アサガオIpomoea nil の 13 系統について各形質を比較検討してみよう。種子は黒色で,胚軸には赤みがあり系統により濃淡の違いがある。胚軸上半部と子葉柄の表皮毛はコロンビア Y023, Y024で多いが,TKS,アフリカ,ブラジル,メキシコではほとんど見られないかわずかにある程度である。
葉は3尖状で形の変異が大きい。著者は葉形を5型に分けた。日本で昔から常葉とか並葉と呼ばれるものは主裂片の幅がアサガオの中では狭く,これを主裂片細型と呼ぶ。TKS, ネパール,フィリッピンはこの型である。アフリカの葉は洲浜状葉と呼んできたが,これは主裂片の幅が広く,伸びないことで生まれる葉形と考えられるので,これを主裂片幅広型と呼ぶことにした。アフリカの他にブラジル,メキシコ,イランの葉がこの型である。細型と幅広型の中間型がコロンビアY023,Y024,Y025,オーストラリアでみられる。第4番目の葉形はコロンビアY026に見られる特殊な形で,ごく微小な側裂片を持ち,全体としては丸葉状で,葉がやや細長くなることがある。この型を側裂片微突型と呼ぶ。第5番目の型は北京天壇の型で,裂片が三角状となっているので三角型と呼ぶ。この型はアサガオ葉の第1葉,第2葉などの幼若期に出る葉の形と似ている。
葉色は緑の濃いアフリカ系統から割りと黄みが強いイラン系統まで様々である。
花のサイズは花径5~6センチが普通だが,オーストラリアのY028系統はやや大きい。 花の形は漏斗状が普通であるが,コロンビアのY026系統は花径が小さいので全体としてやや細長い形となる。
花色はTKSとメキシコ Y030は青色に紫みが入るが,他の系統は青色であり,濃淡が差がある。かなり薄い青の系統としてはアフリカ,ブラジル,コロンビアY025,オーストラリアがある。花が萎れてくるといずれの系統も赤み色に変わる。花筒に色がついているのはTKSだけで,この系統は栽培アサガオから選抜したものなので選抜親の性質を受け継いでいるのであろう。
アサガオの花序は岐散状(dichasium)で,頂花の2枚の包葉腋にそれぞれ1花,さらにその包葉腋に次の花がつく。しかし1花梗に5花を観るのは稀である。1花梗につく花が1だけの系統はフィリッピンとイランで, 普通は1花で,2花もみられるものとしてはTKS,北京天壇,ネパール,オーストラリア, メキシコがある。花梗当たりの花数が多い系統としてはコロンビアのY023, YO24,アフリカで,1花梗あたり2~4花がかなり見られる。これに次ぐのがブラジル,コロンビアのY025, Y026である。
これらの形質の中で,南アメリカのコロンビア4系統,ブラジル,アフリカ系統では花梗当たりの花数が多いが,これは原始的な性質を残すものと考えられる。また葉形に関してはコロンビアのY023,Y024,Y025とオーストラリアの主裂片中間型からTKS,ネパール,フィリッピン系統の主裂片細型とブラジル,アフリカ,メキシコ,イラン系統の主裂片幅広型が分化していったと考えていいかも知れない。これらの3尖葉とコロンビアY026の側裂片微突型との関係は分からない。子葉が胚軸につながる子葉柄から胚軸上部にかけて表皮毛がみられる。コロンビアのY023, Y024の子葉柄はかなり多毛で,逆にTKS, アフリカ,ブラジル,メキシコ系統は非常に少ないかほとんど無い。これらの点を考慮に入れるとコロンビアのY023, Y024系統はアサガオの起源に関して興味深い系統ではないかと著者は考えている。
形態的な性質のおいて,系統間でかなりの変異が見られたので,特にアフリカ,ブラジル系統との関係をみるために系統間交配を行った。予備的な結果であるが,アフリカ,ブラジル系統を含めた大部分の組み合わせで結実することが分かった。
静岡の自然条件で栽培して,早咲の系統は中国系北京天壇,イランで,普通咲は東京古型標準型TKS,ネパール,フィリッピンであり,アジア,中東地域の系統である。他は極遅咲で,アフリカとブラジル系統は9月中旬以降に開花を始める。メキシコ Y030は10月初旬に開花した。オーストラリアとコロンビアの4系統は10月に入って蕾が確認されたのみである。これは各系統の原産地と静岡の間の緯度を含めた自然条件の違いを反映するものであろう。