公開講演会:生物多様性研究・教育を支える広域データベース

GBIF及びその国内対応
http://ant.edb.miyakyo-u.ac.jp/HTMLS/INDEX.HTM
菊池俊一(科学技術振興事業団・GBIF技術専門委員会事務局)

GBIFの紹介

 GBIF (Global Biodiversity Information Facility=地球規模生物多様性情報機構) は,「世界中の生物多様性に関するデータを集積し,誰でも,何処からでも,自由に利用すること」を目的として,2001年(平成13年)に発足した国際科学プロジェクトです。

 その活動により,動物,植物,微生物,菌類など広範な生物種の生物標本データから遺伝子配列情報,タンパク質データ,生態系データ,地理的データなどの相互運用と利用が可能になることが期待されています。

 1990年代に行われた「生物多様性条約」の議論の中で,各国の政府は生物多様性情報の基盤整備の必要性を知り,まずオーストラリアと米国が,そしてカナダ,英国,メキシコが調査研究資金の献金を行いました。米国は1996年1月,経済協力開発機構(OECD)メガサイエンスフォーラムに生物多様性情報を含む生物情報のワーキンググループの設置を提案し,その後の3年間以上にわたる専門家による検討やOECD科学政策委員会での議論を踏まえ,2001年3月にGBIFは政府・機関・組織間の覚書にまとめられ,機構が正式に発足しました。

 2001年11月に事務局がデンマークのコペンハーゲン大学の付属動物博物館に設置され,事務局長には米国のジェームズ・エドワーズ博士(元・米国立科学財団生物化学局次長)が就任しました。2002年10月現在,理事会での投票権のある正式加盟22カ国のほか,投票権のない準加盟11カ国,15機関・組織が参加しています。運営は,各国からの拠出金(2003年予算額3,417,000米ドル,負担割合はGDP による。日本は米国と共に最高額の70万米ドル/年を負担)で行われています。

 プロジェクトは,約180万種を超える学名を持つ全生物の約 9割以上をカバーする,地球規模での全生物のデータのディジタル化を進め,インターネットで閲覧できるシステムの実現を目指しています。

具体的には「ビジネスプラン」に目標が示されています。

(1) 各国,各機関にある生物多様性データベースのリンク

(2) データベースの標準化

(3) データベースの構築の推進(各国,各機関がそれぞれ努力してデータベース化を目指す)

(4) 発展途上国におけるデータ収集とデータベース化の支援

(5)生物多様性情報学の分野において優れた研究成果を挙げた若手研究者の表彰(ニールセン賞)を行い,国際的な研究活動を財政面で支援

 GBIFは「世界中に存在するすべての生きものを記載する」というプロジェクトです。また,生きものの記載はGBIFに参加する各国・地域のノードが担当することとなっています。

 初年度(2002年)にGBIFでは,次に示す活動に取り組みました。

● DIVERSITASやSpecies2000,GTI(the Global Taxonomy Initiative)など生物多様性条約の地球規模関連活動との連携を実現

● 生物多様性の情報拠点として加盟国にGBIFノードをそれぞれが設け,それらを接続するための検討に着手

● GBIF活動計画を検討するため,科学者,専門家が参加する4つの科学技術アドバイザリーグループ(データアクセスとデータベースの相互運用性,既知生物名の電子カタログ化,自然史標本データのディジタル化,未参加国への働きかけと人材育成)によるワークショップを開催。また,GBIFでのデータ提供を促進するためデータベースの項目案の検討。

 2003年度には,以下の6分野でプロジェクトを,総額約250万米ドルの予算で実施します。

● GBIF情報システムの確立

● 生物多様性データベースの相互運用基準の開発(DADI)

● 既知生物体名称の電子カタログを完成させるための支援(ECAT)

● 自然史標本データのディジタル化の促進(DIGIT)

● 未参加国・組織の取り込みと知的能力の向上のための計画に向けた基盤の準備(OCB)

● GBIF参加者ノードの開発とGBIFとデータベースの提携を実現するためのツールおよび接続仕様の提供



国内体制と主な活動

 日本では,生物多様性条約を踏まえて具体的な取組みを行うため「地球環境保全に関する関係閣僚会議」において,平成14年3月27日に「新・生物多様性国家戦略」を決定しました。GBIFの活動は,多数の府省,機関の業務に関わるため,GBIFの運営,活動に係る諸問題の連絡・調整を図るため,外務省を事務局とする「GBIF関係省庁連絡会議」が設置されています。

