか?最近の研究では古細菌の例のように分子生物学的研究の進展から真核 vs. 原核の基本的区別さえも訂正を迫られるようになってきた。

Carl Woese らは Archaebacteria, Eubacteria, Eukaryotes の3つをprimary kingdomsとするように提唱している。彼ら分子生物学者は遺伝子の進化全体から系統樹を作成していこうとする。そして、そこでは遺伝子は単純に系統が分岐してからの時間に比例して変化していくと推定している。しかし、微生物の世界では異なる生物群の間で遺伝子の交流、そして組み変えがかなり頻繁にみられることを無視してはならない。地質時代に起きたと同様な仕方でより太古の微生物の進化も起きていたかどうかは甚だ疑問だ。

10. Kingdom criteriaすべてのProtoctistsには原核生物の祖先がいたこと、そして、Protoctistsの一部から多細胞の動物、植物、菌類らが進化したことについてはすべての生物学者の意見は一致している。

動物の化石は7億年前からみられ、菌類のそれは4億年前のものが知られている。植物も古生代の後半から化石が見つかっている。(注意;植物のほうが動物よりも後になっているが、これは多細胞の陸上植物が登場した時期を示している)

11. Invalidity of nutritional criteriaPhototrophic animals (e.g., Convoluta roscofensis) and hetero-trophic plants (e.g., Monotropa) が知られている。だから、光合成をするかどうかで生物を分類するのは不十分だ。実際、Protoctistsが栄養を手に入れる方法は多様であり、あらゆる組み合わせのものが知られている。

12. Size and multicellularity: Protoctist vs. protistProtoctista には様々なサイズの生物が含まれる。小さなものには数ミクロンのサイズしかないmicromonads, chlorellas, Nanochlorum (Zahn, 1984)などがある一方で、giant kelps のようにその10,000,000倍ものサイズのものもいる。

植物学者などはこれらの大きなサイズのものを"protists"に含めることに反対する人もいるだろう。たしかに、protistsという言葉は以前はバクテリアなどを含めたこともある。

したがって、ここではprotistという言葉はprotictistaの中で顕微鏡を使わなければ見ることのできないグループに対して非公式な名前として用いることにする。

多細胞のものはProtoctistsを含めてすべての生物界にみられるので単細胞-多細胞という見方でprotoctistsを区別することはできない。

多くの原核生物、およびprotistの系統の中には多細胞の状態をとるものがたくさん知られている。(e.g., cyanobacteria, myxobacteria, actinobacteria, ameba-slime molds, diatoms, chrysomonads, and so forth)他の3界についてみると菌類の酵母を例外としてすべて多細胞である。

13. Organization of this book<本の各章の構成の説明;省略>

14. Polyphyly and anastomosing branches on family trees細胞質を含む本体部分、ミトコンドリア、プラスチド(含;葉緑体)、これらはもともとは別の生物だったものが合体して今日のphotosyntheticprotoctists を作った。もし鞭毛や細胞分裂装置なども共生によるとする見方が正しければ4つの生物が合体したことになる。系統分類を考えるときにはこれらの Polyphyly についても充分注意を払う必要がある。(訳注;すべてが単一起源だとはかぎらない。4つの組み合わせにはいろいろあったかも知れないのだ。)

15. International recognition of protoctistsProtoctistsの中には標本を残すことのできるものもいるが、中にはアメーバのようにそれが無理なものは実験室のなかで培養されるものもある。染色標本もいいだろうが、一番いいのは顕微鏡映像で記録を残すことだ。

しかし、すべてのProtoctistsに適用するわけにはいかないから、現実的には写真撮影で記録を残すことになる。

いずれにしても今後、標本の保存等は最近できたInternational Scoiety of Evolutionary Protistology (ISEP)を通じて国際協力していきたい。

16. Acknowledgements and apologies<省略>

by Lynn Margulis

References