 科学技術振興事業団では,文部科学省からの要請に基づき,以下の業務を担当しています。

(1) GBIFの活動及びこれに関連する重要な事項について,専門家が科学的見地から調査・審議を行い,意見を述べる組織として「GBIF技術専門委員会」(委員長:岩槻邦男 放送大学教授)と「科学分科会」(主査:伊藤元己 東京大学大学院助教授)を設置して,その事務局として活動します。

(2) GBIFと我が国の覚え書きに基づいて分担金70万米ドルを拠出するとともに,GBIFに対して可能な範囲で必要な貢献を行います。

 また,GBIF参加国は,国内の標本データベースの整備を行い,GBIFノードとして公開し,GBIFの中央ノードとの連携を行わなければいけません。対応するため以下に取り組んでいます。

(4) また,我が国における生物多様性情報の流通促進として:国内の博物館や学術研究機関の協力を得て,既存の生物標本データベースの調査,データベース化されていない標本・試料の調査とディジタル化に着手しました(表2)。

(5) 今後は日本分類学会連合などの国内関係組織・機関と連携・協力の下に,インターネットを通した国内外へのGBIFの情報発信,生物多様性情報に関する調査,標本データベース化の推進などの活動に取り組んでいきます。

表 2

2002年度データベース作成課題
A)菌類・地衣類データベース構築

プロジェクト代表者:松浦啓一(国立科学博物館 動物研究部)

 菌類の統括:土居祥兌(国立科学博物館 植物研究部)

 地衣類の統括:柏谷博之(国立科学博物館 植物研究部)

作成協力機関

独立行政法人森林総合研究所,筑波大学,京都大学,千葉県立中央博物館,山口大学,神奈川県立生命の星・地球博物館,理化学研究所,(株)エヌシーアイエムビー・ジャパン

B)植物多様性情報データベースの開発・構築

プロジェクト代表者:伊藤元己(東京大学大学院総合文化研究科)

 維管束植物の統括:伊藤元己(東京大学大学院総合文化研究科)

 蘚苔類の統括  :岩月善之助(財団法人服部植物研究所岡崎分室)

 藻類の統括   :川井浩史(神戸大学神戸大学内海域機能教育研究センター)

作成協力機関

京都大学,神戸大学,広島大学,東北大学,千葉大学,東京都立大学,名古屋大学,九州大学,独立行政法人国立環境研究所,独立行政法人国立科学博物館,財団法人服部植物研究所

2002年度データベース化検討課題
C)日本産無脊椎動物データベースの作成

プロジェクト代表者:馬渡駿介(北海道大学大学院理学研究科)

D)高品質画像による生物標本データベースの構築

プロジェクト代表者:今井弘民(総研大/国立遺伝学研究所)

「高品質画像による生物標本データベースの構築」の総括:今井弘民(総研大/国立遺伝学研究所)

「東南アジア産アリ類データベース構築」の総括:山根正気(鹿児島大学理学部)

「シーボルト収集動植物標本データベース」の総括:上田恭一郎(北九州市立自然史博物館)

E)無脊椎動物の生理機能の多様性に関するデータベースの開発

プロジェクト代表者:道端齊(広島大学大学院理学研究科附属臨海実験所)

「特殊な生理機能を有する海産動物のデータベースの開発」の総括:道端齊(広島大学大学院理学研究科附属臨海実験所)

「無脊椎動物の神経細胞データベース」の総括:木原章(法政大学第一教養部)

F)微生物多様性情報データベースの構築

プロジェクト代表者:月井雄二(法政大学第一教養部)

「微生物ディジタル標本データベースの構築」の総括:月井雄二(法政大学第一教養部)

「原核生物化学分類基礎情報データベースの構築」の総括:鎌形洋一(産業技術総合研究所生物遺伝資源研究部門)

「原生動物及び微小後生動物の環境浄化・指標性のバイオ情報データベースの構築」の総括:稲森悠平(国立環境研究所・循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)